バインディングの無い一枚の板で雪山を滑走する「YUKI ITA」会場となるニセコ中央倉庫へ踏み入ると、壁一面に並ぶあらゆる形状の雪板たちに圧倒された。長さやシェイプ、ロッカーは板それぞれで、チャンネル(溝)の入れ方などボトムの形状に至っては…

バインディングの無い一枚の板で雪山を滑走する「YUKI ITA」

会場となるニセコ中央倉庫へ踏み入ると、壁一面に並ぶあらゆる形状の雪板たちに圧倒された。長さやシェイプ、ロッカーは板それぞれで、チャンネル(溝)の入れ方などボトムの形状に至ってはひとつとして同じものが無い。これでもかと個性を主張するように騒然と並ぶ姿に、誰もが立ち止まった。
その中央には長さ160センチ、幅30センチのブランクボードが30本以上も重ねて立てかけてある。3日間で相棒となり、おそらく今後もお世話になるであろう「自分の雪板」の原石。最初の2日間は、このブランクをカットして削って、自分好みの色に磨き上げる。そして最終日に「自分の雪板」でパウダーを滑る。
昨年に続き2度目の開催となるRED BULL YUKI ITAは、2月後半の3日間、30名の参加者と5名の雪板ファウンダーのみという、とっても贅沢な空間でおこなわれた。

雪板はブランクボードと呼ばれる集合材や合板をカットしただけの至極シンプルな乗りもの。パウダーにフォーカスして作られることが多い。スノーボードのようでもあるが、バインディングが付いていないことが決定的な違いだ。
おおかた“滑り手 = 作り手”のため、その人の求めるライディングスタイルや、ローカルエリアの地形・雪に適した板が出来上がる。作り手が増えればそれだけ多様な板が生まれるわけだ。
会場の壁に並んだ様々な雪板は、今回のイベントに集ったファウンダーたちのモノ。彼らは雪板を作るスペシャリストで、同時に熟達した滑り手。最初に雪板を作り、これに「ゆきいた」と命名したプロスノーボーダーの五明 淳も参加していた。「MAKE雪板」を主宰する彼は、2005年ごろから制作を始めたパイオニアで、今回のイベント用のブランクボードも彼のハンドメイド。それを手にした参加者たちはみな、一貫して「乗りやすそうな板」という感想を抱いていた。

同じ長野から参加した松浦 将(たすく)は、無垢の木から1本の雪板を削り出す独特な手法をとる。手間のかかる制作のため、他のファウンダーとは違い自分の乗る板だけを制作し続けている。ローカルエリアである白馬の斜度にフィットする、ハイスピードなガンボードが多いのも特徴だ。
岩手・八幡平エリアをベースに活動する「FANTASTICK」の玉川千善と「伽羅スノートイ」の中村 雄は短めのボードが多い。スティープな斜面への対応でもあり、同じ板でパウダーから春雪まで楽しめむために。玉川が作りあげた“下駄”と呼ばれるボトム形状はエッジの役割も果たすため、柔らかいグルーミングコースでも楽しめるようだ。
青森・八戸市にあるショップ「SCRAMBLE U.S.A」のオーナー、堀内ケンの作る板はとても独特。ソフトフレックスのフルロッカーで前を踏めばフラットになる仕様。だから後ろ足下のフィンはルースにもグリップにもコントロールできる。サーフボードやスケートボード、スノーボードまでをDIYする氏の発想と経験ならではの形状だ。
上記5名のファウンダーに加え、今回はもうひとりのゲストが参加した。ユタ州で「GRASSROOTS POWDERSURFING」を主宰するジェレミー・ジェンセン。彼のボードは雪板と少々異なるが、バインディングが無いのは同じ。「ストラップレス」「バインディングレス」「フリーフット」など、今のところ決まった名称はないが、現在、世界中で熱を帯びているのは確かだ。