時代の変遷とともに、スポーツの形も変わっている。昭和では野球やプロレスがスポーツの価値観を変え、平成にはサッカー、令和に入りBリーグとプロリーグが誕生した。個人競技でも世界で戦える人材が増え、メディアにも取り上げられることでアスリートはより…

時代の変遷とともに、スポーツの形も変わっている。昭和では野球やプロレスがスポーツの価値観を変え、平成にはサッカー、令和に入りBリーグとプロリーグが誕生した。個人競技でも世界で戦える人材が増え、メディアにも取り上げられることでアスリートはより身近な存在になった。
一方で、世界レベルの結果を残しながら日の目を見ない競技もあり、機会損失をしているケースも少なくない。
そうした環境を少しでも変えたいと、新型コロナウイルスが蔓延し始めていた昨年、Athlifes(アスライフス)を立ち上げた青沼広己氏。企業や人を巻き込みながら、スポーツで誰もが夢を見ることができる環境を作ろうと努めている。

サッカー → フットサル → ソサイチを転戦し Athlifesの土台となる経験をする

様々な事業を展開しながら、ソサイチ普及にも努める青沼氏

青沼氏は現在38歳で、千葉県船橋市生まれ。船橋といえばサッカーが盛んな地域で、青沼氏も例に漏れず父親の影響でサッカーを始め、小学生時は柏レイソル、中学時代は浦和レッズの育成チームに所属をしていた。
高校では東海大学付属浦安高校に進学したが、ここで青沼氏はフットサルに転向し、高校卒業後も千葉県内のフットサルチームに所属し競技を継続。日中は仕事をしながら、練習に励んでいた。

転機となったのは2017年。高校の同級生がソサイチ(7人制サッカー)のチームを立ち上げ、全国7地区で開催されているソサイチリーグに参入することになった。「フットサルがあったので、行けるときに参加しようかな」という気持ちだったが、ソサイチの魅力に次第に惹かれていき、本格的に参加するようになる。
国内ではマイナースポーツではあるが、リーグに加盟しているチーム数は100を超える。その中で青沼氏は関東リーグ1部リーグのAC Milan FLORESTAに所属し、日本代表にも選出された経験も持つ。
ソサイチの選手たちもまた日中は働きながら時間を削り出し活動している選手が多く、プロ選手は不在。青沼氏はそうした環境も変えるため、様々な活動に励んでいる。

アスリートと企業のマッチングの場として Athlifesを設立

青沼氏が手掛けるプロジェクトの1つがAthlifesの活動だ。現在国内にはプロ野球、Jリーグ(サッカー)、Bリーグ(バスケットボール)のプロリーグが存在し、Vリーグ(バレーボール)やトップリーグ(ラグビー)も完全なプロリーグ化を目指している。
またその他の個人競技でも、個人を企業が支援する形で選手がプロとして活動するものもあるが競技人口が少ない、いわゆるマイナースポーツは「日本チャンピオンでも、アルバイトで生計を立てている選手が多い」と青沼氏が話すように、環境が良いとは言えない状況だ。

こうした競技は、メディアに取り上げられても取り巻く組織が脆弱で、人気が一過性に終わることも多い。そうなると世界レベルの選手が引退後に活動の場を失い、「世界で活躍をしたアスリートでも、引退後は全く競技に関わらない人もいます」と青沼氏。人材不足で普及や育成が進まないという負のスパイラルに陥ってしまう。
青沼氏自身もフットサルに熱中していたときから、取り巻く環境が良くないと感じており、「アスリートの生き方や、競技引退後もアスリートとして生きていける仕組みを確立したい」という思いで、Athlifesを創設した。

具体的な活動としては支援を受けたいアスリートと、支援をしたい企業や団体のマッチングを行い、アスリートが競技以外で輝ける場を創出している。「仕組みが整っておらずアスリートが社会活動する場が少ないと感じるし、一方でアスリートもそうした機会を自分から作っていかなければいけない。でも何から始めたらいいか分からないというのが実際のところ。Athlifesではそのギャップを埋める場にしたいと思います」と立ち上げから僅か1年で150名を超えるアスリートが登録し、企業とのコラボレーションも実現している。

所属するアスリートは単に支援を受けるだけではなく、Athlifesが主催してセミナーを開いたり、交流会を開いたりと社会との接点を積極的に持たせながら、様々なことを見聞きし、学んでいる。
支援する企業側も物品提供などを通して商品やサービスをPRし、企業ブランディングのために選手をうまく活用している。「サッカーであればスタジアムに人が集まればお金が生まれますが、人が集まってもお金を生みにくい競技もあります。人を集めなくても収益が上がるような仕組みを作らなければいけない」と青沼氏は語るが、その仕組み作りで重要なのがアスリート自身が持つ“価値”を競技以外でいかに生かすかである。

アスリートも企業も “価値”を十分に理解しなければならない

アスリートは特殊な職業だ。生まれ持った才能に加え、努力を積み上げたものが結果として現れ、メディアに出ることで自身や競技の価値を上げ、さらには取り巻く企業や団体のブランディングも高めることができる。
こうした仕組みができているのがプロリーグであり、個人競技でも卓球や陸上、水泳はナショナル企業が選手を支援し、アスリートを生かしながらアスリートに生かされている。

先述したように、マイナー競技はこうした仕組みができていない。ただ努力をして結果を出す過程は、たとえ知名度がないアスリートでも同じだ。
だからこそ青沼氏は、マイナースポーツが抱える問題について次のように力説する。
「アスリートは相当な努力をして世界で活躍をしています。そこの価値を周りは理解できていないし、逆にアスリート本人もその経験がどのようにして社会に生かせるかを分かっていない。お互いに分かっていないので、うまく活用できていないと思います。素晴らしい価値を持つアスリートとどのようにコラボして、どのように売り上げにつなげていくかを考え、もっと継続的にいろんな企業を巻き込んで仕組みを作っていく。オリンピックで活躍した選手が企業とコラボして一過性で終わるのではなく、何年もコラボしていける活動をしていきたいと思います」

例えば今夏の東京五輪では、スケートボードやBMX、サーフィンなど新たな競技が好成績を残し、メディアに取り上げられるケースも多かった。しかしこうした競技のアスリートの今後は決して保証されたものではなく、どちらかというと青沼氏が言う仕組みを作っていかなければならない競技だ。
彼らには「若さ」「溌剌さ」といったこれまでの競技にはなかった価値があり、そうした価値とマッチングする企業とアスリートが化学反応を起こすことで、競技の可能性はさらに広がっていく。子どもたちが夢を見られる競技になることで競技人口や支援者が増え、職業として成り立っていくのだ。
「これからは個の価値を見出す時代になると思います」と青沼氏。こうした個人競技に限らず、団体競技でも一人一人にスポットライトが当たり、アスリートにも多様性が求められる。
アスリートの価値を最大限に引き出すため、青沼氏は様々な形で支援を続けていく。

Athlifesには実績がある選手から今後の活躍が期待される選手まで、様々な選手が所属する