サッカー新ポジション論第3回:ウイングサッカーのポジションや役割は、時代と共に多様化し、変化し、ときに昔のスタイルに戻っ…
サッカー新ポジション論
第3回:ウイング
サッカーのポジションや役割は、時代と共に多様化し、変化し、ときに昔のスタイルに戻ったりもする。現代サッカーの各ポジションのプレースタイルや役割はどうなっているのか。今回はウイングについて。かつての縦突破より、カットインからのプレーがメインになってきている。
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ネイマールは現代のウイングの典型的なプレースタイルだ
<主流は偽ウイング>
現代サッカーのいくつかのポジションは、ポジション名の前に「偽」がつく事態になっている。偽センターフォワード(偽9番)、偽サイドバック、そしてウイングも偽がつくようになった。
3トップの左右に位置するウイングは依然として「翼」を持っているが、以前とは羽ばたき方が違っている。伝説のスタンリー・マシューズ(イングランド)やガリンシャ(ブラジル)のように、縦へ突破してからのクロスボールではない。
現代のウイングは実質的にインサイドフォワードで、外から1つ中へ入ったハーフスペースで、ラストパスやカットインからのシュートというのが典型的なプレースタイルだ。
その多くは担当サイドと利き足が反対の「逆足」。リオネル・メッシ(アルゼンチン)、ネイマール(ブラジル)、エデン・アザール(ベルギー)など、いずれも攻撃のキープレーヤーと言える。
かつての8番、10番のインサイドフォワードの仕事をウイングに託すのは、彼らに8番、10番の守備のタスクを負わせたくないのと、ウイングとしてのサイドアタックをサイドバックが請け負うようになったからと考えられる。
一方で、昔ながらのサイドでのドリブル突破を得意とするウイングも、数は少なくなったものの存在はしている。キリアン・エムバペ(フランス)は伝統のウイング色が濃い突破型だ。
また、2トップのシステムが普及した際に確立された、サイドに位置するプレーメーカーやクロッサーも根強く、今季のマンチェスター・ユナイテッドで左サイドに居場所を見出したポール・ポグバ(フランス)は、サイドを根城にプレーメーカー、チャンスメーカーとしての役割を果たしている。
また、サイドに位置するストライカーの系譜もある。クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)はユベントスでセンターフォワードになっているが、もともとは左ウイングだった。ただし、インサイドフォワード的なプレーではなく、中へ入ってストライカーとして振る舞うタイプである。
さまざまな偽ウイングが混在している。ただ、「ウイング」というポジション自体が消滅しかかっていた時期もあったのだ。
<縦突破全盛の時代>
一時は隆盛を誇りながら、ほぼ絶滅したポジションとして「リベロ」がある。DFの背後でカバーリングを行なう役割は、ゾーンディフェンスの広がりとともに姿を消した。
ウイングも絶滅危惧種だった。1980年代に2トップのシステムが普及していくと、FWとしてのウイングは姿を消している。ただ、サイドハーフやウイングバックに身をやつしながらしぶとく生き延び、1990年代には早くも復活の機運をつかんでいた。
システム上、最もFWの数が多かった「WMシステム」全盛の時代、ウイングは攻撃の華だった。サイドから多彩なフェイントで、あるいは抜群のスピードで、対面のDFを抜き去って決定的なクロスボールを味方に供給する攻撃の花形である。
マシューズは、フェイントに自らの名前がついた最初の例だろう。右サイドでDFと対峙すると小刻みなステップで間合いを測り、右足アウトサイドでヒュンと縦にかわしていく型があった。
1956年に初代バロンドール受賞者となっている。もっとも、この賞はほとんどタイトルのない無冠の帝王だったマシューズを称えるために創設されたとも言われていて、受賞時は41歳だ。
