野球部出身者を積極採用するギグセールスの4人に聞く 社会人侍ジャパンの元4番打者や、独立リーグ出身の元プロ野球選手などが…

野球部出身者を積極採用するギグセールスの4人に聞く

 社会人侍ジャパンの元4番打者や、独立リーグ出身の元プロ野球選手などが活躍する“プロ営業組織”がある。元甲子園球児の敏腕ビジネスマン・福山敦士氏が取締役を務めるギグセールス株式会社は、野球部出身者を積極的に採用し、新たなセカンドキャリアを提供している。

 IPOを目指している同社は、BtoB(『Business to Business』の略称、企業が企業に対してモノやサービスを提供するビジネスモデル)のマーケティング企業。約40人のメンバーのうち、約3割が野球部出身者だ。

 今回は同社に所属する社員で、主にアウトバウンド営業支援を行っている社員3人と福山氏に話を聞いた。NPB球団からも注目された実力者が感じる、ビジネスと野球の共通点や野球部出身者が持つ長所・短所とは。(聞き手=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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【参加者】

大谷真徳(営業部長。独立リーグ・徳島で外野手として年間MVP、首位打者、打点王などを獲得)

高島秀伍(セガサミーでは外野手でプレー。独立リーグ・香川では投手として最多勝、最多奪三振などを獲得)

沓掛祥和(慶大を経て、トヨタ自動車に入社。19年の都市対抗準優勝に貢献。社会人侍ジャパンでも4番打者を務めた)

福山敦士(慶応高時代に甲子園8強入り。サイバーエージェント、ショーケース取締役を経て、20年からギグセールス取締役。)

――今日はよろしくお願いします。まず、野球と営業に感じる共通点があれば教えてください。

大谷「どちらも泥臭さ、準備が必要ですよね。アポイントを取りにいく行動、クライアントを納得させることなどについては、緻密な準備の大切さを感じますし、地を這ってでも行くという強い信念も重要。試合までのプロセスなどを比べると、2つは似ていると思います」

高島「僕も準備の大切さは感じます。相手を観察することと、お客様によって攻め方を変えるのは似ています。投手なら打者を見て『外角を狙っているな』と観察しますが、今やっているアウトバウンドコール(顧客にかける電話)で、お客様の顔は見えないけれど、こちらの話に対する反応でどう攻めたらいいかを考える所は、凄く似ていると思います」

沓掛「僕は打てない時と、アポが取れない時の考え方が非常に似ていると思います。『なんで(球が)打てないの?』『なんで(アポが)取れないの?』とどちらも原因を探る。ターゲットが悪いのか、自分のトーク、切り返しがいけないのか。バッティングでも待つ球が良くないのか、スイングがダメなのかと、どんどん分解して考えていく。

 準備もちろん大事だと思いますが、結果から次回に繋げるアクションを決めていくことが、僕自身は好き。いろんな方のアドバイスを分解して考えていくのが、野球と似ています」

――投手、野手どちらも経験した高島さんは、ビジネスの世界で両者の考え方の違いを感じたことはありますか。

高島「投手の人は、やっぱり1人で孤立している人が多かったと感じます。逆に野手の人の方が入り込むのが上手いと感じますね。投手はマウンドと同じで『自分でどうにかする』という気持ちが強いのかなと感じます」

――ポジションや打順によって、仕事の考え方や性格などに傾向があると感じますか。

大谷「投手は高島が言った通り。捕手はやっぱり周りを見ていますよね。一塁手は柔軟性がある人が多い気がする。身体が硬いとダメだからですかね(笑)。ちょこちょこ動ける二塁手は要領がいいタイプで、三塁手はガッツマン。中堅手が意外とセンスマンで、いろいろと器用にこなしている気がします」

沓掛「僕は打順で考えると、日本の2番はバントする、次に繋ぐみたいに、やるべきことを明確にしている印象。だから、仕事もできるのではないかと思います。6番もそれに近くて、6番がいいとチームが強い印象があります。

 意外と4番もちゃんと状況を把握しないといけない。長打狙うところは狙って、狙えないところは繋ぐ。ただ、4番の一撃って相手の投手や雰囲気を壊せるものがあるので、そういう意味では特別ですね」

ビジネスに活きている野球での挫折経験は…

――3人とも野球では高いレベルで活躍しましたが、補欠だった経験や、挫折の体験がビジネスに活きていることはありますか。

大谷「学生時代に補欠になった経験がありますが、何とかして一発花を咲かせてやろうという気持ちは強くなった。負けず嫌いさ、何より向上心がついたと思いますが、ビジネスでも強みになっていると思います」

高島「僕も控えの経験がありますが、控えはチャンスがほぼ1回しかない。その1回に向けて、いかに準備して結果を残すかを常に考えますよね。営業の一発勝負の場面では、その経験を活かせていると思います」

