駅伝シーズン到来!有力大学の戦力分析(後編)前編はこちら>>> 日本学生陸上競技対抗選手権大会(日本インカレ)が終了し、トラックシーズンが終わった。7月のホクレン大会の後、各大学は夏合宿に入り、その合宿を継続しているなかでの大会ゆえに、箱根…
駅伝シーズン到来!
有力大学の戦力分析(後編)
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日本学生陸上競技対抗選手権大会(日本インカレ)が終了し、トラックシーズンが終わった。7月のホクレン大会の後、各大学は夏合宿に入り、その合宿を継続しているなかでの大会ゆえに、箱根常連校のなかには主力を出場させないところもあった。今月10日の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝、そして来年1月の箱根駅伝に向けて、果たして各大学のチーム作りは順調に進んでいるのだろうか。
学生陸上界ではほぼ敵なしの東京国際大のイェゴン・ヴィンセント
毎年、箱根駅伝の有力校に上がる東洋大は、トラックシーズン、苦しんだ。
関東インカレ長距離1500m以上の種目で無得点、主将の宮下隼人が故障。人数が少ない4年生がチームの舵取りをできず、3年生の副将の前田義弘らが軸になってチームを盛り立ててきた。
「前半戦は自分たちが下級生とコミュニケーションをとって、宮下さんの代わりに声をかけたりしていました。自分以外にも児玉(悠輔)、及川(瑠音)とか3年生が協力して、自分たちの行動がチームに影響するというのを学年ミーティングなどで確認して、4年生の分を補っていった感じです」
前田たち3年生が前に立ってチームを引っ張っていく覚悟を決めたのは、一番は関東インカレで長距離部門の得点ゼロという衝撃的な結果があったからだ。
「箱根駅伝では、11年間連続3位以内という記録を昨年途切れさせてしまい、今年の箱根で3位に復活できました。今度は自分たちの代で(その結果が)たまたまではなかったことを証明しようと、『鉄紺の証明』というスローガンを掲げました。でも、関東インカレで長距離ゼロ点という不甲斐ない結果に終わり、どこか舞い上がっていた部分があったんではないかと思ったんです。もう一度、原点に立ち返って練習をしていこうということになりました」
駅伝シーズンは、日本インカレ10000m10位の前田ら3年生が中心になる。
柏優吾は、日本インカレで前田と同じ10000mに出場し、28分58秒71で11位(日本人6位)とまずまずだった。今年になって5000m(13分59秒28)も10000m(28分49秒72)も自己ベストを更新しており、好調を維持している。日本インカレ組では及川が5000mに出場し、19位ともうひとつだったが7月のホクレン士別大会では5000mで13分47秒98、深川大会では10000mで29分03秒21と2戦連続で自己ベストを更新している。前田とともにチームを引っ張る存在に成長しており、駅伝でも中核を担う選手になっている。ここに今年の箱根1区9位の児玉、日本インカレ5000m13位の大沼翼らが追いついてくれば充実の3年生になる。
そして、気になる主将の宮下だが、日本インカレの5000mにエントリーしていたが、大事をとって出場しなかった。夏合宿を含め、練習には戻っているので、おそらく調整中の松山和希(2年)とともに全日本大学駅伝、箱根駅伝に標準を合わせてくるだろう。高速の出雲駅伝、ミドルとロングが混合する全日本大学駅伝は厳しい戦いになるだろうが、全体を整えていければ箱根駅伝では2年連続の3位以内は十分、射程距離にある。
東海大は、黄金世代、昨季4年生の3本柱が抜けた後のチーム作りが最大の課題だった。
トラックシーズンは、市村朋樹(4年)と石原翔太郎(2年)の活躍が明るい材料だった。市村は5000mに標準に合わせ、個人学生選手権ではラスト1周で切り替えて、13分45秒20の自己ベストで2組で優勝。さらに、ホクレン網走大会で13分37秒50の自己ベストを更新した。
石原は、夏に故障するまでは順調だった。5000mは13分30秒98、10000mは28分05秒91でともに今年、自己新をマークしている。
市村・石原頼りが大きくなるなか、ふたりを活かせるチーム作りが東海大には求められるわけだが、今のところ全体の選手層を見渡すと少し物足りない。
4年生は主将の本間敬大を始め、昨年、全日本大学駅伝6区区間新で快走した長田駿佑も思ったような結果を残せていない。3年生も本来エースになるべき松崎咲人は、1年時の箱根駅伝で7区3位と上々の結果を残したあと、昨シーズンは故障続きで満足に走れなかった。7月の日体大競技会5000mに出場したが、14分29秒33とまだ本調子ではない。期待のルーキーとして入学してきた1年生も越陽汰は入学前の故障が響いて今シーズン、駅伝で出走するのはちょっと難しいだろう。
ただ、2年生に勢いが生じてきているのは大きい。
