大分市で開催された「OITAサイクルフェス!!!2021」の2日目は、公道を使ったロードレース。今年は「三菱地所おおいたアーバンクラシック」として、10月10日に開催された。「OITAサイクルフェス!!!2021」の1日目おおいたいこいの道…

大分市で開催された「OITAサイクルフェス!!!2021」の2日目は、公道を使ったロードレース。今年は「三菱地所おおいたアーバンクラシック」として、10月10日に開催された。

「OITAサイクルフェス!!!2021」の1日目
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美しい住宅街を駆け抜けるおおいたアーバンクラシック。UCIレースとしての開催は2年ぶりとなる

例年はUCI(世界自転車競技連合)認定の国際レースとして、海外チームを招き開催されるが、今年はコロナ禍にあり、UCI登録のコンチネンタルチームを中心に、クラブチーム、学生選抜チームなど、合わせて国内の13チームが参加する形になった。国内勢のみとはいえ、上位10位までの選手(UCI 1-2カテゴリーのレースの場合)には世界のランキングに関わるUCIポイントが付与される。今年、国内のUCIレースはまだこれで2つ目であり、選手たちにとっては非常に重要なレースになる。

レースが開催されるのは、1周11.6kmの大分スポーツ公園周辺の特設コースで、一般公道を中心に構成されている。コースが西洋風の美しい住宅街を貫き、景観に優れていることでも知られており、毎年多くのファンを集めてきた。



欧州のような街並みを走る「絵になる」レース



レースは暮らしの中のさまざまな景観の中を走る

今年は前日のクリテリウムと同様に、コース沿いでの観戦の自粛が要請されたが、スタートゴールが設営される昭和電工ドーム大分周辺には、無料の抗原検査所を設営。ワクチン2回の接種済み証明か、抗原検査の陰性証明を提示した証拠であるリストバンドを着ければ、沿道での観戦やパブリックビューイングに参加できるスタイルで、この日を待ちわびてきたファンは観戦を楽しむことができた。
レースはこの特設コースを時計回りに13周する、150.8kmに設定された。険しい上りはないが、平坦部が少なく、丘陵地の住宅街のアップダウンを抜けていくため、周回を経るごとに、疲労が脚に来る。また、コーナーが多いため、集団でまとまりにくく、隊列が長く伸びる傾向もあり、攻略の難しいコースと評されてきた。これまで、先頭集団が思いがけない逃げ切りを果たすなど、ドラマも生んできた名コースである。

レースは朝9時スタートにもかかわらず、この時点で気温はすでに30度に迫っていた。選手たちに緊張感が漂う中、大分市の佐藤樹一郎市長らが号砲を鳴らし、レースがスタートした。



地元のスパークルおおいたレーシングチームを先頭にレースがスタート

さっそくアタックがかけられ始めるが、どの動きも決定的なものにならない。疲労やリスクを嫌ったのか、集団をコントロールするチームも現れず、落ち着かない状況のままレースが進んでいく。有力そうに見える抜け出しやペースアップが起こされても、結局動きが持続せず、吸収されてしまう。丘陵地帯を越え、スピードのアップダウンが繰り返されていく中で、選手たちは次第に消耗していった。




次々とアタックがかけられるが、どの動きも決まらない




細かいアップダウンが繰り返される中で激しい動きが続き、選手たちは消耗

7周目、大きな動きが生まれた。数名の抜け出しを集団が飲み込むタイミングで、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が抜け出し、ここに数名がジョインする形でスルスルと先行しはじめたのだ。この動きを数名が追って合流。集団の隙をつき、巧みに抜け出した選手たちは7名。ようやく、先頭集団が誕生した。
この中に入ったのは、今季好調の山本大喜(キナンサイクリングチーム)、前日のクリテリウムを制した小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、重要な動きによく反応して入ってくる印象が強い小石祐馬(チーム右京相模原)、表彰台の常連になりつつあるスプリンターの岡本隼(愛三工業レーシングチーム)、積極的に動いてきた風間翔眞(シマノレーシング)と西尾勇人(那須ブラーゼン)。力のあるメンバーが揃った。ここまでの選手たちの消耗度から考えると、この日のレースは決まったかと思わせる動きだ。



有力選手で7名の先頭集団が形成された

多くの有力チームが先頭に選手を送り込んでおり、メイン集団の先頭に立つのは、シエルブルー鹿屋など送り込んでいないチームが主体となってくる。集団全体の意思の団結がなく、メイン集団はペースアップすることが難しくなった。
激しい動きが続いたことで、多くの選手たちが疲弊しており、先頭集団はタイム差をみるみるうちに開いて行き、ラスト5周の段階で、タイム差は2分20秒にまで開いていた。宇都宮ブリッツェン、シマノレーシングなども牽引を行うが、やはり集団のスピードは上がらない。

