カタールW杯アジア最終予選特集松木安太郎さんインタビュー@後編 サッカー解説で「唯一無二の存在」として、圧倒的なオーラを…

カタールW杯アジア最終予選特集
松木安太郎さんインタビュー@後編

 サッカー解説で「唯一無二の存在」として、圧倒的なオーラを放つ松木安太郎氏。自身の解説者としてのスタンスについて語ったインタビュー前編に続き、後編では台頭する若手の解説者たちについても聞いた。

「松木安太郎インタビュー@前編」はこちら>>



解説者としても活躍する内田篤人氏

---- 国内のサッカー環境は、Jリーグの始まった1990年代から大きく様変わりしました。サッカー中継で言えば、今回のW杯アジア最終予選は、アウェーでの試合はテレビ中継がなくネットでの配信です。時代の転換期のなかでサッカーを伝える難しさや意義を、どう捉えられていますか?

「ネット中継に限らず、ペイパービューが増えるのは専門色が増えていいことだと思うんですよね。お金を払っても観たいという視聴者はサッカーへの造詣を持つ人たちなので、テレビ中継ではできないような専門的な放送の取り組み方ができる。それが、これからの時代なんだと思うんです」

---- ただ、それだとライト層のサッカーへの入口が限られてしまう課題もありますよね。

「おっしゃるとおりです。テレビの地上波で放送するという意義は、サッカーへの興味のなかった人の導入につながるところです。ただ、どちらがいいとか悪いとかではなく、両方のよさをうまく使うべきなんでしょうね。いろんな角度からサッカーの見方を提供していく時代になれば、ライト層もコア層もそれぞれのレベルに応じてサッカーを観ることが楽しめるんだと思います」

---- そうなると、視聴者層に応じて解説者の話す内容も変わるのでしょうね。

「解説もいろんな手法があっていいと思います。ペイパービューが一般的になれば、解説者の個性がもっと前面に出てくるんじゃないかな」

---- 解説者の戸田和幸さんはネット中継向けになるんでしょうね。

「彼はすでに解説者として自分の色を持っていますよね。専門性の高いサッカー解説を聞きたい人には、日本選手でも海外選手でもよく知っているし、戦術面もよく研究されている戸田さんの解説はプラスになると思いますね」

---- 同じプレーでも見る人が変われば、解釈の仕方や伝え方も変わるのがサッカー解説の面白いところでもありますしね。

「サッカーというのは昔から11人対11人で、ボールの大きさもピッチの広さも変わらないのに、チーム構成の仕方や戦術の立て方は多種多様の手法がある。解説者も同じで十人十色が当たり前で、そこの個性を出していかないといけないんだと思いますよ」

---- 日本代表のサッカー中継では、松木さんとセルジオ越後さんの意見が真逆のケースもあって、個性のぶつかり合いが見どころにもなる時もありました。

「役割分担を話し合って決めたというのはないんですけどね(笑)。今となっては普通ですけど、振り返れば、ふたりで解説をやり始めた頃は斬新だったろうなと思いますね。だって、『俺はこう思う』と言えば、『いやいや、それは違う。これはこうだろう』って討論会のようになるんですから(笑)。

 ただ、解説者同士が予定調和で話をしても、見る人は楽しくないでしょ? 試合のなかで起きているひとつのシーンでさえも、さまざまな捉え方があると視聴者に伝わればいいなっていうのはありますね」

---- そのテレビ朝日での日本代表中継には内田篤人さんが加わりました。

「9月のW杯アジア最終予選オマーン戦で初めて一緒になったのですが、1年前まで現役選手だったのもあるし、サッカーの経験値も高いし、よくサッカーを知っているなという印象でした」

---- 内田さんのほかにも、中村憲剛さんや佐藤寿人さんなど、最近まで現役だった方が解説の仕事を始められています。テレビでのJリーグ中継がほぼない時代に、新たな解説者が増えていることは、サッカー界にとってどういう意義があるのでしょうか?

「ネット配信ができたことで、いろんな人たちがサッカー解説をする機会が得られるようになった。これはサッカーマンにとっては願ってもないことですよ」

---- 解説業30年のキャリアを誇る松木さんからのアドバイスはありますか?

