サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「大会のシン…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「大会のシンボル」。ワールドカップのポスターについて、サッカージャーナリスト大住良之がひも解く。
2006年ドイツ大会では、サッカーボールを夜空の星で描いたポスターが使われた。しかしこうした「32枚パネル」型のボールはとっくに使われなくなっており、アディダス社からこの大会向けに提供されたボールはヒョウタン形を6つ貼り合わせたようなデザイン。決勝戦だけ金色のひょうたんが使われた。このポスターは、あまり評判が良くなかった。
一転して2010年南アフリカ大会のポスターは、アフリカっぽさ濃厚に出ていて、インパクトがあった。色は黄色と緑を使った南アフリカ代表のユニホームを思わせるものだが、当時アフリカ最高の選手と言われていたサミュエル・エトー(カメルーン)に似た選手の黒い横顔がアフリカ大陸の形になっており、「アフリカ最初のワールドカップ」が強く意識されている。
2014年ブラジル大会の公式ポスターは、ボールを奪い合う2人の選手の足がモチーフになっていて、その足やポスター上部の模様には、ブラジルを象徴する踊り、太陽、海岸、音楽、多彩な植物、多様性のある生き物などが描かれている。足の部分を見て、このころ選手たちにはやり始めていた「タトゥー」を連想してしまうのは、私だけだろうか。全体に白っぽいデザインで印象が薄いが、2選手の足と上の模様で囲まれた白い部分がブラジルの国土を表していることも、あまり知られていない。
2022年カタール大会の公式ポスターはまだ発表されていない。斬新な大会ロゴを作った組織委員会だから、ポスターもアラブの伝統を示しつつ完成度の高いものになると期待される。
■2010年に日本で販売された記念切手
ところで、こうしたワールドカップの歴代公式ポスターが日本で切手になったのをご存じだろうか。2010年のワールドカップを記念して、この年の5月31日に発行された。2種類のシートがあり、1つはFIFAワールドカップ(カップそのもの)、ボール、大会ロゴ、大会公式ポスター、そして日本代表エンブレムの5枚(各80円)が収められ、もう1シートは、1930年から2006年大会までの大会ポスターなど80円切手が20枚セットになったものである。
興味深いのは、2006年までの18大会のうち、1966年イングランド大会、1974年西ドイツ大会、そして1982年スペイン大会の3大会の分が抜けており、「歴代ポスター」は「18大会分の15大会」と、「コンプリート」ではないことだ。おそらく、ポスター中のイラストやミロの絵画、そしてまた「ウィリー」の肖像権など、権利をクリアすることができなかったのだろう。その代わり、「ジュール・リメ杯」の切手が5枚収められている。
日本郵便のサイトによると、5枚セットは100万シート、20枚シートは75万シートが発行されたという。買った人も多いのではないか。ちなみに、ワールドカップの記念切手は2014年ブラジル大会でも発行されたが、2018年ロシア大会では発行されなかった。
■ポスターは世に連れ、世はポスターに連れ
それにしても、80円切手である。日本が初めてワールドカップに出場した1998年の4年前、1994年に封書の定型普通郵便料金が62円から80円に値上げされた。1989年にスタートした消費税3%分を含む料金である。1997年に消費税が5%になったときには値上げされなかったが、2010年にこの画期的な「ワールドカップ公式ポスターシート」が出た4年後の2014年4月には消費税が5%から8%に引き上げられ、2014年大会の記念切手は1枚が82円となっている。そして2019年10月の10%への引き上げで、いま、定型普通郵便の封書は84円である。
わずか11年前に発行されたワールドカップ1930年大会のポスターを印刷した切手1枚では、もう心のこもった手紙を送ることはできない。もっとも、私の場合、切手を貼って送る郵便物の多くは、原稿料の支払いを求める心のこもった請求書ではあるが…。郵便料金の値上げを反映する切手の額面の変化は、募る「暮らしにくさ」を象徴してはいないだろうか。やはり、「ポスターは世に連れ、世はポスターに連れ」なのである。