第89回を迎えた選抜高校野球大会。その中で史上5校目の偉業に挑んている若き指揮官がいる。33歳の小針崇宏監督(作新学院)。選手と向き合い、チーム力を高めてきた。最初は一方的に指導するだけの監督だった。しかし、亡き恩人のひとつの助言から、考え…

第89回を迎えた選抜高校野球大会。その中で史上5校目の偉業に挑んている若き指揮官がいる。33歳の小針崇宏監督(作新学院)。選手と向き合い、チーム力を高めてきた。最初は一方的に指導するだけの監督だった。しかし、亡き恩人のひとつの助言から、考え方が変わっていった。

■史上5校目の夏春連覇へ、作新学院・小針監督が「甲子園塾」で心に刻んだ名将の教え

 第89回を迎えた選抜高校野球大会。その中で史上5校目の偉業に挑んている若き指揮官がいる。昨夏の甲子園覇者・作新学院(栃木)は23日の1回戦・帝京五(愛媛)戦に9-1で快勝。春夏連覇へ向けて好発進し、27日は秀岳館(熊本)とV候補同士で激突する。

 今大会は昨夏Vの原動力となった150キロ右腕・今井達也(西武)のようなスター選手はいないが、昨秋の関東大会を制した力はチームワークそのもの。33歳の小針崇宏監督が選手と向き合い、チーム力を高めてきた。最初は一方的に指導するだけの監督だった。しかし、亡き恩人のひとつの助言から、考え方が変わっていった。

 高校野球の若手指導者講習会「甲子園塾」というものが2008年から行われているのをご存じだろうか。教員歴10年未満の高校野球の監督が、甲子園経験豊富な指導者からその教えを学ぶもので、名将たちの言葉に若手が耳を傾ける。小針監督もその塾生の1人だった。2009年の冬に受講した。

 講師には箕島(和歌山)の故・尾藤公監督、星稜(石川)・山下智茂元監督らが講師を務めていた。小針監督は同年夏、甲子園に初出場したが、長野日大に8-10で初戦敗退した。

■名将から叩き込まれた教え「愛情を持って、選手に接しろ」

 初めての甲子園で大敗。この試合が転機になった。「監督の差が出た試合。選手を勝たせてあげられなかった」と試合後に振り返った。甲子園塾に足を運んだのも、甲子園で勝てる監督になるためだった。

「尾藤さんも、山下さんも共通して『愛情を持って、選手に接しろ』とおっしゃっていましたね。厳しくてもいいから、愛情を持って接しなさい、と。しっかりと褒めなさい、と」

 今まで聞いたことのない指導論が心に響いた。

「高校野球には愛がある」「ボールの中には神様がいる」

 重く感じた言葉を栃木に持ち帰った。特に実戦したことはミーティングだった。「毎日ではないですが、やるようになりました。選手に考えを伝えて、自分が引っ張っていくというのは大事だなと思いました。自分が変われた気がします」。それまでは根性論や技術論を頭ごなしに言っていたが、最近では取り組む姿勢のことの方が多いという。

■「やらされた1時間、自分でやる30分では成果が違う」

「やらされる練習ではなく、自分からやる練習をどうしていくかということ。やらされた1時間、自分でやる30分では成果が違うのかなと思う。その気にさせるために叱咤激励しながら、選手の姿勢を大事にさせてきました」

 次第に選手達にも考えが浸透し、自分で考えるようになったという。昨年のチームでいえば、栃木大会を制した時、当時主将の山本拳輝が「まだ(栃木の)6回戦(決勝)が終わっただけ」と県の優勝が通過点であったことを強調した。小針監督が言おうと思っていた言葉を発し、まだまだこのチームは強くなると思ったという。実際に最後まで夏の甲子園を戦い、改めて高校生のすごさを感じたという。

「選手の力を引き出したいというのはどの監督さんも思う。叱って、後に残らないのは厳しい。ただ、自分の思いもぶつけないといけないし、その辺のコミニュケーションが少し前と変わってきた感じがします」

 厳しさを持ちながら、愛を持って接する。時間はかかるけど、伝わっていく。そう信じた。尾藤監督は小針監督らを指導した甲子園塾の後に体調を崩し、2011年の3月にこの世を去った。名将が言いたかったことが少しだけわかったような気がした。教えを守り、1982年夏、1983年春を連覇した池田(徳島)以来の快挙に挑んでいる。