2021年スーパーGT第5戦の舞台は東北・宮城にある「スポーツランドSUGO」。同地では2年ぶりの開催となった。SUGOでの大会は毎回、荒れることが多い。今回も各チームにトラブルが続出し、GT500クラスでチェッカーフラッグを受けたのは1…

 2021年スーパーGT第5戦の舞台は東北・宮城にある「スポーツランドSUGO」。同地では2年ぶりの開催となった。SUGOでの大会は毎回、荒れることが多い。今回も各チームにトラブルが続出し、GT500クラスでチェッカーフラッグを受けたのは10台というサバイバルレースとなった(公式データで12位まで順位がついているのは、11位と12位のマシンが終盤でレースを終えたものの規定の周回数を超えているため完走扱い)。

 そんな荒れた1戦を制したのは、前戦の鈴鹿に続いて日産勢。「元祖日本一速い男」星野一義監督の率いるカルソニックIMPUL GT-R(ナンバー12)がトップでチェッカードフラッグを切った。



パルクフェルメで抱き合う平峰一貴(左)と松下信治(右)

 かつてチーム・インパルは毎年優勝争いに必ずと言っていいほど名を連ね、2015年には最終戦までチャンピオンを争いランキング2位。しかし、2016年の第5戦・富士で安田裕信/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組が表彰台の中央に立って以降、勝利から遠ざかっていた。

 ただ、チーム・インパルが単に低迷していたのかというと、必ずしもそうではない。

 佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー組で臨んだ2018年の第5戦・富士「500マイルレース」では、途中までトップを独走。優勝は確実と思われたが、レース終盤にマシントラブルが発生して脱落を余儀なくされた。

 2019年は、GT500クラスで6度の優勝経験があるジェームス・ロシターを招聘。佐々木とコンビを組み、開幕前テストでは連日トップタイムを記録するなど好調な走りを見せた。ただ、開幕戦・岡山は3位を獲得できたものの、それ以降は歯車が噛み合わないレースが続き、不本意なシーズンで終えた。

 2020年はロシターに代わり、GT300クラスで勢いのある走りを見せていた平峰一貴を起用。積極的な走りで第6戦・鈴鹿では2位表彰台を獲得したが、同じ日産勢のMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)に競り負け、あと一歩のところで勝てなかった悔しさの残る結果となった。

 こうして気がつけば、勝利から遠ざかって数シーズン。もちろん結果が出ないと、周囲の風当たりも厳しい。それでも現役時代から闘志あふれる星野監督を慕い、スポンサーやタイヤメーカーは協力を惜しまなかった。

 12号車と言えば、ブルーのカラーリングで車体を彩り、長きにわたってトレードマークとなっている「カルソニック」が有名だ。ただ、そのブランドを展開していた自動車部品メーカー「カルソニックカンセイ」は2019年秋に海外企業と経営統合し、グローバルブランド「マレリ」として展開することになった。

 これにより、カルソニックというブランドは市場から消えた。だが、世界中にファンの多いカルソニックのロゴと青いカラーリングは、そのまま継続されることになった。

「これだけ長い間勝てなかったのに、それでもフォローし続けてくれたカルソニックには、本当に感謝です。ここ最近は日産勢が低迷していた時期もあったけど、とにかくカルソニックに"優勝"という成績を持って行きたかった」(星野監督)

 シーズン前に「今年こそ勝つ!」と力強く語っていた星野監督の想いに、ドライバーたちが応えた。

 SUGOで行なわれた第5戦。予選3番手からスタートした12号車は、今季からチームに加入した松下信治がホンダNSX-GTの2台を相手に一歩も引かない走りを披露する。一時は4番手に下がるものの、積極的に攻め込んで2番手に浮上。33周目にピットインし、平峰にバトンタッチした。

 後半もホンダとの攻防戦となったが、平峰は渾身の走りでポジションを死守。すると、トップを走っていたARTA NSX-GT(ナンバー8)がペナルティで後退したため、残り30周のところで12号車がトップに浮上した。

 前回の鈴鹿で、平峰は自身が担当したスティントでライバルに先行を許し、悔しい結果に終わってしまった。その悔しさを晴らすかのように今回は後続を引き離す走りを見せて、見事チームに5年ぶりの勝利をもたらすチェッカードフラッグを受けた。

 平峰と松下にとって、GT500クラスは初勝利。ともにレースキャリアのなかで苦労が多かっただけに、パルクフェルメで再会したふたりは喜びを爆発させた。

 そして、ふだんは厳しい表情の星野監督の目にも涙があふれていた。

「長い間勝てなくてイライラしていたんですけど、こうして勝つことができてホッとしました。いろいろな人が『星野さん、星野さん』って言って協力してくれて、タイヤに関しても急なリクエストを聞いてくれたりして......みんな積極的でした。だからこそ、結果で恩返しをしたい思いがありました。

 僕は古い昭和の生まれで"義理人情"で生きてきたから、それ(恩返しできたこと)がうれしくて......。今日は気持ちよく眠れるんじゃないかなと。本当にみんなの協力があっての勝利です」

 この優勝で平峰/松下組はドライバーズランキング6番手に浮上。トップとのポイント差は大きいが、残り3戦の結果次第では年間チャンピオンの可能性も残されている。星野監督は力強く語る。

「ホンダ、トヨタが速い時もあるので、そう簡単にいかない部分はある。だけど1戦1戦、全開でいく。(第6戦は)ウェイトが積まれることになるけど、次もがんばるよ!」

 今年のチーム・インパルは、星野監督の現役時代を彷彿とさせるような"攻めの走り"が蘇った。残り3戦、名門復活に向けて目が離せない。