スポーツの世界の大きな矛盾を端的に示した会見だった。トヨタ自動車の豊田章男社長が9月18日にスーパー耐久シリーズ第5戦が行われている鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で記者会見し、日本で今年予定されていた2輪、4輪の世界選手権全てが中止となっ…

 スポーツの世界の大きな矛盾を端的に示した会見だった。トヨタ自動車の豊田章男社長が9月18日にスーパー耐久シリーズ第5戦が行われている鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で記者会見し、日本で今年予定されていた2輪、4輪の世界選手権全てが中止となったことについて強い遺憾の意を示した。

 「五輪で許されても、4輪、2輪は許されない。われわれ4輪、2輪系から思うと、不公平感を感じる。五輪も支援させていただきましたし、アスリート支援をしております。ただ、モータースポーツもアスリートだと思います。そして、五輪、パラリンピックも皆、彼らは、彼女らはアスリートだと思います」

4月の東京五輪・聖火リレーに参加したトヨタ自動車の豊田章男社長(トヨタ自動車提供)

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 これは川崎重工との共同会見の中で「日本自動車工業会会長」の立場として語ったもの。シリーズに参戦する水素エンジン仕様のカローラに川崎重工も手がけるオーストラリア産の褐炭由来の水素が使われていることから開かれた会見だが、川崎重工もオートバイメーカーで、中止となったオートバイの鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿サーキット)に出場の予定だった。

 豊田社長は「同じアスリートに対して、どうして入国に対しての許可が違うのとか、どうして開催の判断が違うだとか」と続け、「モータースポーツに関しては外国人選手がなかなか入国できないなどもありましたので、一言で言うと『五輪で許されても、4輪、2輪はなぜですか?』というのを、見出しにしてください」と不公平感があることを切に訴えた。

 昨年に続いて2年連続で中止となったのは2輪がモトGP世界選手権・日本GP(ツインリンクもてぎ)、トライアル世界選手権(同)、世界耐久選手権の鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿サーキット)。4輪はF1日本GP(同)、世界耐久選手権・富士6時間耐久レース(富士スピードウェイ)、世界ラリー選手権(WRC)のラリージャパン(愛知、岐阜)。

 いずれも新型コロナウイルス感染拡大の影響で外国人選手、関係者の入国のめどが立たなかったため。簡単に言えば、政府が入国ビザの発給について「OK」の姿勢を見せなかったことから、開催を断念せざるを得なかったということだ。

 例えばF1日本GPについては東京五輪のようにバブル方式を徹底させ、関係者のホテルを数カ所に集中させて、サーキットの移動を含めて外部との接触を厳重に避ける措置を講じられる計画だったが、政府から明確の回答を得られなかったという。

世界ラリー選手権に参戦するトヨタのヤリスWRC(トヨタ自動車提供)


 この夏には東京五輪・パラリンピックが開催され、海外から大量の選手や関係者が流入したが、一定期間の隔離を条件に入国することができた。その後にはサッカーのワールドカップ(W杯)アジア最終予選が始まり、9月2日には大阪・吹田市で日本―オマーン戦が何の問題もなく開催された。

 同7日にサッカー日本代表はカタールに移動してアジア最終予選の中国戦を行ったが、中には帰国してJリーグの試合に臨む必要がある選手もいた。海外からの帰国者は原則的に2週間の自主隔離が求められるのだが、Jリーグの発表によると、カタールから帰国したサッカー日本代表選手に関しては「入国後3日目より新型コロナウイルス感染症の検査で陰性が確認された場合に試合出場可能」との規定が日本政府によって設けられたという。

 W杯の主催は国際サッカー連盟(FIFA)だが、F1を主催する国際自動車連盟(FIA)、モトGPなど主催する国際モーターサイクリズム連盟(FIM)も同列の国際スポーツ団体。仏ルマン24時間レースなど世界耐久選手権に参戦した中嶋一貴、小林可夢偉らは2週間の自主隔離の方針に則り、隔離期間と重なる国内レースについては出場できなかった。この違いは何なのか、疑問が残るし、不信感も募る。

 この会見についてはトヨタ自動車自体も動画映像を同社の公式ツイッターで伝えたほか、「世界3大レースで日本車が優勝した年… なのにF1•WRC•MotoGP•鈴鹿8耐が日本ではできない… この状況をどう感じているか? 鈴鹿で行われた記者会見で、そんな質問があり 社長の豊田は答えました」と文字にしたためて、臆することなく問題提起した。

 SNSなどでもネットユーザーから「五輪だけじゃない。なぜサッカーW杯の地区予選が可能で、世界大会の本戦であるF1が開催できないのか」「大事な産業のひとつなのに理解されない自動車・バイク。ただ悔しい」との意見も聞かれた。

 与党の自民党にも「モータースポーツ振興議員連盟」があるはずだが、政府や関係省庁に何らかの働き掛けはしていたのだろうか。モータースポーツに打ち込む選手もまごうことないアスリートの1人。スポーツの世界でも『職業差別』はあってはならない。

[文/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)



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