ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 秋競馬が始まって、はや3週目。3歳、古馬戦線ともにGIの前哨戦が毎週…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 秋競馬が始まって、はや3週目。3歳、古馬戦線ともにGIの前哨戦が毎週のように行なわれ、実績馬が続々と始動し始めています。次週には秋のGIシリーズの第1弾となるスプリンターズSが控えており、競馬界はより一層活気づいていくことでしょう。

 そして今週も、GI菊花賞(10月24日/阪神・芝3000m)の出走権がかかった注目のトライアル、GII神戸新聞杯(9月26日/中京・芝2200m)が行なわれます。

 同レースの検証をする前に、まずは3歳牡馬戦線の現状を整理してみましょう。

 皐月賞馬でダービー2着のエフフォーリアは、牡馬クラシック最後の一冠となる菊花賞ではなく、GI天皇賞・秋に向かうそうです。また、ダービー4着のグレートマジシャンはGII毎日王冠に出走する予定でしたが、負傷で戦線離脱してしまいました。

 菊花賞へ向かうクラシック上位馬はやや手薄な状況にあって、先日行なわれた関東のトライアル戦、GIIセントライト記念(9月20日/中山・芝2200m)では「夏の上がり馬」と呼べるような、春の重賞戦線には出走していない"新星"の台頭が見込まれました。

 しかし、同レースを制したのはアサマノイタズラ。2着にはソーヴァリアントが入って、春の重賞では勝ちきれなかった面々が結果を残しました。ソーヴァリアントは新興勢力と言えなくもありませんが、古馬相手のレースやトライアルでも新顔が出てきた3歳牝馬に比べて、牡馬戦線は春の勢力図から大きな変化は見られないような気がします。

 そうなると、どこか平穏な様相のまま、クラシック最終決戦へと向かっていくのかもしれませんね。ならば、神戸新聞杯ではダービーを制して世代の頂点に立ったシャフリヤール(牡3歳)が揺るぎない存在と言えるでしょう。

 ダービー(5月30日/東京・芝2400m)では、断然人気のエフフォーリアを撃破。GIII共同通信杯(2月14日/東京・芝1800m)ではコンマ4秒差の3着にちぎられましたが、そこから仕切り直して、ホースマンの誰もが目指す舞台で見事に逆転を果たしました。

 レコードタイムをマークしたGIII毎日杯(3月27日/阪神・芝1800m)のような消耗戦にも対応でき、ダービーのような瞬発力勝負にも圧巻のキレ味を発揮したシャフリヤール。GI皐月賞とGI大阪杯を勝っている全兄のアルアインと比較しても、レース適性の幅は広いと思われます。

 菊花賞出走への権利取りのため、誰もが大事に乗りがちなトライアル戦。しかも、今年は少頭数で行なわれるため、後方でゆったりと構えても切れ味勝負で他馬を圧倒できるのではないでしょうか。

 もともと大事に使われてきており、ひと夏を越したことによる成長も見込めます。相手関係を考えれば、ここでは無様な競馬をしてほしくありませんし、個人的な心情としても、ダービー馬にはその称号に相応しい走りを見せてほしいと思っています。

 シャフリヤールに続くのは、ステラヴェローチェ(牡3歳)。手前味噌ですが、ダービー時にはこのコラムで穴馬(9番人気3着)として取り上げた存在です。皐月賞、ダービーとクラシック二冠で連続3着。この実績は並大抵のものではありませんから、もはや穴馬ではなく、実績馬として位置づけるのが妥当でしょう。

 ただ、皐月賞、ダービーのレースぶりを改めて振り返ってみると、漁夫の利を得たというか、ともに勝ちにいった馬たちがバテたところをかわしての3着といった感があったことは否めません。対シャフリヤールということを考えれば、さすがに分が悪いでしょう。さらに、追う立場から追われる立場に変わって、この舞台で勝ちきるにはややインパクトに欠ける印象があります。



神戸新聞杯をステップにして今後の飛躍が期待されるキングストンボーイ

 さて、少頭数での争いのため、今年の神戸新聞杯で馬券の配当的な妙味を見込むのは少々厳しい感じがします。それでも、キングストンボーイ(牡3歳)を今回の「ヒモ穴馬」として取り上げたいと思います。 

 来年の2月をもって引退となる名伯楽の藤沢和雄調教師の管理馬。春にはGII青葉賞(5月1日/東京・芝2400m)で2着となって、ダービー出走の権利を得ました。

 普通なら、そのままダービーに出走していたと思いますし、藤沢調教師自身にとって最後のダービー出走のチャンスであることを考えればなおさら、無理をさせてでもダービーに送り出しても不思議のないところ。しかしながら、馬の将来を考えて出走を見送り。藤沢調教師らしい選択だと感じました。

 そうして、大事に育てられてきたキングストンボーイ。各メディアの報道でも伝えられていますが、「秋になってよくなる」という陣営の思惑どおり、調教では成長を感じさせる動きを見せているそうです。

 今回、世代の大将格と相対することは、現状の同馬の力を推し量ることができます。陣営としてはそれだけ、菊花賞へ向けて期するものがあるのでしょう。およそ5カ月の休養明けとなりますが、ここでどんなレースを見せてくれるのか、楽しみです。