「僕は、ダンサーがより良く幸せになれたらと考えているんですが、ダンサーが自身のダンスで自分の表現を認めてもらい、個々の承認欲求が満たされ、かつファンが増えていくことが、自然の流れになることが、とても大…
「僕は、ダンサーがより良く幸せになれたらと考えているんですが、ダンサーが自身のダンスで自分の表現を認めてもらい、個々の承認欲求が満たされ、かつファンが増えていくことが、自然の流れになることが、とても大切なのではないかと思います。コンテストやバトルでただ勝ちたいというのはSNSのイイネとも似ていて、脳内で一瞬炸裂する快感を味わいたいのかもしれませんが、それがその後の自分のライフスタイルや人生にどう影響を及ぼすのかってことですね。幸せに基準はありませんが、もっと本質的なところでダンサーが幸せになることはどういうことかと日々考えています」。
「いま取り組んでいる音楽の問題もそうで、ダンス動画は音楽のシンクロ権が問題なので、それを開放することによって、音楽とダンス動画が合体出来て、海外にも発信できる。それが自分達のものになるという挑戦です。でも、これもまだ「すごいですね」って概念があっても、皆の合点がいっていない。この理解が深まると、『あ、ダンサーが権利を持てるって意味はこういうことなんだな』と分かってくれるかなと思っています」。
あらためて、ダンサーが幸せになるということを、ここまで真剣に考えて実行してくれる人は、これまでいなかったけれど、とうとう出現した!と筆者は全ての現役ダンサーに向けて、祝福を贈りたい気持ちになってくる。
「あとは、これからDリーグの子たちへの注目が増すにつれて、ポジティブな応援だけでなく、あそこをミスった、ここが嫌い等、ネガティブな反応も出てくると思うんですが、それに一喜一憂しているようじゃプロじゃない。そういう反応さえも人気の内、という捉え方も浸透させたいですね。そして、ダンスという分野だけでなく、情勢を知り、色々なものを見て勉強することで、それをダンスに持ち帰って踊りを深めてほしい。まあでも、現役のダンサーの子たちに、「色々勉強してから踊って」なんて言っても、みんな勉強したいとも思ってないし、「上から目線でなんかウザいこと言ってるよ」と思われているだけかもしれませんけど(笑)」。
■FIDA(日本国際ダンス連盟)の設立、そしてD.LEAGUEのセカンドシーズンへ
「圧倒的にこうなるだろうって、自分が頭の中で見たビジョンを信頼しきっているんです。その景色にならないって思ったことがないです。今までも、絶対そうなると思っていると、勝手に色んな人と出会って、勝手にそうなって動いていくので。そういう意味で言うと、これが自分のものって感覚もないです。自分のビジョンですけど、そのビジョンは自分の幸せだけを考えているものでは一切ないので。『こういう世界が創られたら、世界中が熱狂するし、ヤバいことになる』って像を、ずっと想像しているだけなんですよ。Dリーグを、創りはしましたけど、これは、Jリーグやラ・リーガ、NBAやNFLみたいなものになると思っているし。だから、ここまで来たのも、メンタルや意思の強さで推し進めたと言うよりは、『絶対にこのビジョンをやり遂げて死のう』って決めているだけですね。そこは自信があるんです」。
不思議な感覚。それこそ、量子力学の波動の法則通りに、神田さんのバイブレーションがビシバシと伝わってきて、彼の見たビジョンが自分にまで投影されて見えてくる気さえしてくる。人を動かす力というのは、こういうことなのだろう。
「これも例えですけど、もしもマイアミに広大な土地をもっていたとしたら、自分も住むけれど、広大すぎるから、『皆も住んでよ』ってなると思うんですよ。もともとは自分の土地だけど、気にしなくなるというか。それが小さかったり中途半端な広さだと自分の物だと専有性にこだわることになるんだと思うんですね。そんな感覚で、Dリーグがどれだけ広がっても、ダンスアライブがどれだけ大きくなっても、自分のモノ感はあんまりない。その場でみんなが遊べて、結果、それで財を成しても、その財でまた新しいものを作って、それを贈り返している感じです。皆、自分の好きなダンスで食べていきたいのに食べていけないから、自然と食べていける環境を整えたい、というのもそうですね」。
話を聞いていたら、一つのイメージが筆者の頭をすり抜けた。そういえば、神田さんの風貌は、ミュージカルだったら「ジーザスクライスト」のキャスティングなども嵌まるかもしれない。そう〝救世主“だ。インタビュー中、心の中でこっそり膝を打つ。
「今回、東京オリンピックのスケボー種目で、堀米悠斗選手が金メダルを取りましたけど、オリンピックの後はLAに行って、アメリカのストリートリーグに参戦するそうです。国内には彼の受け皿がなかったんですよ。でもブレイキンが正式種目となる2024年のパリ・オリンピックで、ISSEIかShigekixかTSUKKIなのか、女子もいっぱいいますけど、誰かがメダルを取ってきたら、その先にはDリーグがある。彼らの受け皿にもなれると思っています。そうなれば、オリンピックのメダリストだからこそ、年棒5千万、1億円って世界が実現するかもしれないし、Dリーグがオリンピックとどう関わるかだけではなくて、次の3年後のオリンピックに向けて選手をサポートする場として存在するってことも、必ず良い結果につながっていくと思っています」。