溝口仁はホクレン網走大会5000mで13分49秒60の自己ベストを出し、喜早駿介は5月の日体大競技会5000mで13分53秒42の自己新をマーク。松尾昂来は日大対抗戦の5000mで13分57秒91を出し、4月日体大競技会10000mを28分21秒80で走り、それぞれ自己新を叩き出した。ここに神薗竜馬、昨年、全日本大学駅伝1区を走った佐伯陽生らが、どこまで上がってくるか。
東海大の浮沈のカギを握るのは、2年生になりそうだが、市村・石原に頼りすぎるとチーム全体の出力が落ちてしまう。また、スピード主体のチーム作りから長距離を走り込むスタイルに舵をきったことでチームにどんな影響が出るのか。「3大駅伝3位内」がチームの目標だが、有力校と言われているなかでは選手層において例年の厚みがなく、このまま中間層が伸びてこなければ箱根駅伝はシード権を争う展開になる可能性もある。
チーム作りにやや不安を残す東洋大、東海大を凌ぐ勢いがあるのが、順天堂大だ。
昨年は箱根駅伝7位だったが、そのメンバー8人が残っている。今シーズン、チームの中核を担うのが3年生。その学年だけの選手層でいえばその厚さは大学屈指だろう。
その層を代表するのが、野村優作、伊豫田達弥、西澤侑真、四釜峻佑、平駿介の5本柱だ。
彼らに共通しているのは、今年5000mの自己新を記録し、10000mも平以外が自己ベストを更新していることだ。
今年、箱根駅伝2区10位だった野村は、4月金栗記念5000mで13分41秒73の自己ベストを更新。関東インカレの10000mでは、28分19秒01で5位入賞を果たした。9月の日本インカレでは、5000mで9位ともうひとつだったが、野村が学年をリードし、競い合うなかで3年全体のレベルが飛躍的に上がった。野村はエースの自覚もあり、3大駅伝では主要区間を任されるだろう。
今年の箱根3区5位の伊豫田は、4月金栗記念5000mで13分43秒71、同月の日体大競技会10000mで28分06秒26の自己ベストをマーク。関東インカレ10000mで6位、日本インカレ5000mでは7位とともに入賞を果たした。野村とともにチームを牽引する責任感が増し、走りにも安定感が出てきた。
西澤も5000mと10000mの2種目で今年、自己新を出し、平は7月順大競技会5000mで13分59秒10を出して14分をきった。3年のなかで一番成長したのは、四釜だ。5月、日体大競技会10000mで28分55秒56の自己新を出し、同月の関東インカレのハーフで1時間2分26秒の4位、日本人トップになった。ふだんから高低差の大きな場所をジョグし、クロカンで走り込んだ成果が結果に結びついている。7月の順大競技会5000mでは13分52秒90の自己新をマークし、順調にトラックシーズンを過ごした。駅伝経験はないが、ロングに強く、上りの適性もある。デビュー戦が楽しみな選手だ。
そして、エースの三浦龍司(2年)は、東京五輪3000mSCで7位入賞を果たし、5000mでも7月のホクレン北見大会で13分26秒78の自己新をマークした。日本カレ3000mSCでも余裕の連覇を果たし、違う次元の強さを身につけつつある。
「東京五輪が終わったあとから長距離に移行していますが、昨年経験しているので、それほど難しくは感じていません。出雲、全日本もありますが、監督からは『あくまでも箱根を意識して』と言われているので、自分もそこを目指していきたいと思っています」
前回は、全日本大学駅伝、箱根駅伝ともに第一走者の役割を担ったが、今年は果たして三浦をどのように起用するのか。初戦の出雲駅伝での区間配置が楽しみだが、三浦をうまく使うことができれば、順大は間違いなく箱根駅伝で優勝争いに食い込むだろう。
台風の目になりつつあるのが東京国際大だ。
チームを牽引するのはイェゴン・ヴィンセント(3年)と丹所健(3年)である。
ヴィンセントは、関東インカレ2部5000mで優勝、10000mでも27分30秒24で大会記録と自己ベストを更新するタイムで優勝した。5000mも5月の日体大競技会で学生記録となる13分15秒15を出し、学生陸上界ではほぼ敵なしだ。全日本ではアンカー、箱根では2区候補で、どの大学もヴィンセントが走る区間は勝負しつつもどれだけ差を縮められるかにフォーカスしている。
丹所は、5月の日体大競技会で13分46秒17の自己新をマーク。同月の関東インカレ10000mでは10位。日本インカレ5000mでは3位と、安定した成績を残している。監督にとっては外さない選手は非常に頼りになるが、丹所はまさにそういう選手だ。
このダブルエースに加え、3年生の山谷昌也、堀畑佳吾、今年箱根4区13位の宗像聖、そして出雲のメンバー入りを果たした1年生で5000m13分50秒31のタイムを持つ佐藤榛紀、日本インカレ5000mでは14位だったが持ちタイムは13分58秒00の白井勇佑あたりが箱根の主力になっていくだろう。箱根往路での優勝を狙える戦力は整っている。まずは出雲で、チームの存在感を示しておきたいところだ。
10月10日、駅伝シーズンの開幕を告げる出雲駅伝が開催される。
トラックシーズンから夏合宿を経て、各大学がどんな編成を行ない、どんな選手が成長してきているのか。
箱根駅伝に向けて、各大学の顔が見えてくる──。
(終わり)