ラスト4周に入ると、タイム差は4分にまで開き、事実上、勝負は先頭7名に絞り込まれることになった。このままで終わりたくないメンバーが集団となり、追走の動きも生まれてくるが、先頭に合流する見込みは薄いように思われた。
ここから先頭7名の中に、勝負を意識した緊張感が漂い始める。西尾がハイペースの先頭から脱落し、6名となり、ラスト3周が見えてきたころ、次の動きが生まれた。マンセボが、上りを前に鋭いアタックを繰り出し、他の選手を振り払ったのだ。



マンセボが仕掛けた。キレのあるアタックに先頭集団は一気に崩壊した

この動きに直ちに反応できたのは、小石のみ。すぐにマンセボの後ろに付き、2名のグループとなる。山本、小野寺も持ちこたえて先頭2名を追ったが、岡本、風間はこの動きが決定打になり、集団から完全に脱落。ほどなく山本が小野寺を振り切り、先頭2名に合流し、マンセボ、小石と3名の集団になった。厳しい展開を越えてきた強力な3名だ。小野寺は単独ながら4番手をキープし、周回を重ねていく意地を見せた。



先頭に山本が合流。強力な3名の集団となった

実力も拮抗する強者3名。このままゴールスプリントになるかと思われたが、最終周回、またもやマンセボが仕掛けた。丘陵地帯の上りでアタックし、2人を振り切りにかかった。



ラスト7kmの独走に賭けるマンセボ

このキレのあるアタックに2人は着いていけず、マンセボは独走態勢に入った。全身全霊の力を込め、ペダルを踏み込んでいくマンセボは、ラスト7kmをハイスピードで駆け抜け、満面の笑顔を浮かべながら、フィニッシュラインを越えた。



ガッツポーズでフィニッシュラインを越えたマンセボ。45歳にして独走でUCIレースの優勝を勝ち取った

マンセボを追った山本が単独で2位に入り、やや遅れて入った小石が3位の座を獲得した。4位以下は、追い上げてきた集団のスプリント勝負となり、ここで競り勝ったのは、地元の期待を背負った孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)だった。非常にタフなレースの中で健闘し、チームのUCIポイント獲得も果たすことになった。



佐藤市長(左より3番目)とともに青空の下での表彰式。選手たちは達成感のある笑顔を浮かべていた

マンセボは笑顔で優勝の喜びを語った。「非常にハードなコースだった」と、コースを評した上で「各チームがメンバーを送り込んだ集団に乗れたのがラッキーだった」とコメント。「最後はスプリント勝負になると勝てるかどうかわからないため」抜け出しを考えたが、「コースがタフであり、(今の自分が)独走し、持ちこたえられるのは7~8km」と読んだという。「向かい風が吹いていた最後の上りで仕掛けるのがベスト」だと、“経験上”判断し、計画通り独走に持ち込んだそうだ。読みは全て当たり、優勝をもぎ取ったマンセボは、今年45歳。「人生で最初にUCIレースに勝ったのが23年前で、23年後もこうやってUCIレースを勝っている」と感慨深く語った。加齢による衰えをみじんも感じさせないマンセボ。勘を研ぎ澄ませたベテランによる圧巻の優勝だった。

このレースも国内プロリーグの「三菱地所JCLロードレースツアー2021」のポイント付与対象レースになっている。獲得したUCIポイントの10倍が組み込まれることとなり、400ポイントを加算した山本大喜が、個人総合リーダーに返り咲くことになった。U23のランキングでは、U23最上位でフィニッシュした本田晴飛(VC福岡)がランキングトップを保っている。
踏み込んだ感染対策を施し、観客を入れ、ウィズコロナの新しい開催スタイルを示した「おおいたアーバンクラシック」。選手たちが全力でぶつかりあったサバイバルレースは、見応えのあるものだった。地元市民の皆さんの支持も高かったようだ。

今月10月21日からは全日本選手権の開催が控えている。ナショナル選手権の開催は6月末とUCIに規定されており、シーズン終盤になってからの開催は非常に稀。今回のレースの中身は、この選手権の行方を占うものとなっただろうか。二つのプロリーグも大詰めを迎えており、国内ロードレースは、まさに今季のクライマックスを迎えようとしている__。

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【結果】三菱地所おおいたアーバンクラシック(150.8 km 優勝者平均速度43.75km/h)
1位/フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)3時間30分48秒
2位/山本大喜(キナンサイクリングチーム) +53秒
3位/小石祐馬(チーム右京相模原)+2分03秒
4位/孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)+5分01秒
5位/阿曽圭佑(ヴィクトワール広島)
6位/伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)

画像提供:JCLロードレースツアー(株式会社ジャパンサイクルリーグ)

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