沓掛「僕は社会人1年目、ずっと試合に出られませんでしたが、そこで人間的に強くなった感じがします。どん底を見るような経験でしたが、挫折していないエリートよりも、挫折している人の方が苦難に直面しても折れない。ビジネスでうまくいかないことも多いですが、簡単には辞めない気持ちはあると思います」

――高いレベルでの挫折経験が、今の強いマインドに活きているんですね。社会人、独立リーグ時代のエピソードはありますか。

大谷「独立リーグ3年目にMVPを獲得して、NPBの調査書も4球団くらい来ました。少なくとも育成でドラフト指名される雰囲気だったけれど、指名されなかった。当日は一般の方もいる中でのパブリックビューイングだったので、公開処刑みたいな感じ。人生で一番泣きましたね。あれから、それ以外は『大したことないな』と思えるようになりました」

高島「僕は社会人を辞めて独立リーグに行った。所属していたセガサミーは企業として安定していたので、辞めてまで挑戦したのにドラフト指名されなかったのは、やっぱり悔しかった。『やってきたことって正解だったのかな?』とも正直思いました。

 でも、知っている選手が何人もプロで活躍していて、彼らの頑張りを見ると『僕も負けてられないな』と今は思えます。野球で勝つことはできないけれど、彼らの給料などを目標にして、別の仕事でそのレベルに達したら、追いついたことになると思って頑張っています」

沓掛「僕は社会人3年目に初めて個人タイトルを獲得できましたが、試合に全く出られなかった1年目の経験が大きいと感じています。当時は『周りが見えていない』『気が利かない』と人間性についても指摘されて、プレー外でも苦しい思いをした。

 それを乗り越えたから『もう何でもいけるな』というマインドになりました。今もきついことは当然ありますが、あの時に比べたら全然問題ない。人並み以上に根性はつきましたね」

――ほかに野球で得られたもので、今に活きているものはありますか。

大谷「他のスポーツでもそうかもしれませんが、周りを見る力は養われたと思います。例えば、塁に出て『投手の癖を盗んでやろう』と考えたり、『スライダーの時は肘が下がるな』なんて癖を見抜いたりする力は、野球をやってきたからこそついた力」

高島「僕の場合、仮に野球をやってなかったらと考えたら……多分、礼儀とかもめちゃくちゃだったと思います。人と喋るのも苦手で、ずっと陰にいるような人間だった。雰囲気作りをできるようになったり、周りに馴染めるようになったりしたのは良かった。あと、独立リーグで香川の応援団は凄く熱心に応援してくれた。そういう人たちに出会えたのは良かったですね」

野球がビジネスに弊害になること「快感が得られない」

――逆にビジネスの中で、野球をやってきたことが弊害になることはありますか。

大谷「野球部ってある種、快感を求めてやっていると思うんです。ホームランを打って気持ちいい。三振で抑えて気持ちいい。そこに行きつくために辛いことをいっぱい経験して、その積み重ねで快感を得られるようになると思うんです。

 だから、営業など仕事をしていると『もっと、もっと』と求めちゃうのが1つ。それで、自分自身がパンパンになっちゃう。それも意外と悪くないなって思っちゃったり(笑)。ネガティブな部分も、ポジティブな部分もあると思います」

高島「僕の周りには、選手を辞めてから目標を見失う人が多かった。大谷さんが言った、ホームランを打つみたいな快感がなかなか仕事で得られないと思うんです。営業なら、大きい案件を取ることなどで快感を得られると思いますが、そういった快感を何も得られないと自分を見失う。

『とりあえず生活できればいいや』くらいの気持ちになってしまう人が多いんじゃないかな。僕も目標をたまに見失ってしまう時はありました。そういうときは、成功している人などにお会いして、こうなりたいというモチベーションを持つようにしていました」

沓掛「僕が思うに、ビジネスマンは集中力が違う。野球は大体3時間ゲーム。打席に立つ所とか、自分メインのところをぎゅっとまとめたら、30分くらいだと思います。僕は、野球ではチャンスで打てばいいと思っていて、前半1~2打席目まで気合を入れてなくて、3~4打席目のチャンスで打ってヒーローになるみたいな配分も考えていたんです。

 でも仕事の場合、1日8時間くらい。どこに自分のピークを持っていけばいいかわからない(笑)。ガッと集中したいタイプなのでどうすればいいんだろうって……」

大谷「これは慶応の考え方ですね(笑)。慶応は『野球部は坊主じゃないといけないの?』と考えることもそうですし、考え方が新しいと思います」

沓掛「あと野球をやっている子は『上から言われることは絶対』と、思考停止している子が多いと思います。この状態でギグセールスに来たら、自分で考えて改善できなくなる。強豪校の野球部の方がこの傾向が強いとは感じますね」

――以前、福山さんは「常識を疑う力」が古豪の野球部に欠けやすいと話していました。

福山「野球のルールもちょこちょこと変わってはいますが、大きくは変わってない。リクエスト制度などは導入されましたけど、大枠のルールは変わってない。

 一方、我々ベンチャー企業はマイナースポーツと似ています。制度なども大きく変わりますし、我々自身が発信しないと見向きもされないのが、ベンチャー企業とマイナースポーツの親和性。昔からの野球部は大企業には結構適している。でも、ギグセールスとは若干カラーが違うのかなと感じています」

