現地時間10月3日、フランスのパリロンシャン競馬場で欧州最高峰のGⅠ凱旋門賞(芝2400m)が行なわれる。 今年は100回目となる節目の開催。日本からはグランプリ3連勝中のクロノジェネシス(牝5歳)と、天皇賞・春(阪神/芝3200m)の2…

 現地時間10月3日、フランスのパリロンシャン競馬場で欧州最高峰のGⅠ凱旋門賞(芝2400m)が行なわれる。

 今年は100回目となる節目の開催。日本からはグランプリ3連勝中のクロノジェネシス(牝5歳)と、天皇賞・春(阪神/芝3200m)の2着馬ディープボンド(牡4歳)の2頭が参戦する。他にも、今年の英ダービー馬と愛ダービー馬、ディープインパクト産駒の英愛オークス馬、武豊騎手が騎乗するアイルランド調教のブルーム(牡5歳)など、記念の開催に相応しい好メンバー15頭が揃った。

 断然の1番人気に応え、今年のGI宝塚記念(阪神/芝2200m)を快勝したクロノジェネシスの凱旋門賞遠征は、昨年の有馬記念(中山/芝2500m)の圧勝によって現実的なものになった。まず、国際レベルでの力試しとして3月のドバイシーマクラシック(メイダン/芝2410m)に出走。今や欧州を代表する名中距離馬となったミシュリフを相手に、ゴール前までの激闘の末に2着となり、レベル的にも、輸送についてもクリアしてみせた。そのあとに宝塚記念で快勝と、ここまで順調にきている。



凱旋門賞に向けて調整するクロノジェネシス

 今回は前哨戦を使わずに、レース9日前となる9月24日に成田を出発。同日に現地の滞在先に入厩した。この日程に関しては「異例の直前輸送」という声もあるが、これはドバイ遠征の時と同じで、日本で仕上げてから輸送し、現地では調整にとどめる狙いがある。

 前述のドバイシーマクラシックを勝ったミシュリフも、2月にサウジアラビアでサウジカップ(キングアブドゥラジズ/ダート1800m)を制したのち、1度本国のイギリスで仕上げ直してのドバイ遠征だった。慣れない環境で馬を仕上げることで生じるリスクを排し、確実な仕上げを求めた形だ。

 クロノジェネシスにとって唯一の誤算は、ドバイ遠征後、主戦だった北村友一騎手が落馬負傷で戦線を離脱してしまったことだ。宝塚記念では代打でクリストフ・ルメール騎手が配され、凱旋門賞の鞍上には日本でもおなじみのオイシン・マーフィー騎手が迎えられた。同騎手はイギリスでリーディングを独走中で、パリロンシャン競馬場も2018年のリニューアル初日に重賞を勝っているように、地元騎手にも引けを取らない。

 9月29日にはそのマーフィー騎手を背に、エーグル調教場の芝コースを疾走。前日にイギリスでナイター競馬に騎乗し、前夜1時にフランスに到着したというマーフィー騎手は、「日本から輸送されてきたことがわからないくらいにいい状態」と太鼓判を押し、再びナイター騎乗のためにイギリスへ"トンボ返り"した。枠順は外から2番目の14番枠。決して歓迎できる枠ではないが、26歳の若き名手はどのような手綱さばきを見せるか。

 もう1頭の日本馬ディープボンドはクロノジェネシスとは対照的に、前哨戦のGⅡフォワ賞(パリロンシャン/芝2400m)を使っての参戦。そのフォワ賞ではじわりと先手を取り、直線では後続を突き放す圧勝で、現地でも有力馬の1頭として注目されるようになった。



前哨戦のGⅡフォワ賞の勝利で評価を上げたディープボンド

 中2週での競馬は最近では珍しいケースだが、3歳春にGI皐月賞(中山/芝2000m)→GII京都新聞杯(京都/芝2200m)→GI日本ダービー(東京/芝2400m)と使い、その中で京都新聞杯を勝って、ダービーでも5着と好走している。レース後も疲労は残さず、陣営の目論見どおりの調整ができているようだ。

 しかし、こちらも直前に騎手を巡るアクシデントが発生した。フォワ賞で勝利に導いたクリスチャン・デムーロ騎手が本番でも騎乗予定だったが、優先契約厩舎であるJC・ルジェ厩舎のラービアー(牝4歳)が、当初は出走する予定がなかった凱旋門賞に参戦することになり、ディープボンドに騎乗できなくなってしまった。

