「ソン・モイス(マジョルカの本拠地)へ戻ってきた久保に、万雷の拍手!」 地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』は、そんな記…

「ソン・モイス(マジョルカの本拠地)へ戻ってきた久保に、万雷の拍手!」

 地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』は、そんな記事の見出しで久保建英(20歳)の"復帰"を祝っている。

 8月14日、ソン・モイス。リーガ・エスパニョーラ開幕節のベティス戦で、久保はマジョルカでの2年ぶりの試合を戦っている。東京五輪の激闘からほとんど休む間もなく、チームに合流してわずか3日。これで出場機会が与えられるところに、クラブの期待の高さが見える。

 今シーズン、久保の目標は明白だ。

<自らの活躍によって、マジョルカを残留させる>

 それは2年前、惜しくも果たせなかった。数字的には2けた得点がひとつの目安になりそうだが、それ以上に、勝負を決める場面でチームを牽引できるか。ゴールに迫って、相手を脅かし、味方を勝利に導く。リーダー、もしくはエースとしての役割が求められる。もはやスペイン挑戦1年目のルーキーではない。
 
 その成功が、ひいてはレアル・マドリードに呼び戻されることにつながるだろう。はたして、久保はマジョルカの王となれるのか?



マジョルカに復帰し、開幕節ベティス戦に途中出場した久保建英

 ベティス戦。先制したマジョルカがセットプレーから同点に追いつかれた直後の後半15分だった。

 拍手の中でピッチに立った久保はさっそく、左サイドで戦局を動かす。ドリブルに腰の強さを感じさせた。マルティン・バリエント、ダニ・ロドリゲス、イドリス・ババなど2年前のチームメイトが多いこともあって(先発は6人が2年前の在籍選手だった)、ボールが自然と集まった。

 ハイライトは、ジョルディ・ムブラに代わってラゴ・ジュニオールが入り、久保が右サイドへ回ってからだ。

 ベティスのコートジボワール人MFポール・アコウコウが、足ごとかっさらうような荒っぽいタックルを仕掛けてきたが、久保は見事な呼吸で入れ替わってパスを受ける。そのまま、力強い推進力で前に出ていった。後ろからしつこく足を削られたが、それでも果敢に前へ出て、敵ゴール前でファウルを受けた。自らが蹴った左足でのFKはバーを越えたものの、ほとんど一人でチャンスを作った。

「このような力強いプレーを(レアル・)マドリード関係者は好む」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう主張している。

「技術面において久保の才能は疑いようがない。フィジカル面の向上、1対1での激しさという点で課題があったが、その点で成長を示した。久保のマジョルカ2年目は悪くない形で始まった」

 率直に言って、久保のコンディションがベストなはずはない。五輪を戦った選手たちは、まだ疲れを引きずる。フィジカルもそうだが、メンタルも重圧を受け、タフな戦いだったはずだ。にもかかわらず、久保はデビュー戦で力の片鱗を示した。

 もっとも、ポジションは与えられるものではない。定位置を巡る争いは熾烈を極める。「レアル・マドリードとの契約で出場保証がある」とも言われるが、力なき者が去るのがリーガだ。

 たとえばコンゴ系スペイン人アタッカーのムブラは22歳。バルサの下部組織育ちだけに高い技術を有し、ウィングプレーを武器として、昨シーズンは1部昇格に貢献した。ベティス戦も右サイドで先発し、異彩を放った。とにかく馬力がある。敵からボールを奪い取って、カウンターからの際どいシュートなどはパワー満点、攻撃の一画を担っていた。

 おそらくムブラは久保の加入でポジションを脅かされ、刺激を受けているのだろう。

「新しいムブラ!」

 ベティス戦後、マジョルカの地元紙『ウルティマ・オーラ』は、弾丸のような疾走を繰り返したムブラの成長を賞賛した。マン・オブ・ザ・マッチに近い扱いだった。

 久保はまずは定位置確保のため、交代出場の中で結果を残すプレーが求められるかもしれない。チームは4-3-3が基本布陣になりそうだ。そうなると、やはり今はムブラが陣取る右サイドアタッカーが狙い目となる。左で縦に抜け出し、ウィング的にプレーすることもできるが、やはり得意の左足を用いてインサイドに入り、選択肢が多い中でプレーしたいところ。縦一辺倒のムブラよりも、技量は豊富だ。

◆久保建英、三笘薫......東京五輪は通過点。だがどう戦ったかはその後に影響する

 胸スポンサーの入っていないマジョルカは資金面での限界もあるが、どうにか強化が進んでいる。ビジャレアルで久保とチームメイトだった若手スペイン人FWフェル・ニーニョ(父親はマジョルカで活躍したセンターバック)と、新入団選手8人目となる契約も決まった。戦う陣容はこれから固まることになるだろう。

 とは言え、リーガでは1試合1試合が勝負になる。次節は8月21日、敵地でのアラベス戦。アラベスには久保のFC東京時代のチームメイトで新たに加わったFW原大智もいる。"日本人対決"は使い古された表現だが、今シーズン、スペイン1部の日本人はたった2人だけに注目だ。