「いやいや、ボクが言うことなんて何もないですよ。彼らはほんの少し前まで現役だったので現場の濃い情報を持っていますし、日本代表にも一緒にプレーした選手も多い。そうした鮮度の高い情報は、解説のなかですごく生きていると思いますね」

---- 逆の見方をすれば、引退してから年月が経って、そうした鮮度の高い情報がなくなった時が解説者としての真価が問われるのでしょうね。

「ボクもそうでしたね。現場を離れて間もない頃は、自然と情報が集まるんですよ。でも、長くやっていこうとするなら、解説者としての自分らしさを見つけることが大事だなと思いますね」

---- サッカー解説者のなかには現場に戻るまでの腰掛けというスタンスの方もいると思うのですが、松木さんも現場復帰への色気はお持ちなんでしょうか?

「もちろん、ありますよ。オファーがあれば考えますよ」

---- そうなんですね!?

「年齢が若いと、解説していても現場復帰への思いがにじみ出ちゃうんじゃないかな。そういうのがないってことは、ボクがジジイになってきたってことだと思いますよ(笑)」

---- 言葉についても教えていただきたいのですが、解説者は「ダメなプレーは、こういう理由でダメだった」と指摘する仕事である一方、発言内容が人格否定などのネガティブなものにならないようにも配慮しなければいけない仕事です。SNSでの発信にも通じることだと思うのですが、そのバランスの取り方のコツはあるのでしょうか。

「まず、ネガティブな意見は最小限にしたいと心がけています。極端な話をすれば、ゴール前でフリーでボールをもらってシュートを外せば、『なんで外すんだ!』と思いますよ。でも、わざと外す選手はいないし、『まさか!?』と思うことが起きるのがサッカー。それが起きるたびにネガティブな発言をしていたら、競技のおもしろ味をスポイルすることになっちゃう。

 そうなるよりは、応援の気持ちを持って、次の機会にはいいプレーを見せてくれることを期待する。そういうポジティブなスタンスのほうが、中継を見てくれている人たちに気持ちよく試合に入り込んでもらえるんだと思っています」

---- 松木さんは常に視聴者を想定されているんですね。だから、これだけ長くサッカー解説者の第一線に立つことができるわけですね。

「観ている人は、僕らのコメントだけではエキサイトできないと思うんです。映像と言葉がリンクして初めて、解説者の存在意義があるわけで。ある意味でサッカー選手と同じだと思いますよ。今起きている状況に合わせて、臨機応変に言葉を変えていかなければいけないと思っています」

---- 「行け!」「そこだ!」と居酒屋ノリで熱くなっているだけではないってことですね(笑)。

「サッカーってやっぱりパッションがあって、熱くなれるところが魅力だと思うんですが、決してそんなに熱くなってしゃべっていないですよ(笑)。たた、試合にのめり込んで楽しんでいる人なら、みんなが『行け!』『危ない』と同じようなことは口から出ているんじゃないかな? それと一緒ですよ」

---- 日本代表は現在、W杯アジア最終予選でグループ2位以内の黄色信号が灯っています。10月12日のホームでのオーストラリア戦には、1998年W杯予選アジア第3代表決定戦でイランを破った"ジョホールバルの歓喜"の時のように、日本中が日本代表を応援する熱量が必要になると思います。そのためには、あのジョホールバルの一戦で解説を務められた松木さんの解説がとても重要になると思うのですが。

「日本代表は久保建英や堂安律がケガで欠いたりして難しい状態のなかで、サウジアラビアに負けた。それによって、いろんな問題を抱え込んでしまったと思うんですよね。しかも、次のオーストラリア戦はサウジアラビアから日本に戻ってきての戦いになるうえに、限られた時間のなかでのコンディショニングは難しい。

 ただ、絶対に負けられない試合だからね。しかも、ジョホールバルと違うのは、今回はオーストラリアに勝っても戦いは終わらないし、その先も負けられない厳しい試合が続いてくってこと。

 でも、日本代表の本来の力からすれば、悪い流れを断ち切ることができれば、残り試合を全勝できる力はあると思うんですよ。そのためには、やっぱり日本中の人が日本代表のワンプレー、ワンプレーを一生懸命に応援して、楽しんでもらいたいなと思いますね」

【profile】
松木安太郎(まつき・やすたろう)
1957年11月28日生まれ、東京都中央区出身。現役時代は主にサイドバックでプレー。読売クラブ(1973年〜1990年)ひと筋で、主将としてリーグ優勝や天皇杯優勝に貢献。日本代表では1984年から1987年にかけて12試合出場する。現役引退後、読売クラブのコーチを経て1993年に35歳の若さでヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)の監督に就任し、チームをリーグ2連覇に導いた。1998年にセレッソ大阪、2001年に東京ヴェルディを率いた一方、唯一無二のサッカー解説者として人気を博す。