マシューズと並ぶウイングはガリンシャだろう。抜き方はマシューズとそっくりだが、とてつもなく速かった。縦のスペースへボールをプッシュされたら相手DFはお手上げ。まさにロケットスタートだった。完全に背後をとってからのロークロスを、ペレやババがコツコツ叩いてブラジル代表はゴールを量産していった。
マシューズ、ガリンシャに代表される縦突破型のウイングは、利き足とプレーするサイドが同じだ。1970年代までのウイングの多くがこのタイプだった。1980年代に2トップが流行ってウイングは消滅しかかるが、1990年代に入るとオランダのアヤックスが3-4-3システムとともに古典的ウイングを復活させる。
ルイス・ファン・ハール監督が率いた「マイティ・アヤックス」の右はナイジェリア人のフィニディ・ジョージ、左はオランダ代表のマルク・オーフェルマルス。ただ、オーフェルマルスはもともと右利き。言わば後天的左利きである。
イングランドでマシューズと双璧だったトム・フィニーも後天的レフティだった。本来は右ウイングだが、代表ではマシューズがいたので、左足だけシューズを履いて練習し、左ウイングとしての地位を確立したという逸話が残っている。
左利きは古今東西10人に1人程度なので、多くの右利き左ウイングは左足のキックを身につけなければならなかったわけだ。
<逆足のウイングの活躍>
世の中、右利きが圧倒的に多い以上、右利きを左ウイングに起用せざるをえない。フィニーやオーフェルマルスのように両利きなら別だが、プレースタイルはおのずと順足とは異なってくる。
WMシステムを開始したころのアーセナルの左ウイング、クリフ・バスティン(イングランド)は右利きだ。カットインからの右足のシュート、パスで大活躍し、リーグ通算150ゴールは2006年にティエリ・アンリ(フランス)に破られるまでクラブレコードだった。
左利きなのに右ウイングというケースもある。1980~90年代にリーグ4連覇を果たしたマルセイユの右ウイングは、左利きのクリス・ワドル。縦へ行くとみせて左アウトで切り返し、左足でカーブのかかったクロスボールを入れるのが十八番だった。
左ウイングが左利きのアベディ・ペレ(ガーナ)だったという事情もあるが、ワドルはイングランド代表でも右サイドが多かった。対峙するDFから遠い逆足のほうが利き足を自由に使いやすく、「カルパチアのマラドーナ」と呼ばれたルーマニアのゲオルゲ・ハジも左利きの右サイドだった。
縦のスペースへ進入する役割はサイドバックがこなすようになったので、ウイングはカットインのほうがメインになってきたのだ。マンチェスター・シティのリヤド・マフレズ(アルジェリア)のように、スペシャリストも現在はむしろ逆足になっている。
1990年代初頭は、前記したアヤックスなどウイングの復活が見られた。といっても、アヤックスのほかはオランダ代表とヨハン・クライフ監督のバルセロナなので、すべてオランダがらみではある。
システムは3-4-3、ユーロ92のオランダは右がルート・フリット、左にブライアン・ロイと順足の両サイド。しかし、アヤックス由来の3-4-3にもかかわらずバルセロナは逆足の選手が配置された。さらに、ウイングというよりストライカーを起用している。
右ウイングのフリスト・ストイチコフ(ブルガリア)は左足の強シューターだ。クロスではなくシュートに期待するなら逆足のほうがいい。もっとも、クライフ監督は右利きのガリー・リネカー(イングランド)を右ウイングで起用するなど、利き足とサイドの関係は固定的ではない。それよりもサイドにストライカーを置きたかったのだろう。
自らの現役時代がそうだったように、センターフォワードを自由にするにはウイングのポジショニングで相手のディフェンスラインをピン止めする必要があり、偽9番が空けた中央でのフィニッシュワークに、優れた選手を使いたかったと考えられる。
現代のウイングは逆足が多く、カットインからのパス、シュートに威力のあるタイプがインサイドフォワードとしての役割を担っている。近年ではロナウジーニョ(ブラジル)がその典型で、現在活躍する多くの偽ウイングの元祖と言えるかもしれない。