世界レベルの結果を残しながら、日の目を見られず機会損失をしているケースが少なくない現在の日本のスポーツ界。こうした環境を少しでも変えるため、ソサイチ(7人制サッカー)の普及に取り組んできた青沼広己氏がAthlifes(アスライフス)を立ち上…

世界レベルの結果を残しながら、日の目を見られず機会損失をしているケースが少なくない現在の日本のスポーツ界。

こうした環境を少しでも変えるため、ソサイチ(7人制サッカー)の普及に取り組んできた青沼広己氏がAthlifes(アスライフス)を立ち上げた。同団体は支援を受けたいアスリートと支援をしたい企業のマッチングを行いながら、アスリートの価値を高めて社会に貢献できる人材の輩出を目指している。様々な企業がAthlifesの活動に賛同し支援をしているが、「夢へ向かうアスリートへ!『食』のエールを!」を理念に、アスリートの栄養サポートを行っているA-Stepの代表・足立歩氏もその一人だ。

選手と笑顔でコミュニケーションを取る足立氏

長距離で実績を築くが コンディションで苦い経験も

足立氏は学生時代、陸上競技の長距離選手として活躍。出身はシドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子氏と同じ岐阜県岐阜市。高校も高橋氏と同じ岐阜県立岐阜商業高校に通っていた。
地元も近かったため高橋氏は憧れの存在だった。高校卒業後は実業団チームに進んだものの、1年半ほどで退団。競技の第一線からは退くことになった。
10年間の選手生活。この間に経験した『体調管理の難しさ』がA-Stepを立ち上げたきっかけになった。

「女性スポーツは体重管理の考えが根強く残っています。長距離は体重が軽ければOKという中でやっていたので、私自身かなり無理な体重制限をしていました。
その結果ケガが多く、当時の血液検査を見ても『どうやって走っていたんだろうか』と思うくらい(笑)」
これは足立氏の経験談であるが、残念ながら多くの選手に当てはまる事象だという。 “いかに速く走るか”を誤った方向に突き詰めた結果、疲労骨折や月経不順など身体の不調が日常的に起きているのだ。

陸上の中でも長距離は花形の競技。高校では都大路(全国高校駅伝競走大会)、大学は箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)、そして実業団でもニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)、クイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝競走大会)と、競技の模様が生中継されるほどメディアの注目度も高い。
そのため他種目に比べれば環境は整備されており、足立氏が所属した実業団チームも「衣食住は全てサポートがあり、食事面もパーフェクト。栄養指導も受けられました」と振り返る。
しかし「少し閉鎖的な世界で、選手側の知識が追い付いていません。あえて食べる量を減らす選手もいました」と足立氏。その結果、先述したようにコンディションが整っていないまま練習に臨み、身体の不調が頻発してしまうのだ。

現役時は第一線で活躍(写真は引退後のレースのもの)

新しい考えを普及するため A-Stepを立ち上げる

2017年にA-Stepを立ち上げ、陸上選手やチーム、フィギュアスケート選手を定期的に指導し、さらには講座を開くなど、正しい栄養学の普及に努めている。それでも「『体重が軽ければ良い』という考えは、サポートしている選手やチームの中でも根強いのが現状です」と話す。
正しい考えが伝わりにくい原因が、個々の目標と受ける栄養指導がマッチしていないことがある。1つのチームの中でも日本代表を目指している選手もいれば、所属するチームの駅伝メンバーに入ることを目標にしている選手もいる。
目指しているものが違うのに、栄養学も含めた指導が同じだと選手には伝わりにくい。足立氏も同様の経験をしており、「選手に寄り添い、分かりやすく、個々のピークに合わせたサポートをしていきたいと考えています」と、常に対象の選手が何を必要としているかを念頭に置いている。

その延長として、企業とコラボした商品を開発している。サポートする愛三工業陸上競技部をはじめとした多くのアスリートの声を集め、発酵食品の甘酒と水分補給をマッチさせた補給飲料を商品化した。
こうした活動のほか、アスリートのブランディングやキャリア支援も手掛ける中、Athlifesのオンライン交流会に参加。青沼氏が掲げる理念に共感し、Athlifesに所属する選手たちのサポートを始めることになった。
足立氏はサポートを決めた理由をこう語る。
「私がサポートをしている選手は環境的には恵まれています。でもスポーツ全体として栄養のサポートは大事。金銭的に受けられない選手がいるのであれば、少しでもお役に立ちたいと思いました」

学生には選手だけではなく保護者への説明も行う

アスリート支援のため プロテインを開発

Athlifesを通して、足立氏が実施したい活動は2つある。

まずはアスリートと栄養士のマッチングだ。「栄養サポートというと堅苦しく、厳しい指導をされるイメージがあると思います。そうした背景もあってサポートを依頼する選手はそこまで多くありません」という現状を打開すべく、Athlifes所属のアスリートに対してスポーツ学を学びたい栄養士を紹介している。
潤沢な活動資金はないものの体作りが重要なアスリートと、経験を積みたい栄養士とでは両者の思惑が一致しており、相互にメリットが多い。「これは私ができるアスリート支援になります」と足立氏。

そして現在、Athlifesに所属する選手の声を元にプロテインを開発中だ。「所属アスリートにアンケートを取ったところ、多くが日常的にプロテインを摂っていました。ですが私も、選手時代は食事よりもプロテインを含めたサプリメントの地位が高かったと感じます」と足立氏は話す。
プロテインはあくまで“補助食”であり、プロテインで満腹になって食事をしない、もしくは食事の全体量を減らしてしまうと効果的な体作りはできない。またタンパク質の摂取量は体重や状況等によって異なるため、記載分量が全ての選手に当てはまるとは限らない。
「大事なのは、生活スタイルに合わせながら継続できる『基本的な食事習慣の定着』と『補助として必要な場合に飲む適切な摂取量の把握』です。」と足立氏。

そこでアスリートには正しいプロテインの飲み方を伝えつつ、「トレーニング後でも飲みやすいようにスッキリとした味にしています。柑橘系なので薄めるとさらにスッキリ、濃くすると甘くなります。個々の好みによって味が変えられます」(足立氏)と味にも工夫を加えている。
さらにプロテインのパッケージには、Athlifes所属の選手を起用予定だ。その一番大きな理由は選手のブランディングである。

青沼氏と同様に足立氏も、アスリートでも個人にスポットライトが当たるようになった現在を「個の価値を見出す時代」と表現する。
そのため選手にサポートがついたとしても、選手が自分自身をうまくPRできなかったり、発信をしたりしなければ価値は高まっていかない。逆に結果が出ていなくても、自らの価値を高める活動やPR、ブランディングができていれば、支援する企業にとってはメリットにつながる。
「選手自身がパッケージになるということはなかなかないこと。そういうことを通して自身のブランディングをしてもらいたい」と足立氏。今回のプロテイン開発、表面上はアスリートの直接的な支援だが、競技場以外でも自身が積み上げてきた努力、実績がアピールできるのでは?というメッセージが込められている。

今後、所属選手へのサンプリングを行いながら、正式な商品化を目指す。

これからも様々なサポートを続けていく