「三菱地所JCLロードレースツアー2021」の第7戦「秋吉台カルストロードレース」が9月12日(日)、山口県で開催された。山口県の秋吉台を貫くコースで開催された秋吉台カルストロードレースコースが設営されたのは、なんと日本最大級のカルスト台地…

「三菱地所JCLロードレースツアー2021」の第7戦「秋吉台カルストロードレース」が9月12日(日)、山口県で開催された。



山口県の秋吉台を貫くコースで開催された秋吉台カルストロードレース

コースが設営されたのは、なんと日本最大級のカルスト台地・秋吉台を貫くカルストロード。大地を覆う黄緑色の草原と、神秘的な雰囲気を醸し出すカルスト地形の中でレースが展開されるのだ。
過去には山口国体のロードコースとしても使用され、さまざまなドラマを産んできた舞台でもある。今回は、カルストロードの両端に折り返しの周回路を設けた1周29.5kmのコースを4周する118.0kmの設定だ。
このコースのポイントは、ゴール手前1.3km地点からの急坂だ。ヨーロッパの人気レースに含まれる急坂にちなみ「カルストベルグ」と名付けられている。前半は15%前後の急勾配が続き、後半は、少し勾配はゆるくなるものの、フィニッシュラインまで一度も休むことができない勝負の区間となる。クライマーたちが競い合う力勝負のステージだ。



各賞のリーダー(首位の選手)を先頭にスタートラインに並ぶ選手たち

スタートラインの最前列に並ぶのは、各賞のリーダーたち。個人総合成績トップのイエロージャージを着るのは畑中勇介(キナンサイクリングチーム)。前レースの結果で、スプリント賞トップのブルージャージは小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)に移っている。新人賞のホワイトジャージは宇賀隆貴 (チーム右京 相模原)がキープし、山岳ステージで競われるこの日のレースでその行方が注目される山岳賞のレッドジャージは山本元喜(キナンサイクリングチーム)が守っている。

レースは美祢市の篠田洋司市長の号砲でスタート。



レースがスタート。選手たちはカルスト地形の中を走り抜ける

各チームがアタックを仕掛けるが、抜け出しては集団に飲み込まれるという繰り返しで、決定的な動きは生まれない。中間地点の大正洞前に設けられたスプリントポイントは、前レースで落車負傷した中島康晴(キナンサイクリングチーム)が先頭で通過、周囲の心配をはねのけて見せた。



最初のカルストベルグでも渾身のアタックがかかり、攻防戦が展開された

1周目の終盤、フィニッシュラインに向かう勝負の坂、カルストベルグではやはり集団が大きく割れたが、その後再び大きな集団へと戻った。
2周目のアップダウン区間で、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)がアタックして抜け出し、ここに山岳賞ジャージを着る山本元喜(キナンサイクリングチーム)、新人賞ジャージの宇賀隆貴(チーム右京 相模原)、そして渡邊翔太郎(那須ブラーゼン)、孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)が合流して、5人の逃げ集団が形成された。



5名の逃げ集団が形成され、厳しいアップダウンコースを先行した



メイン集団は逃げ集団に選手を送り込めなかったチームが先頭に立ち、ペースを作った

メイン集団は、この逃げに選手を送り込んでいないVC福岡、ヴィクトワール広島、さらにレバンテフジ静岡の選手らが集団先頭でペースを作る。先頭5名とメイン集団のタイム差は、1分台前半で推移した。



先頭集団に加わり、山岳ポイントを取りに行った山本元喜(キナンサイクリングチーム)。先頭通過を繰り返し、レッドジャージを守った

山岳賞ジャージを着る山本元喜は、軽やかにカルストベルグを上り、山岳ポイントがかかる2周目、3周目のフィニッシュラインをともに単独先頭で通過し、ポイントを重ね、山岳賞リーダーの座をしっかりと守った。 3周目のスプリント賞はスプリント力のある孫崎が先頭通過して獲得している。

最終周回に向かうカルストベルグの上りでは、先頭5名との差を縮めていたメイン集団が、大きくペースアップした。

メイン集団から抜け出した小石祐馬(チーム右京 相模原)と、トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)が、山岳ポイントを取るために先頭集団から先行していた山本元喜と合流し、新たに3人の先頭集団を形成した。



山本元喜に小石祐馬(チーム右京 相模原)と、トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)が合流、新たな先頭集団を作る

3人に行かせてはなるまいと、阿部嵩之と増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、宮崎泰史(スパークルおおいたレーシングチーム)、そして山本大喜(キナンサイクリングチーム)が集団から先行し、追走を開始する。
メイン集団の中の上り区間で一時遅れていた10人ほどが、下りを使って追走集団に合流。宇都宮ブリッツェンや那須ブラーゼンなどから複数の選手が追走に加わり、ペースアップしたことで、一時は50秒まで広がっていたタイム差が、再び縮まり始めた。



ペースアップし、逃げた3名を全力で追走する集団。タイム差が縮まり始めた

復路のカルストロードに入ったところで、ついに追走が先頭を捉え、集団は再びひとつになり、レースはいったん仕切り直しになった。
ここで新人賞ジャージの奪回を狙う本多晴飛(VC福岡)が単独で抜け出し先行する。メイン集団はキナン勢が前を固めてペースを作る。最終勝負が展開されることになるであろう最後のカルストベルグに向け緊張感が高まっていった。



