男子プロレス団体・DDTに所属する唯一の女子レスラー、赤井沙希。身長174cm、53kgのスレンダーな彼女がひとり、筋骨隆々の男子レスラーたちに混ざって闘う様はあまりにも可憐で美しく、ファンの心を掴んで離さない。 17歳からモデル、女優、…

 男子プロレス団体・DDTに所属する唯一の女子レスラー、赤井沙希。身長174cm、53kgのスレンダーな彼女がひとり、筋骨隆々の男子レスラーたちに混ざって闘う様はあまりにも可憐で美しく、ファンの心を掴んで離さない。

 17歳からモデル、女優、タレントとして活躍していたが、2013年8月18日、DDT両国国技館大会でプロレスデビュー。翌年12月、東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」で、女子初の新人賞を受賞した。

 華々しくスタートした、プロレス人生。しかしそれをよく思わない人たちもいた。


自身のプロレスラー人生を振り返る赤井沙希

 photo by Hayashi Yuba

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「最初はものすごくバッシングされました。プロレス大賞・新人賞をいただいた時は、『タレント活動してれば獲れるのか。"ビジュアリスト賞"に名前を変えたほうがいいんじゃないか』とか。SNSにも攻撃的なDMがめっちゃきました。『世Ⅳ虎(現・世志琥)にボコボコにされて、顔が変わるのを楽しみにしてます』と言われたこともありましたね」

 女子プロレス団体からも嫌われ、女子レスラーの集合写真を撮った時、赤井だけ切り取られたこともあった。未だに、男子の団体でチヤホヤされ、お高くとまっているように見られてしまう。

「チヤホヤはされてないんですけどね。最初の1年くらいはゲストとして扱われてたけど、今じゃあもう、後輩もタメ口をきいてくるし、『ねえ、おばさん』とか言われるし」

"唯一の女子レスラー"ならではの悩みも多い。女子の控室がない時は、トイレで着替えなければいけない。化粧直しができない。生理の時にだれにも言えない......。

「バス移動はきついので、自腹で新幹線に乗ったりします。以前、バスの中でお化粧してたら、デビュー2年目くらいの上野(勇希)くんがめっちゃ見てきて、『そんなとこ描くんですね』とか言われて、めっちゃウザかったです(笑)」

「〇〇選手とつき合ってるんでしょ」「〇〇選手のファンだから近づいたんでしょ」とファンに叩かれることもあった。だから、若い選手とはなるべく距離を置くようにした。自分が叩かれるのはいいが、自分のせいでみんなに迷惑を掛けてしまうのがつらかった。

 そんな赤井を可愛がったのが、坂口征夫、高梨将弘、KUDOたち。赤井が「ファンの方に見られるかもしれないから、離れたほうがいいです」と言うと、「そんなもんで俺たちの人気が終わったら、それまでだよ」と言われた。プロレスラーとして認められた気がして嬉しかった。

【愛するDDTのパーツになりたい】


バッシングに負けずリングに上がり続ける

 写真/DDTプロレスリング

 赤井はバッシングに負けず、着実にキャリアを積み重ねていった。得意の打撃を磨き、男子レスラー顔負けの激しい闘いを繰り広げる一方、男色ディーノやヨシヒコといったエンターテイメント性の高いレスラーたちとも対戦し、プロレスラーとしての幅を広げた。

 しかし、当時の赤井はあくまで「オスカープロモーション所属」。愛するDDTの「パーツになりたい」と思っていたが、そう思っているのは自分だけではないかという不安もあった。

 2018年10月、DDTドラマティック総選挙で9位にランクイン。スピーチで「DDTの所属にしてください」と高木三四郎社長に直訴した。高木はこれを快諾し、晴れてDDT所属となる。

「結婚して、名字が変わったような気持ちでした。ずっと『私たちってつき合ってんの?』みたいな感じだったのが、ちゃんと籍を入れた、みたいな。オスカー所属やけど、名乗る時は『DDTプロレスリング所属の赤井沙希です』って言えるんやぁと思って。デレッデレでしたね」

 2020年1月には、坂口征夫、樋口和貞と共に、新ユニット「Eruption(イラプション)」を結成した。

「DDTはバチバチとした闘いだけじゃなくて、アイディアの団体だと思っているんです。『何これ?』と思ってもらえる楽しい試合をどんどんやっていきたい。いろんなDDTを見せたいという意味で、私にとって坂口さんと樋口君は大事なパートナーです」

