櫻坂46菅井友香が語る馬術インタビュー@前編櫻坂46のキャプテンとしてグループを引っ張る菅井友香さん。"がんばりき"ポーズがトレードマークである彼女は馬術競技の経験者。学生時代には大会上位入賞経験もあり、2017年から5年連続で日本馬術連盟…

櫻坂46菅井友香が語る馬術
インタビュー@前編

櫻坂46のキャプテンとしてグループを引っ張る菅井友香さん。"がんばりき"ポーズがトレードマークである彼女は馬術競技の経験者。学生時代には大会上位入賞経験もあり、2017年から5年連続で日本馬術連盟「馬術スペシャルアンバサダー」を務め競技普及活動に貢献している。そんな菅井さんに乗馬との出会いから、馬術競技の魅力、馬から教わった大切な学びについて語ってもらった。



学生時代に馬場馬術に取り組んでいた櫻坂46菅井友香さん

ーーまず、乗馬を始めたきっかけを教えてください。

菅井友香(以下、菅井) 小学5年生の時に親友から乗馬のスポーツ少年団に誘われたのがきっかけです。私自身、馬がすごく好きでしたし、馬術部がある大学主催のイベントで乗馬をよく体験させてもらっていて興味がありました。実際に習い始めてみると、すごく楽しくて、一気にのめり込んでしまいました。

ーー乗馬は難しそうなイメージがあります。すぐに乗りこなせましたか? 

菅井 最初はやはり難しかったです。馬は本当に頭がいい動物なので、乗るのがうまくないとまったく言うことを聞いてくれません。当時の私はまだ体が小さかったというのもあり、かなり苦戦しました。振り落とされることなんてしょっちゅうでした。6年生の時には落馬して右肩を骨折してしまったことも......。



馬術の魅力をインタビューで語った菅井さん

ーートラウマになりませんでしたか? 

菅井 正直、少し怖くて......。馬は好きなのに、乗って「駆け足!」って言って走るのが怖くなってしまったんです。でも、そのトラウマを克服するために、母がいろんな乗馬クラブに連れて行ってくれました。そして、あるクラブで馬場馬術と出会ったんです。

 初めて見る競技馬はきれいな外国産馬で、その大きな体で走る迫力ある光景に「なんて美しいんだろう」と見とれてしまいました。そんな馬を乗りこなすトレーナーの姿に憧れて、「私も乗ってみたい」「挑戦してみたい」と思い、中学1年生から本格的に馬場馬術を始めたんです。

ーー馬とコミュニケーションを取って乗りこなすまでに時間はかかりましたか? 

菅井 人によってはすぐに言うことを聞かせられる方もいますし、馬との相性もあるんですけど、私はだいぶ時間がかかりました。でも「馬が好き」という気持ちは強かったので、めげずに時間をかけて、馬との信頼関係を少しずつ築けていくことができたかなと思います。 

ーー馬の気持ちというのは、どういった仕草から感じ取れるものなのでしょう? 

菅井 たとえば、前足を地面に擦りつける「前かき」と呼ばれる仕草があるんですけど、お腹が空いていたり、早くおうちに帰りたかったりと、私たちに対して何かを訴えていることがわかります。それと耳の角度によっても馬の気分を読み取ることができて。横向きに少し開いている時はリラックス状態にあるので、近寄ってコミュニケーションが取りやすくなります。他にもいろいろあって、馬とたくさん触れ合いながら学んでいきました。

 乗馬はただ乗るだけではありません。馬のおうちである厩舎(きゅうしゃ)から出すところから始まり、乗り終わったあとには体を綺麗に洗って返してあげる。そこまで責任を持ってやることを、少年団の先生から教わりました。そういうお手入れ作業は、馬の気持ちを理解したり、コミュニケーションを取ることにつながるので、とても大切な時間だなと感じました。 

ーーふだんからのつき合い方が馬との距離を縮めるための大きな要素なのですね。では、騎乗者が乗馬するために必要なことは? トレーニングをしましたか? 

菅井 体幹トレーニングはしっかりしていました。馬術は見た目以上に全身の筋肉を使うので、きれいな姿勢を保つには体幹の強さが必要なんです。実際に私も毎日、馬に10分乗るだけでもかなりの筋肉痛に襲われていました。「乗馬=筋トレ」みたいな感じでしたね。 

 それもあって、腕はパンパン、筋肉ムキムキで、学生時代からゴリゴリマッチョでしたよ! 高校の時はクラスで腕相撲1位でしたし(笑)。なので、筋肉を落とさないようにたくさんご飯を食べることは心がけていました。 

ーー馬場馬術を見ていると、騎乗者は派手な動きはいっさいしていないように思えます。 

菅井 上手な選手ほど、何もしていないように見えるぐらい優雅に乗ります。馬場馬術は馬の動きの美しさと正確さを競う種目で、騎乗者がいかに最小限の動作・指示で馬に伝えたいことを伝えられるか。そこが勝負のカギとなるんです。どうしても足がプラプラ動いてしまったり、オーバーな動きで指示を出してしまうと、すぐに審査員に見つかり減点の対象となってしまうので。 

ーー本当に繊細な競技なのですね。 

菅井 ちょっとした動きも点数に反映されるので、5〜6分のなかで行なわれる演技を最後まで集中力をきらさずやり遂げなければいけません。それは心身ともにかなり消耗してしまうので、ものすごく高い技術・体力と折れないメンタルが求められます。私も大会に出場した経験がありますが、馬場馬術の試合ほど緊張することは今まで味わったことがありません。 

ーー緊張感はライブ以上ですか? 

