リオネル・メッシが第二の故郷とも呼べるバルセロナを後にし、パリ・サンジェルマン(PSG)へと移籍したことは世界中を驚か…

 リオネル・メッシが第二の故郷とも呼べるバルセロナを後にし、パリ・サンジェルマン(PSG)へと移籍したことは世界中を驚かせた。メッシといえばバルセロナ、バルセロナといえばメッシのはずだった。いったいどうしてこうなってしまったのか。その背景にあるのは、ひと言で言えば「金」である。



新天地パリ・サンジェルマンでプレーするリオネル・メッシ photo by AP/AFLO

 バルセロナには途方もない額の借金があった。13億5000万ユーロ(約1730億円)。数日前にバルセロナのラ・ポルタ会長が公表した金額だ。前任のジョゼップ・マリア・バルトメウ会長のめちゃくちゃな経営で膨れ上がった負の遺産だ。

 バルセロナに借金があったからというだけで、メッシと再契約できなかったのではない。そこにはファイナンシャルフェアプレーというルールが関係してくる。このルールはチームの健全運営を促進するという名目で設けられたもので、平たく言えば、収入以上の大きな支出を認めないことで赤字を防ぐというものだ。FIFAやUEFAが定めたもの以外に、各国リーグが独自に設けた規定があり、スペインのラ・リーガはそれが他の国よりも厳しいと言われている。

 それによると、スペインのクラブは収入の約8割しか補強や選手の年俸の支出にあてることができない。背景にはラ・リーガ対ビッグクラブの戦いがある。ラ・リーガはバルセロナとレアル・マドリードの2強状態を変え、他のチームも優勝争いに参戦し盛り上がるようにしたいと思っている。そのためにはバルサとレアルの力を削ぐ必要があり、より厳しいファイナンシャルフェアプレーを設けた理由のひとつだ。

 メッシは年俸を半額にまで引き下げることに了承したが、それでもこのルールの基準を満たすことはできなかった。コロナで収入の減ったクラブにとって、半額でもメッシの給料は高すぎたのだ(もちろんメッシだけではなく、彼の次に高額取りのフィリペ・コウチーニョやアントワーヌ・グリーズマンへの支払いも重くのしかかっている)。

 こうしてメッシの電撃退団が決定した。ちなみにメッシとバルセロナが再契約不可能の事実をラ・リーガから知らされたのは、両者が契約を交わす当日のことだった。これはスーパーリーグ参加を画策するなど、ラ・リーガの方針に従わない(ラ・リーガか推し進める投資ファンドの参入にもバルセロナは反対している)バルセロナへの嫌がらせだったとも言われている。

 メッシと昔から顔なじみの私は、急遽バルセロナに飛び、彼の涙の記者会見を目の前で見た。会見後、テレビの中継も終わったところで、一番下の息子が「パパ、本当にバルセロナから引っ越ししちゃうの? 僕は嫌だよ」とメッシにしがみつくシーンには、涙が出た。

 この時点で様々な移籍先が浮上していた。マンチェスター・シティ、PSGを筆頭に、インテル・マイアミ、ユベントスなどの噂も飛びかっていた。しかし、私はバルセロナとの再契約がまだあるのではないかと踏んでいた。彼にとってバルセロナは故郷以上の存在だ。彼が会見で見せたように、本当にバルセロナを愛していたのなら、とにかく移籍期間を目いっぱい使って、バルサに帰る道を探るのではないかと思ったのだ。実際、バルセロナ側はそのための努力をするつもりだった。

 しかし、私の感傷的な予測はあっさりと裏切られてしまった。会見で流した涙も乾かぬうちに、メッシはPSGのユニホームを手に「パリに来れて嬉しい」とにこやかに笑っていた。結局、メッシも金のために動いたのだ。私は正直、がっかりした。ひどい借金があり、最近はチャンピオンズリーグ(CL)で勝つこともできず、今後の補強のめども立たないチームに、メッシはさっさと見切りをつけ、新天地に飛び立った。

 もしメッシが本当にバルセロナに残りたいと思ったなら、その方法はいくらでもあったはずだ。

 あくまでも仮の話で考えられる例としては、1年目、メッシは月に1万ユーロ(約130万円)はもらうが、それは全額チームに寄付し、実質的には無報酬でプレーする。また、クラブは5人の主要な地元のカタルーニャ人選手に、給料を2年間だけ50%に引き下げるように協力を要請する。2年目は、1年目にチームに寄付していた月1万ユーロを報酬としてもらう。そして3年目以降、チームの経済状況が良くなってきたところで、きちんとした額の年俸とボーナスをもらうようにする。

 本人とクラブが合意できていたなら、メッシは選手人生の晩節を汚すこともなく、最後までバルセロナから愛され、永遠のレジェンドとなっただろう。

 実際、カタルーニャ人のジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルトは年俸を半額にすることを承諾した。またペドリは年俸の減額を自ら申し出た。チームの歴史的危機を皆が助けようとしている。

 もちろんメッシはプロの選手だ。彼がより高い報酬を求めるのは悪いことではない。それを誰も責めることはできない。勝てないと思ったら、移籍することも選手としては当たり前のことなのかもしれない。だが、それは彼が最終的には自分のことだけを考えているということでもある。

 メッシをあれほど愛したバルセロナのサポーターは、怒るというよりは、がっかりしている。PSGとの契約が発表された5時間後、メッシの写真はカンプ・ノウから外された。

 かつてビッグクラブには必ずシンボルとなる選手がいた。そのチームで生まれ育ち、骨をうずめる選手、チームと一体となった選手だ。ミランのパオロ・マルディーニ、マンチェスター・ユナイテッドのライアン・ギグス、ローマのフランチェスコ・トッティ......。「サッカーがロマンチックだった時代はトッティとともに終わってしまった」と、アルゼンチンのある記者は嘆いている。

 現在のサッカーはただのビジネスである。そのことをメッシが身をもって証明してしまった。

 そしてもうひとつ。バルセロナがファイナンシャルフェアプレーのためにメッシを保持できなかったのに、飛行機で2時間のパリ(PSG)では、メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペ、セルヒオ・ラモス、ジャンルイジ・ドンナルンマなど、当代きっての高給取りの保有が許されるというのは、由々しき問題だろう。

 これはスペインに比べてフランスの規定が緩いからでもあるが、PSGはそもそもリーグアンで優勝するためにメッシを獲得したわけではない。CLで優勝するためだ。それはつまりUEFAの主催するリーグの中で不公平が生じていることになる。"フェアプレー"とは言い難い。

 しかし、UEFAはこの状況に今のところ手出しすることができず、皆がUEFAに不信感さえ抱きはじめている。もしこれでPSGが今シーズンCLで優勝したともなれば、彼らは金でタイトルを獲ったも同然だ。そうなれば、メッシのPSG移籍はサッカー界に大きな波紋を投げかけるきっかけとなるかもしれない。不公平を是正するためにルールが改革される可能性もある。メッシは新たなボスマン(移籍の自由をめぐってUEFAを提訴したベルギー人選手。現行のルールができるきっかけとなった)となるかもしれないのだ。