――そんな野球部が、他の部活より秀でているものは何でしょうか。

福山「背負う力が強いと思います。特に学校の名前ですね。野球強豪校ではなくても『○○高校です』という、学校の看板を背負う力が他の部活に比べて強い。エナメルバック(部ごとに作り、日常的に使用するバッグ)とかもろに書いていますよね。『すげえ背負っているな……』って(笑)。看板を大事にする、組織を背負っている気持ちが、他の部活に比べると強い」

就活に向かう野球部へのメッセージ「折れない心を持つこと」

――これから就職活動、次のステップに向かう野球部の人へ、ビジネスの世界で活躍されている皆さんからメッセージをお願いします。

大谷「プロセスは非常に大事。結果に結びつかなかったとしても、どう手足と頭を動かしたか。野球部は、頭を使う前に手足を動かす伝統のようなものがあるけれど、そこをもう少し柔軟に使えればいいと思う。

 ただ、手足を使っていたが故に行動ができる面もあるので、そこは自信を持った方がいい。面接では、自分が何をやってきて成果を得たか、マイナスの部分はどこで、どう変えてきたのかを、ビジネスと親和性のある形で話ができればいいと思います。

 僕も学生の時は手と足を動かしていただけでした(笑)。野球をやっていたから頑張れるところもありますけど、『このままで駄目だな』と気付くポイントも社会に入ってからある。『野球がメインで勉強は後』と、頭を使わなかった人も結構多いと思います。いつか気付くときがくると思いますが、早く気付けるといいですよね」

高島「現役でやっている選手に関して、プロになるなどの目標があるなら、基本的にはそこに対して頑張ってほしい。僕もそうでしたが、引退してからいろんな人に会って、情報を得た方がいいと思いますし、中途半端な気持ちで会社に入ってしまったら後々後悔すると思います。

 その中で気付くこともあると思いますが、まずはいろんな人に会って、自分の良さも見つけて、自分に合った会社を選んでいただくことが大事だと思います。ですので、野球をやっている方はギグセールスが合っていると思います!」

沓掛「僕は1つだけ。折れない心を持つということ。『絶対こうなってやる』と強い気持ちがあれば、勝手に行動するし、考える。そこだけ持って、元気があって、野球部の根性があれば基本的に何の仕事でもできるって、僕自身は思っています。

 人間、動きだしたら何でもできると僕自身が証明したいと思っています。そう思うようになってから上手くいくようになった。『もっと早く気付いておけばよかった』という後悔が強いので、後悔したことや失敗談を『自分みたいになって欲しくない』という形で他の人にも伝えています。早く気付ければそれだけ人間的にも成長できるし、野球もうまくなる。本気になったら、大体のことは何でもできるってことを分かってほしいなと思います」

◆大谷真徳(おおたに・まさのり):世田谷学園高―立正大―独立リーグ・徳島
 1988年度生まれ、神奈川県出身。独立リーグ・徳島では外野手として、13年に年間MVP、ベストナインを獲得。14年には打率.340、6本塁打、56打点で首位打者、打点王の2冠に輝いた。同年限りで引退し、昨年10月にギグセールス入社。現在は営業部長を務める。

◆高島秀伍(たかしま・しゅうご):桐蔭学園高―東洋大―セガサミー―独立リーグ・香川
 1991年度生まれ、神奈川県出身。セガサミーでは外野手として日本選手権準優勝を経験。独立リーグ・香川には投手として入団し、1年目の17年に150キロ計測。18年には最多勝(8勝)、最多奪三振(110個)、ベストナインを獲得した。同年に引退後は人材関係の外部委託営業を経験。今年2月にギグセールスに入社した。

◆沓掛祥和(くつかけ・よしかず):慶応高―慶大―トヨタ自動車
 1994年度生まれ、神奈川県出身。慶大4年時に東京六大学選抜のオランダ遠征に参加。トヨタ自動車では強打の一塁手として、19年の都市対抗準優勝に貢献。社会人野球表彰で本塁打王(6本)、打点王(20打点)、ベストナインを獲得した。社会人侍ジャパンでも4番打者を経験。昨年2月に退社し、4月からギグセールスに入社した。

◆福山敦士(ふくやま・あつし):慶応高―慶大準硬式野球部
 1989年生まれ、神奈川県出身。緑中央シニア(現 横浜青葉シニア)でジャイアンツカップ優勝。慶応高では投手として2年春の甲子園8強入りに貢献。慶大準硬式野球部では学生コーチとして、同校を57年ぶりの全日本大会出場に導いた。卒業後はサイバーエージェントに入社。25歳でグループ会社の取締役に就任し、16年に独立。これまで4度のM&A(売却)を行い、20年にギグセールス株式会社の取締役に就任した。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)