カタールW杯アジア最終予選特集 日本対オーストラリアと言われて想起するのは、2011年1月のアジアカップ決勝だ。0-0で…
カタールW杯アジア最終予選特集
日本対オーストラリアと言われて想起するのは、2011年1月のアジアカップ決勝だ。0-0で迎えた延長後半、長友佑都の左からのセンタリングを、李忠成が左足ボレーで仕留め、日本が1-0で勝利した、ドーハのハリファスタジアム(カタール)で行なわれた一戦である。
試合内容で勝っていたのはオーストラリア。番狂わせとまでは言わないが、日本の順当な勝利とは言えなかった。まさかのゴールに大喜びした記憶がある。両国の関係はそれまで、オーストラリアが優位な立場にあった。それを象徴した一戦が2006年ドイツW杯だった。ジーコジャパンは当時、オセアニア代表として出場していたオーストラリアと初戦で対戦。先制点を奪ったものの、後半、地力の違いを見せつけられ、立て続けに失点。1-3で完敗した。
フース・ヒディンク対ジーコという監督の関係はもちろん、メンバーの顔ぶれを見ても、差は歴然としていた。
2000-01のチャンピオンズリーグで準決勝まで進んだリーズ・ユナイテッドの看板アタッカーだったハリー・キューウェル、マーク・ヴィドゥカを筆頭に、マーク・ブレシアーノ(パルマ)、ブレット・エマートン(ブラックバーン)、ティム・ケーヒル(エバートン)、ジェイソン・クリナ(PSV)など、オーストラリアは欧州の知られたクラブでプレーする知られた選手で固められていた。
日本はその絶対数で劣っていた。欧州でプレーするオーストラリア人選手は当時、すでに数十人いた。自国リーグ(Aリーグ)でプレーする代表級選手は数えるほどで、世界的にも珍しいインターナショナルな雰囲気を漂わせた代表チームだった。

オーストラリア代表の中盤を仕切るアイディン・フルスティッチ(フランクフルト)
それに輪をかけるのが、移民を多く招き入れているオーストラリアという国の特殊性だ。今回の代表メンバーには、従来から多かった英国系、旧ユーゴスラビア系、ギリシャ系に加え、南スーダン、フランス、オーストリア、イランなど、一段と多彩になっている。先述のヴィドゥカが、ルカ・モドリッチ(クロアチア代表、レアル・マドリード)と親戚関係にあることは有名な話だ。この無国籍感に溢れたバラエティ豊かなチーム編成に、つかみどころのなさを感じるのは、筆者だけだろうか。
両国の関係は、この2011年アジアカップ決勝戦を機に逆転した。以降、優位に立っているのは日本。一度もオーストラリアに敗れていない。日本が最後に敗れたのは2009年6月まで遡る。南アフリカW杯アジア最終予選のアウェー戦に1-2で敗れた一戦だ。
以降、日本の4勝3分。とはいえ、試合はすべて1点差だ。毎度、接戦を繰り広げている。ただ、少なくとも2006年ドイツW杯で味わった劣等感は、消滅している気がする。この力関係をFIFAランクにあてはめれば、26位対32位になるが、今回、目を凝らすべきは、日本のこの微妙な格上感だ。それがどうピッチに反映されるか。
オーストラリアはここまで3戦3勝。勝ち点を9まで伸ばしている。日本とのアウェー戦に引き分けても特段、問題はない。気楽さがあるのに対し、日本は追い込まれている。格上であるにもかかわらず、大きな不安を抱えている。引き分けでも苦しい状況に追い込まれている。
引き分けは狙ってできるものではないが、オーストラリアはどんな出方をしてくるだろうか。守備を固めて地味に戦うのか。それともオーソドックスに戦うか。
グラハム・アーノルド監督はサンフレッチェ広島に在籍していた(1997-98年)過去がある。ストライカーとして28試合に出場して7ゴールをマークしている。森保一監督とは2シーズン、チームメートだったわけだ。当時の広島は5バックで守る守備的なチームとして知られていたが、監督としてのアーノルドは攻撃的だ。ボールを支配するスタイルを好む。その後、広島の指揮官となった森保監督とは対照的だ。
攻撃的とはいえ、世界の基準に従えばオーソドックスなサッカーだ。もっと言えば、ちゃんとしたサッカーとなる。その4-2-3-1のサッカーには大きな穴がない。高い位置からキチンとプレスがかかる仕組みになっている。同じ4-2-3-1を敷きながら、左ウイング南野拓実が、所定のポジションにいない時間が圧倒的に長い森保ジャパンとの違いである。
忠実、勤勉、真面目。オーストラリアには日本サッカーが忘れがちな長所がピッチに反映されている。
3-1で勝利した前戦のオマーン戦と、今回の日本戦のために招集されたその26人の顔ぶれの中で、Aリーグでプレーする国内組は、右サイドバック(SB)のリヤン・グラントと、右ウイングのクリス・イコノミディスのわずかに2人。欧州組主体は相変わらずだ。しかし、2006年W杯に出場した選手たちのようなビッグネームはいない。キューウェルのような、こいつはすごいぞと言いたくなる特別感を備えた花形はいない。
あえて挙げるならば、アイディン・フルスティッチ(フランクフルト)になる。ルーマニア出身の母親とボスニア・ヘルツェゴビナ出身の父親の間に生まれた東欧系。所属チームでは鎌田大地のすぐ後ろで構える守備的MFとして、存在感を発揮している。さばきがうまい左利きながら、ボール奪取力もある文字通りの中心選手。ボール奪取に秀でた遠藤航とパスワークに優れた柴崎岳を足して2で割ったような、オールラウンドな中盤選手だ。フェルナンド・レドンド(元レアル・マドリード)的と言えば、褒めすぎだろうか。
オマーン戦では後半18分、1トップ下を務めるもうひとりの中心選手、トーマス・ロギッチ(セルティック)が交代でベンチに下がると、そのポジションにスライドし、攻撃センスも見せている。最後の対戦となった2017年当時には、代表入りしていなかったので、日本戦はこれが初めての試合になるはずだ。どれほど脅威になるか、目を凝らしたい一番の注目選手になる。
オーストラリアはピッチを広く使ったサイド攻撃をベースに戦うチームだと述べたが、それは構造的には日本よりボール支配率の上がりやすいサッカーであることを意味する。右グラント、左アジス・ベヒッチ(ギレスンスポル/トルコ)の両SBと、右マーティン・ボイル(ハイバーニヤン/スコットランド)、アワー・マビル(ミッテラン/デンマーク)の両ウイングのコンビネーションも、日本のウイングとSBより断然良好だ。
また、何と言っても身長が高いので、シンプルなクロスが、即決定的なチャンスになりやすい。サイド攻撃はやはり脅威だ。それに当然のことながら、セットプレーが加わる。吉田麻也、冨安健洋が、どこまでその空中戦に対抗できるか。
引き分けでも可となる今回の一戦に、オーストラリアはそうした従来通りのスタイルで臨むのか。日本にとって歓迎すべきは"非従来的"なサッカーだが、アーノルド監督の出方はいかに。
ちなみに、日本がオーストラリアを下して優勝した2011年アジアカップから、10年と9カ月が経過した。当時のメンバーがひとりも残っていないオーストラリアに対し、日本は4人(長友、吉田、川島永嗣、権田修一)も健在だ。この0対4の関係も、筆者は大きな問題として捉えている。