■D.LEAGUEをNBA級の世界最強ダンス・リーグに
「今後は、FIDAをアジアにもつくって、その下にプロリーグをつくれるような素地を整備していくのがこの10年くらいの目標です。日本に本部を置いた国際連盟組織をつくる準備も具体的に始まっています。でも、創るだけなら誰でもできるので。当然それを武器に、シンガポール、韓国、中国などの色々な国にリーグの誘致をかける。「リーグを創りませんか」と働きかけて、日本のDリーグをモデルケースとして持っていく、というイメージです。でもその実現には少し時間が必要だとは思うので、先に各国代表の1チームをその国の企業とかにつくってもらって、日本のリーグに参戦し、半年滞在してもらう。なんてことも、コロナ明けに実現したいと考えています。あとは、海外でのラウンド開催ですね。それぞれ1ラウンドを協賛してもらって、F1やスーパーGTみたいに、ドバイ・ラウンド、モナコ・ラウンドを開催する、みたいなことが、各国との協力で出来ないかとも考えています」。
「そしてゆくゆくは、バスケのNBAが世界最強のバスケットリーグであるように、日本のDリーグをダンスのリーグのなかでは世界最強のリーグにしようということも、CEOの平野さん、EXILE HIROさんと話していることです。国外に輸出してプロリーグを創ろうと考えていますが、それでも、海外のダンサーたちが、「日本のD.LEAGUEに一番行きたい!入りたい!」となるようなものにしていきたいですね。いつかはバスケのNBA選手のような年俸を、まさかの日本のDリーグのダンサーが稼げるようになる、そんな未来を思い描いてます」。
神田さんの口から次々に飛び出してくる、今後実現してゆくビジョンを聞いているのは本当に楽しい。ダンス界にそんな未来が訪れるなんて、とてつもないことのようにも聞こえるが、いや必ず実現してくれるに違いない、と思っている自分もいる。彼の元に、一緒にビジョンを観たいと、人や企業が集まってくるのも、よくわかる気がする。
「いままでは『ダンサー』といいながらも、インストラクターもして、稼がなくては生活をしていけないというのがダンス界の現実でした。ダンサーとして描く最高の夢が自分のスタジオを持つことまで、という時代が長かったのです。自分の母親がダンサーだったことも影響していますが、それが当たり前だという現実にも疑問を呈したんです。
ダンサーが、練習とショーをするということだけで、その対価として年俸で給料を稼ぐということ自体今までになかったことなので、そこはひとつ、歴史を変えられたのかな、とは思います。
まだまだこれからも、色々な問題が起きるでしょうが、乗り越えて。乗り越えた分みんながどんどん磨かれていくと思いますし、その磨かれた後も見直して、賛否もあるなかで繰り返して、3年目、5年目、10年目を迎えたときに、気が付けば描いた通りになってるね、出来上がって来たね、となるのかなと。いまは只々必死に、試行錯誤と繰り返して作っているだけですね。24歳からスタートして、Dリーグを始めるまで18年かかりました。今42歳ですけど、50歳までには諸々の体制を整えて、自走するようにしていきたい。そうしたら、次の10年のビジョンがあるので、それに取り組んでいきたいです。
でも、まだまだやることが多すぎて、創ったからには責任もあるし、常に時間が足りない、といつも焦っています。そして、今サッカーをやっている人たちが、FIFAを誰がいつどう作ったかなんて知らないように、30年後、50年後、100年後には、僕たちがDリーグをつくったことなんて知らない人たちが、自由に楽しむ世界になっているだろうなと思っています。でもそれでいいし、そうなっていって欲しいですね」。
未だコロナ禍の続く不安定な情勢ではあるが、11月のセカンドシーズン開幕に向けて、着々と進化をとげるであろうDリーグ、人間の根源的な欲求のひとつだとも言われているダンスが、救世主を得て切り開く未来が、暗くなるはずはない。面々と続いてきたダンスの歴史に、神田さんのビジョンによる熱き一石が投じられた2021年。そして遠からぬ未来に、その熱波が世界を席巻する日が来ることを信じて祈り、心待ちにしたい。
◆【前編】″ダンスの救世主″カリスマ・カンタローかく語りき 「絶対やり遂げてから死のうと思っている。」
◆Dリーグ唯一のガールズチーム「I’moon」が描く未来図 「夢の選択肢を増やしたい」
◆神田勘太朗が語る『D.LEAGUE』 世界初日本発プロダンスリーグ 「ダンスは世界を獲れる」
著者プロフィール
Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター 『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。