 ここで白羽の矢が立ったのは、短期免許で何度か来日経験があるミカエル・バルザローナ騎手。フランスにおけるゴドルフィン所有馬の主戦騎手だが、今年はフランス調教のゴドルフィン所有馬の出走がなく、さらに同所有馬を多く擁するA.ファーブル厩舎からの出走もなかったことから騎乗予定馬がいなかったのだ。

 今回のディープボンド陣営には、バルザローナ騎手が来日した際の身元引受先だった角居勝彦調教師(当時)の息子・角居和仁助手がいたことが縁となり、バルザローナ騎手も快諾。9月29日の最終追い切りにも駆けつけて、本番に向けてしっかりとコンタクトを取ることができた。バルザローナ騎手としても、凱旋門賞は2着、3着はあるものの勝利はない。悲願達成に強い思いを抱いているのは同じだ。

 しかし冒頭で触れたように、今年はマーフィー騎手が「チャンピオンクラスだらけ」と表現するほどの好メンバーが立ちはだかる。

 ブックメーカーで目下の1番人気は、アイルランド調教のタルナワ(牝5歳)。前走GⅠアイルランドチャンピオンS(レパーズタウン/芝2000m)で2着に敗れるまで、3つのGⅠを含む5連勝中だった。その中には、パリロンシャンで行なわれた昨年のGⅠヴェルメイユ賞(芝2400m)とGⅠオペラ賞(芝2000m)での勝利も。昨年はオペラ賞ではなく、同日に行なわれた凱旋門賞に出ていても好勝負になったのではないかと言われていたほどで、今年は満を持しての出走となる。

 そのタルナワと人気を二分するのが、GⅠイギリスダービー(エプソム/芝2410m)、GⅠキングジョージⅥ&クイーンエリザベスS(アスコット/芝2390m)と連勝中のアダイヤー(牡3歳)。英ダービーは7番人気での出し抜けでフロック視もされたが、続くキングジョージではミシュリフのほか、今回も出走するラブ(牝4歳)、ブルームを相手に好タイムの"横綱相撲"で勝利した。今回はそれ以来の一戦だが、対戦成績からも侮れない。

 アダイヤーが勝った英ダービーで3着になった以外、今年の愛ダービーなど6戦すべてを勝利しているハリケーンレーン(牡3歳)は、7月のGⅠパリ大賞で同じコースを経験済み。GⅠ英セントレジャー(ドンカスター/芝2910m)から転戦する馬はこれまで好成績を残せていないが、それを補うだけの能力を秘めている。

 ディープインパクト産駒のアイルランド調教馬スノーフォール(牝3歳)は、GⅠ英オークス(エプソム/芝2410m)で2着馬を16馬身突き放しての圧勝。続くGⅠ愛オークス(カラ/芝2400m)も8馬身半、GⅠヨークシャーオークス(ヨーク/芝2370m)も4馬身差と圧勝を続けてきた。前走GⅠヴェルメイユ賞ではスローペースから差し届かずまさかの2着も、管理するA.オブライエン師は「収穫はあった」と気勢を緩めない。勝てばディープインパクト産駒による勝利となり、これも歴史の1ページとなる。

 ブルームに騎乗する武豊騎手にとっては、勝てば日本人騎手による初制覇。昨年はジャパンに騎乗予定ながら、直前で飼料から禁止薬物が見つかって出走取消となり、無念の渡航になった。ブルームは3歳後半から4歳にかけて精彩を欠いたが、今年はGⅠサンクルー大賞(サンクルー/芝2400m)など4勝を挙げて脂が乗っている。
 
 その他、デビュー以来GⅠを5勝しているラブ、ドイツでGⅠ2勝のトルカータータッソ(牡4歳)、未勝利馬の身分で今年の英ダービーで2着になったモジョスター(牡3歳)も実力馬。さらに、昨年の2歳GⅠジャンリュックラガルデール賞(パリロンシャン/芝1400m)で、同日同距離で行なわれた古馬GⅠフォレ賞よりも1秒以上速いタイムで勝利したシリウェイ(牡3歳)など、一発を秘める馬も控えている。

 10月3日はスプリンターズS(中山/芝1200m)が終わったあとも、まだまだ競馬を見逃せない。