菅井 もちろんライブも緊張しますが、ジャンルが違うと言いますか。ライブは周りにたくさんのメンバーもいますが、馬術は私と馬だけの空間。そこで演技を行なう緊張感は他とは比べ物にならないものがあるんです。それを楽しめる選手もいますけど、私はずっと緊張してしまうタイプで。馬は繊細ですから途中で何か物音が聞こえるとびっくりするので、常に大丈夫かなって細かいことを気にしすぎるあまり、最後まで集中するのに苦労していました。 

ーー緊張で動きが少しでもブレると、馬には違う動作の指示として伝わってしまう。 

菅井 そうなんです。私の動きひとつでまったく違う演技になってしまいますし、不安な気持ちも馬は感じ取るので、一歩間違えば最悪、大暴走してしまうこともあります。だからこそ、呼吸が合って技がしっかりと完成すればものすごく達成感がありますし、お互いにわかり合えた瞬間は、何にも代えがたい喜びがあるんですよ。 

ーーまさに「人馬一体」ですね。大学進学後も馬術を続けられましたよね? 

菅井 子どもの頃に参加した乗馬イベントを開いていた大学に入学し、馬術部に入りました。ただ、私は騎乗者として参加していたのは最初の1年間だけで、2年生からは欅坂46に入ったので、そのあとはマネージャーに転向し、馬のお世話を中心に活動していました。 

ーー思い入れのある馬はいますか? 

菅井 もちろんいます。なかでも温桜(サロビ)という馬がすごくかわいくて。授業以外の時間はずっと厩舎でお世話したり、一緒に遊んだりしました。サロビは人間が大好きな馬で、しょっちゅうちょっかいを出してくるところがたまらなく好きでした。 

 あと、私が乗っていたヴォルフラムは一番コミュニケーションを取った馬です。あまりコミュニケーションがうまくいっていない馬だと、近寄ってもこちらにお尻を向けて「何?」みたいな感じで軽くあしらわれるんですけど、ヴォルは私が来るとすぐ来てくれるのでめちゃくちゃ可愛いんです。だからおいしいおやつや遊ぶおもちゃをいっぱい買い与えちゃいました(笑)。 

ーーどんな食べ物やおもちゃが喜ばれるんですか? 

菅井 スイカは皮まで食べちゃうぐらい好きでしたね。あとは黒砂糖や金平糖といった砂糖類も。ちなみにニンジンが嫌いな馬には会ったことがありません。おもちゃで言うと、りんごの香りがするボールとかですかね。香りにつられて、鼻でコロコロして遊ぶんです。 

ーースイカや砂糖が好きなのは意外でした。世話をするなかでは、どんな作業が大変だと感じましたか? 

菅井 毎朝、厩舎の中にある馬のお部屋の馬房(ばぼう)を掃除するのが大変で。おがくずやボロ(糞)にまみれた砂を、馬房用の掃除フォークですべてひっくり返して、新しい砂に取り替えるという作業なんですけど。これがかなりの力仕事なので、ものすごく疲れるんです。当時はうまく掃除できなくて、先輩にめっちゃ怒られました(笑)。でも、こういった作業はひとつの命を預かるうえでとても大切なことなので、キツくても根気強く、しっかり馬と向き合わなければいけない。部活を通してその重要さを学びました。 

 実際に馬が亡くなった時に立ち会ったこともあります。馬術競技馬を運ぶ馬運車(ばうんしゃ)というトラックがあるのですが、ある時、移動中に一頭の馬が脚を骨折してしまったんです。馬は脚を1本でも骨を折ってしまうと、その後100キロ以上の体重が他の3本の足にのしかかり、次々と故障が発生して生きていけなくなります。なので、ほとんどの場合は安楽死させなければいけません。その時は本当につらくて。今でも思い出すと悲しい気持ちになります。人間の責任の重大さ、命の重さをすごく学んだ瞬間でもありました。 

ーーコミュニケーションを密に取ってきた馬との別れはすごくつらいでしょうね。 

菅井 私たち人間は、馬とは昔から不思議な関係性ですよね。戦や狩りなど常に一緒に過ごしてきた間柄。現代ではたくさんの乗り物が普及して、馬に乗る機会は減りましたが、それでもスポーツを通じて関係性が続いている。それってすごく意味のあることだと思うんです。きっとそれは、何百年も前から悲しいことがあるたびに支え合い、つらいことを人馬一体となって乗り越えてきたから。絆は今でもつながっているんだな、と私は感じます。 

 だからこそ、馬にとってストレスにならない環境づくりをしていくことが、人間にとって必要で、大切なことなんじゃないかと思うんです。人と馬が触れ合って生きていける、そんな未来がずっと続いていってほしいですから。  

(後編につづく) 

【profile】 
菅井友香 すがい・ゆうか 
1995年11月29日、東京都生まれ。小学5年生の時に友人に誘われ乗馬を始める。中学1年生から馬場馬術に本格的に取り組み、2011年の全日本ジュニア馬場馬術大会チルドレンライダー選手権で2位、2013年の東京都馬術大会M1課目で優勝するなど大会で好成績を残す。2015年に欅坂46第1回オーディションに合格し、アイドル活動をスタート。2020年10月に欅坂46が櫻坂46に改名。現在までキャプテンを務める。