 2014年1月、デビューして4戦目で、赤井は世Ⅳ虎に初黒星を喫した。「私はただのでくの坊だ......」とひどく落ち込んだ。打撃を伸ばそうと思い、打撃が得意な坂口のもとを訪ねた。蹴りを教えてほしいと頼むと、坂口は「自分は見ると決めたらちゃんと見ます。厳しいですけど、ついてこられますか?」と言った。

「怖かったです、契りを交わしたみたいで(笑)。実際に厳しくて、何度も泣かされました。でも責任感のある方で、ちゃんと教えてくださる。お父様も偉大(坂口征二)で、私と似た悩みを抱えていたこともあるみたいです。そういった意味でも絆がありますね」

【美しくありたいと思う理由】

 2019年11月、「赤井沙希"おきばりやす"七番勝負」がスタート。藤本つかさから始まり、翌年7月の最終戦でついに"女子プロレス界の横綱"里村明衣子とカードが組まれた。

「痺れましたね。里村さんって、身長は小さい(157cm)ほうだと思うんですけど、オーラでめっちゃ大きく感じるんですよ。その里村さんに試合でボコボコにされながら、頭のどこかで『私は間違っていなかった』と思いました。強い女性は美しいとずっと思っていたんです。里村さんの、強さの中にある凛とした美しさには憧れますね」

 赤井は子供の頃から、美にこだわりを持っていた。プロレスラーになってから、ますます「美しくありたい」という思いが強くなった。彼女にとって、美しさとはなんだろう。

「DDTで女子は私ひとりなので、そういう目線で注目されることがある。そんな私がだらしなかったら、全体の評価が下がると思うんです。逆に、マッチョなレスラーの横にキレイなお姉ちゃんがいたら、『なに、この団体?』ってなるかなと。だから美しさという点は気をつけています。DDTが人気を上げていく過程で、私が持っているものを全部使ってもらえたらと思っています」

 美しいといえば、「赤井と同一人物か」と思えるほど"似ている"沙希様だ。東京女子プロレスの"醜い"選手たちを粛清し、美を広めるためにフランスからやってきた沙希様。今はコロナ禍でフランスに帰ることができず、ホームシックに陥っている。

「私も沙希様くらい自信が持てたらなと思う。周りにも言われるんですよ。『なんで赤井沙希ちゃんはもっと堂々とできないの?』って。いつも何かに焦っているし、人に対しても『傷ついてないかな?』『迷惑かけてないかな?』と考えちゃいますね」

 キャパシティーが狭いなと、常に感じている。自分の個人的な時間がないとストレスが溜まり、病みがちだという。そういう時、キレイなものを見ると心がスーッとする。自分もファンにとって、そういう存在になりたい。美しさを追求することで、だれかの力になりたいと赤井は考えている。

【「キャリアベストバウト」と評されたクリス戦】

 今年5月4日、DDT EXTREM級王座、及びアイアンマンヘビーメタル級王座を賭けて、王者クリス・ブルックスと対戦した。女子と男子の一騎打ち。EXTREM級王座の試合形式は王者が決めることになっているが、クリスは対女子プロレスラーの特別なルールを設けず、あえて「通常ルールのプロレスにしよう」と提案した。赤井が勝っても負けても、そのルールがあったからだと言われるのが自分にとって本意ではないと。

「クリスは私を、女子という目線で見ていないと気づいて、すごく嬉しかったです。私はずっとこういうふうに見てほしかったんだなって思いました。試合前から、クリスのことをリスペクトしました」

 結果は負けてしまったが、かつてないほどの熱い闘いを繰り広げ、赤井のキャリアの中でベストバウトと評された。

「クリスとはもう一度やりたいです。リベンジもしたいですし、クリスがDDTを選んでくれて本当に感謝している。クリス自身もDDTになじもうとしてくれたのもあるけど、クリスがいてこそDDT。大事なパーツの一部ですね」

 2013年にプロレスデビューした赤井沙希。最初は半年だけのつもりだった。それが1年だけ、2年だけと延びていき、今年、キャリア8年になる。決して、平坦な道のりではなかった。バッシングもされた。女性ならではの悩みもある。しかし、だれよりもプロレスを愛し、そしてDDTを愛している。

 赤井沙希はあくまでDDTの華。それ以上の存在ではない――。私の心のどこかにあった先入観が、「DDTという形のないものを好きになってしまった」と嬉しそうに話す彼女を見てぶち壊されたのだった。

【プロフィール】
@SakiAkai