マンチェスター・ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督は、アンタッチャブルな存在なのか──。マンチェスター…

 マンチェスター・ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督は、アンタッチャブルな存在なのか──。



マンチェスター・ユナイテッドのスールシャール監督

 10月24日(現地時間)のプレミアリーグ第9節で、ユナイテッドはリバプールにホームで0-5と屈辱的な敗北を喫した。データ会社『Opta』によると、これはこの長年の宿敵に喫した黒星で史上最悪のものだという。また本拠地でそのスコアで敗れたのは、1955年のマンチェスター・シティ戦以来となる。歴史的な大敗だ。

 ただこれは、ある程度、予想できた結果でもある。ユナイテッドはこの一戦を迎えるまで、過去3試合のリーグ戦で1分2敗(3得点6失点)。特に守備の脆さが声高に指摘されていた。

 対するリバプールは同じ期間、1勝2分(10得点5失点)。そのようにして迎えた伝統の一戦で、ユナイテッドは前半までに0-4とされ、後半には絶好調のモハメド・サラーにハットトリックとなる追加点を決められ、以降はライバルに憐憫(れんびん)をかけられていたようにも見えた。リバプールが最後までフルスロットルで戦っていたら、きっと5点差では済まなかっただろう。

 これほど苦戦が続き、極めつけの恥辱を味わってもなお、スールシャール監督は解任されていない。チェルシーあたりなら、間違いなく、すでにクビが飛んでいるはずだ。同じクラブOBの指揮官でも、フランク・ランパードは昨季、チェルシーの監督の座を追われている。彼の在任期間は、約1年半だった。かたやスールシャールはこの12月で、在任4年目を迎える(最初の約3カ月は暫定監督)。

 確かにこのノルウェー人指揮官は就任当初、前任者ジョゼ・モウリーニョに汚されていたクラブの空気を一変させ、即座にチームの調子を上向かせ、ユナイテッドではサー・アレックス・ファーガソン以来のリーグ月間最優秀監督にも選出された。

 だがその後は、ことあるごとに戦術的な指導力の低さを指摘されている。リーグ戦の成績こそ、6位、3位、2位と上向いているものの、チームをトップ中のトップレベルに引き上げる能力を備えているかについては、常に疑念を持たれてきた。

 またこのオフには、ジェイドン・サンチョ、ラファエル・バラン、クリスティアーノ・ロナウドら、豪華な補強を施してもらった。戦力的には、欧州のエリートクラブのどこにも引けを取らない。それだけに、もし超一流の監督が指揮を執れば、どれほど強いチームになるだろう、と嘆きにも似た声が聞こえてくることもある。

 それでもなお、現役時代に"童顔の暗殺者"と呼ばれた48歳は、名門の指揮権を失っていない。その理由は、いくつかありそうだ。

 まずは「ミスター・ナイスガイ」と呼ばれるその人柄にある。その前向きで柔らかい性格は、選手やコーチ、フロントはもちろん、クラブの全スタッフから親しまれているという。例えば、キットを用意する係や掃除夫らにも快活に挨拶をし、誰とでも分け隔てなくコミュニケーションを取るらしい。

 そして何より、彼は御大ファーガソンの大のお気に入りなのだ。スールシャールは現役時代、1999年のチャンピオズリーグ(CL)決勝で追加タイムに逆転ゴールを決め、かの劇的な優勝劇の立役者となった。

 それはファーガソン監督にとって初のCLタイトルであり、最初で最後の真の3冠(プレミアリーグ、FA杯、CL)だった。それほど重要な功績を直接的に残した教え子をファーガソンは寵愛し、スールシャールの現役晩年から指導のイロハを伝授した。

 またファンの多くも、この期に及んで、現監督をサポートしている。『ザ・テレグラフ』紙によると、指揮官本人が「最も暗い一日だった」と振り返ったリバプール戦後の記者会見を終えると、外にはサポーターたちが待ち構え、写真やサインをねだっていたという。そこには批判的な言葉は一切なかったそうだ。

 これほどまでに愛されている"バンビ"(英国で愛くるしい人気者を現す際に用いられる表現)の首をはねたいと思う人は、なかなかいないだろう、と同紙は続ける。特に現在、ユナイテッドの運営を任されているエド・ウッドウォード副会長は、春に起こった"スーパーリーグ騒動"の責任を取る形で、今年いっぱいで任務を離れる予定なのだ。自らの最後の仕事として、そんな無慈悲な決断はできないのではないか、とこの保守系高級紙は見ている。

 一方、現在のユナイテッドのクラブとしての体質を問う向きもある。この『web Sportiva』でも過去に何度か報じられたように、2005年にレバレッジド・バイアウト(※買収先を担保に資金を借り入れるもの)という倫理観に反する手法でユナイテッドを買収したユダヤ系アメリカ人一家、グレイザー家は基本的にクラブ経営を巨万の富を生むビジネスとしか捉えていない。

 だから英国随一の名門が、本来の格に見合わない成績を残し続けても、巨額の利益をあげ続けてさえいれば(実にその通りの現状だ)、特に問題視していないだろうと見られている。

 むしろ、圧巻の強さを手に入れて常勝軍団になるより、時に終了間際の得点で劇的な逆転勝利を収めたり、時に不調から不死鳥のように蘇ったりするほうが、"エンターテイメント企業"としては、ファンを獲得しやすいのではないか。『ザ・ガーディアン』紙では、そんな論調で語られることがよくある。

 また決定力は健在ながら、守備面の貢献が少ない36歳のロナウドの存在は、ピッチ上では諸刃の剣と言えるが、彼の帰還は、オーナーの巨額の利益につながっている。

 ロナウドの加入などにより、ニューヨーク証券取引所における『マンチェスター・ユナイテッド公開有限会社』の株価は、8月27日から10月6日までに2.24ドル高くなり、グレイザー家はその日に950万株を売却して、2,130万ドル(約24億円)の利益を確定させたと同紙は報じた。

 地球規模のブランディングを維持する上で、もっとも重要視されているのが、ロナウドとスールシャールだと、このリベラル系高級紙は捉えている。彼らは世界随一のエンターテイメント企業『ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー』におけるミッキーマウスやバンビのような存在だ、とも。

 現在、当地のメディアでは、後任候補筆頭としてアントニオ・コンテの名前が上がっている。しかし、芯が強く軋轢を恐れず、気性の激しい本格的なイタリア人戦術家を、ユナイテッドのフロントは本当に欲しがっているのか。

 今後、トッテナム、アタランタ、マンチェスター・シティと、強豪との試合が続く。あるいはその間に、今のマンチェスター・ユナイテッドが本当に望んでいるものが見えてくるかもしれない。