スーパーフォーミュラは今季第5戦が終了し、残るは2戦。実力が拮抗するゆえ例年であればここでタイトルの予想は時期尚早だが、今季ばかりは“決定的”だと多くの関係者が感じたことだろう。 ■下馬評では劣勢予想…

スーパーフォーミュラは今季第5戦が終了し、残るは2戦。実力が拮抗するゆえ例年であればここでタイトルの予想は時期尚早だが、今季ばかりは“決定的”だと多くの関係者が感じたことだろう。

■下馬評では劣勢予想も覆した野尻

3勝目を挙げた野尻智紀(無限ホンダ)の強さは圧倒的だった。昨季、この野尻を含めたタイトル候補4人により最終戦で演じられたドラマはまさに、スーパーフォーミュラの魅力が凝縮されたものだった。今季はそうした展開は見られなさそうだが、逆に滅多にない決着と価値を感じる。

第5戦下馬評では、ツインリンクもてぎが舞台ということでホンダ勢の劣勢が予想されていた。現行のエンジン規格が採用された2014年以降、ホンダエンジンの勝利は1度のみ。多くがクローズアップしたのは、前戦を欠場したインパル・トヨタの平川亮だった。今季は有効ポイント制が採用されているため、ここで優勝すればタイトル争いに加わることができる。平川は昨年まで、2年連続でもてぎ戦を制している。

■予選Q1では2位に1秒差をつけてトップ通過

こうして迎えた土曜日の最初の公式セッション、土曜日のフリー走行でトップタイムをマークしたのは野尻だった。だがまだ、この時点で勢力図は読めない。ベストタイムはいずれも予選シミュレーションを行いマークしたものだが、各マシンそのタイミングは異なっているし、セッティングはそこから本番までにアジャストされ、そこで飛躍的に伸びる場合もある。野尻の今回の強さがはっきりと見えたのは、午後の予選Q1だった。

今回の予選はQ1、Q2ともに2グループに分けられ、Q1ではそれぞれ上位7台の計14台がQ2に進出、Q2では上位4台ずつ計8台がQ3に進出できるというルール。予選Q1Bグループで出走した野尻は、1分31秒336をマークしトップ通過した。このタイムが実に、2位に1秒以上の差。予選でトップ10が1秒差以内というのが普通にあるスーパーフォーミュラでこれは、異次元の速さだ。

野尻はQ2もトップ通過。ポールを決めたQ3では、1分31秒073でコースレコードを破った。予選とはいえこれだけ差があると、特に今回はコース上でオーバーテイクが難しいもてぎが舞台ということで、優勝の可能性は極めて高い。

■公式セッション5つでトップを飾り“完全勝利”

決勝では野尻は2位に大差で勝ったわけでないが、2位の関口雄飛(インパル・トヨタ)の動きに対し冷静に対処しリードを保ち続ける、余裕のあるレース運びを見せた。

もてぎということで2番手の関口、3番手の松下信治(ビーマックス・ホンダ)はスタートダッシュでまず果敢にバトルを挑み、その次はピット戦略でなんとか前に出ようとした。

2台だけではなく前半で4位に浮上していた平川も、ピットインを引っ張る作戦で展開を変えようとした。今回はレース距離160kmのスプリントレースでタイヤ交換を伴うピットインが義務付けられており、ピット戦略の幅は広かった。だが野尻は微塵も揺らぐことなく、5つの公式セッションすべてトップリザルトという完全勝利を成し遂げた。

■次戦で“歴史に残る優勝”の可能性も

これで2位とのポイント差は35。数字上もそうだが、加えて“決定的”な要素として次の第6戦の舞台も同じもてぎだという点。

第6戦は当初、岡山国際サーキットの予定だったが諸事情によりもてぎ連戦となった。気温、路面温度は異なるだろうが、今回圧倒的な強さを見せた野尻がコケることは考えにくい。4勝目の可能性も十分。

接戦が魅力だといつも言っている筆者にとって最終戦を前にタイトルが決定するのは本来好みではないが、今回ばかりは見てみたいと思う。F1では一人のドライバーがシーズンを通じて勝ち続け、早々とタイトルを決めてしまうことはよくある。これはマシンがすべて自由競争でそもそものポテンシャルに差があるからだ。

エンジン以外はワンメイクのスーパーフォーミュラ、しかもトップカテゴリーだけに滅多にない、歴史に残るシーズンだと注目するべきだろう。

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著者プロフィール

前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター 2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。