チーム事情から見るドラフト戦略2021〜楽天編 今シーズンの開幕前、楽天を優勝候補に挙げていた方は多かったのではないだろ…
チーム事情から見るドラフト戦略2021〜楽天編
今シーズンの開幕前、楽天を優勝候補に挙げていた方は多かったのではないだろうか。則本昂大、涌井秀章、岸孝之がいて、抑えの松井裕樹も健在。そこにドラフトで早稲田大のエース・早川隆久を獲得して、さらにはヤンキースで7年間プレーした田中将大も復帰。誰もがうらやむ超強力投手陣が完成した。
ところが蓋を開けてみれば、124試合を終えたところで、57勝53敗14分のリーグ3位(9月30日現在)と、首位のロッテには3.5ゲーム差をつけられている。
おもな先発陣の成績を見ると、則本10勝5敗、岸7勝9敗、早川9勝6敗、田中4勝6敗、涌井6勝8敗、滝中瞭太8勝4敗。なにより早川と滝中以外は30代ということを考えると、若返りは必至だろう。
また今シーズン、安樂智大が覚醒して中継ぎの一角を担ったことは明るい話題だったが、守護神・松井の"勤続疲労"も気にしないといけないし、ファームにも心ときめく新鋭が見当たらないことを含めて、投手陣の補強は必至だ。
一方で、いつの間にか「1番・ショート」のポジションが2年目の小深田大翔から、4年目の山崎剛に代わっていた。じつは、小深田も山崎も、一昨年のショートのレギュラーだった茂木栄五郎も、アマチュア時代はセカンドかサードだった選手だ。今の楽天で、アマチュア時代に見る者をうらなせた遊撃手は入江大樹(仙台育英出身)ぐらい。
また6年目のオコエ瑠偉がようやく覚醒の気配を漂わせているが、「右打ちの外野手」もまだまだ層は厚くない。
チームを具体的に検証していけば、いくつもの"補強ポイント"があぶり出されてくるのが、今の楽天の現状だろう。ならば、どういう補強をすべきなのだろうか。
楽天の不安要素は、3〜5年後、近未来の投手陣を早川あたりと一緒に背負っていけそうな新鋭の存在が見当たらないことだ。左のエースが早川なら、右のエースになれる大器を獲得したい。
筆頭は、ノースアジア大明桜の風間球打(右投左打)だ。中学までは山梨で育ったため、佐々木朗希(大船渡高校→ロッテ)のように根っからの東北っ子ではないが、高校時代を秋田で過ごし、全国屈指の剛腕となった風間を指名しないわけにはいかないだろう。

今夏の秋田大会で157キロをマークしたノースアジア大明桜の風間球打
風間に不足しているのは、強豪相手の実戦経験だけ。コロナ禍の影響により県外の遠征ができず、東北大会も中止になるなど、自分の実力を試す舞台がなかなか得られなかった。それでも最後の夏は秋田大会を勝ち抜き、甲子園に出場。大舞台で2試合経験できたことは大きな財産となった。
この夏の秋田大会で157キロをマークして一躍注目を集めた風間だが、特筆すべきは試合後半でも150キロ台を出せる心身の強さ。一見、パワーピッチャーのように見えるが、変化球だけで緩急の組み立てをするなど、ピッチングの楽しみ方を知っている。なにより、速いタテの変化球は間違いなくプロで通用する代物だ。
風間が先発タイプなら、リリーフには東北福祉大の椋木蓮(むくのき・れん/右投右打)がオススメだ。ここまでほとんどの時間を肩・ヒジの回復にあててきたが、カムバックするたびに150キロを出し、いつも病み上がりというのが信じられないピッチングを見せて、見る者を驚かせてくれる。
持ち球が豊富なわけではないが、真っすぐタテに落ちるスライダーとツーシームは、わかっていてもとらえるのが困難な"魔球"であり、ここにストレートの制球力が上がれば中継ぎ、抑えで力を発揮するだろう。
このほかにも、今年の東北には好投手が目白押しである。八戸工大一高の黒田将矢(右投右打)、八戸西の福島蓮(右投右打)、日大山形の滝口琉偉(右投左打)......彼らの能力の高さというのは、今のチームの需要にも合致するはずだ。
遊撃手なら、総合力で今のレギュラークラスに太刀打ちできるのは、JR四国の水野達稀(右投左打)しかいない。実力は折り紙つきだが、それ以上に「持っている」選手なのである。
高校から入って1年目の都市対抗で、三菱重工神戸(現・三菱重工West)の好投手・守安玲緒から東京ドームの右中間に一発。四国銀行の補強選手として出場した2年目の都市対抗では、パナソニックの技巧派左腕・榎本亮を攻略。3年目の今季は、日本選手権で三菱重工Westの剛腕・八木彬からサヨナラ本塁打。大舞台で力を発揮する勝負度胸は群を抜いている。
守備も若手にありがちなポカがなく、キャッチング、スローイングともに高精度。1年目からレギュラーとして期待できる遊撃手だ。
ただ、この水野は2位以内で消える可能性があるから、上位2人を投手でいくなら別のショートも候補に入れておきたい。
セガサミーの中川智裕(右投右打)は、スローイング能力に長けた大型遊撃手だ。中川の持ち味は、187センチの体躯をコンパクトにまとめて動ける抜群のボディバランスと柔軟性。だから、力まなくても糸を引く送球が、三遊間の深いところからでも伸びる。間違いなく、フィールディングでメシが食える選手だ。
そして右打ちの外野手も重要だ。楽天がずっと注目してきたのが、昌平高校の吉野創士(右投右打)だ。全身をしなやかに連動させたスイングから、高校通算56本塁打の実績もさることながら、彼をもっと高く評価したい理由はほかにある。
吉野は、試合では金属バットでも、練習では常に木製バットを使用している。その時の飛距離、打球のスピードがすばらしいのだ。高校生でここまで木製バットを扱える選手はいない。予想しているよりも早いスピードで一軍の戦力になる可能性は高い。
この夏の埼玉大会では、腰を痛めていた影響で本来のスイングはできなかったが、評価はまったく変わっていない。
今年のドラフトは将来を見据えた補強をできるかがポイントになるだろう。