本多晴飛(VC福岡)が決死のアタックを繰り出した

いよいよ最後のカルストベルグの上りに差し掛かった。単独で先行していた本多がまずここに突入する。急勾配区間に入ると、谷順成(那須ブラーゼン)がアタックして本多をかわし、先頭に立った。また2番手にも佐藤宇志(那須ブラーゼン)が抜け出し、ブラーゼンが2名先行。悲願の初優勝に向け、勝負に出たのだ。この後ろでは少し離れて増田、宮崎、山本大喜が、互いをけん制しながらも追走する。



谷順成(那須ブラーゼン)がアタック。周囲の選手たちの様子を確認する山本大喜(キナンサイクリングチーム)

残り500m のコーナーに差し掛かるところで増田が佐藤を捕らえた。後方から宮崎が一気にスピードを上げて先頭へ飛び出してきた。これに反応できたのは谷と山本大喜の2人だけだった。
勝負はこの3人の間に絞り込まれた。タフなコースで展開された厳しい戦いを走り抜け皆が消耗される中、最後の200m地点で、先頭に立ったのは山本大喜だった。2人を引き離し、単独でフィニッシュラインへと飛び込む。まさに死闘だった。



フィニッシュラインに飛び込んだ山本大喜。後方からの追い上げを恐れ、ガッツポーズもなく「前だけを見て走り抜けた」



表彰台。2位には宮崎泰史(スパークルおおいたレーシングチーム)、3位に谷が入った

この勝利で、またもやイエロージャージはキナンサイクリングチーム内で推移し、山本大喜の手に移った。兄の山本元喜は、この日山岳賞ポイントを重ね、山岳賞トップの地位をさらに強固なものとした。ポイント賞、新人賞は移動なく、小野寺、宇賀が守った。



山本大喜がイエロージャージを獲得。レッドジャージを守った元喜と兄弟で表彰台に立った

山本大喜は表彰台で、チームは全員が勝ちを狙える構成で、最終局面までエースも決めていなかったと語った。先行したトマと山本元喜とに勝負を託す気持ちでいたが、捕まり、チームの中で脚力が残っていたのは自分だけだと分かったため、チームのアシストを得て、上り勝負に挑むことになったと言う。最後は「ゴールラインを切るまで、(誰か追って)来るんじゃないかとビクビクして、前だけを見て走り抜けた」と振り返り、チーム一丸となって1勝でも多く勝ちたい、とコメントを締めくくった。

延期された熊野の3連戦の中止が決まった後は、公開のないままだった10月以降のレーススケジュールだが、海外勢を招いての国際レースとしての開催を断念したおおいたいこいの道クリテリウムと、おおいたアーバンクラッシックが国内レースとして、10月9日、10日に開催され、JCLのポイント付与対象レースと位置付けられることが発表された。また、10月31日と、11月6日、7日に、北関東エリアで新たなレースの開催が調整されているという。この5戦の結果で、リーダージャージの行方が決まることになる。

現時点でランキング上位勢のポイント差は小さく、1戦の優勝ポイントでも順位は入れ替わりうる。特におおいた2戦のポイント配分が大きく、今後この5戦の状況で、順位は大いに変わる可能性を秘めている。3月に開幕し、調子が落ちてくる選手も少なくないシーズン終盤時期の開催ということ、10月23、24日に延期された全日本選手権の開催が予定されていることから、最終戦は特に選手たちのコンディションの調整という要素も大きくなってくるだろう。

今年も新型コロナウィルス感染拡大の影響が大きく、リーグ戦のスケジュールにも変更が相次いだが、選手たちの踏ん張りと、映像のライブ配信により、多くのファンたちが見応えのあるレースを観戦できる環境が実現した。今年をバネにした来年の発展を期待しつつ、最後までリーグの行方を見守りたい。

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【結果】JCLプロロードレースツアー2021
第7戦秋吉台カルストロードレース 118km 平均速度38.60km/h
1位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)3:03’23”
2位/宮崎泰史(スパークルおおいたレーシングチーム)+6″
3位/谷順成(那須ブラーゼン)+14″
4位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)+19″
5位/小石祐馬(チーム右京 相模原)+23″
6位/佐藤宇志(那須ブラーゼン)+25″

【イエロージャージ(個人ランキングトップ)】
山本大喜 (キナンサイクリングチーム)

【ブルージャージ(スプリント賞)】
小野寺玲 (宇都宮ブリッツェン)

【レッドジャージ(山岳賞)】
山本元喜(キナンサイクリングチーム)

【ホワイトジャージ(新人賞)】
宇賀隆貴 (チーム右京 相模原)

【地元特別表彰】
スプリントポイント先頭通過
大正洞清風苑賞(1周目)中島康晴(キナンサイクリングチーム)
サファリランド賞(3周目)孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)

山岳ポイント先頭通過
荒川電気工業賞(2周目)山本元喜(キナンサイクリングチーム)
山口県自転車競技連盟賞(3周目)山本元喜(キナンサイクリングチーム)

敢闘賞
山口マツダ 敢闘賞 小石祐馬(チーム右京 相模原)

画像提供:JCL ロードレースツアー(株式会社ジャパンサイクルリーグ)
三菱地所 JCL ロードレースツアー2021公式サイト

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