2020-2021女子ツアー終盤戦森口祐子が注目選手10名を徹底分析(前編)日本女子ツアーは今年の後半戦がスタート。昨夏からの長いシーズンと捉えれば、終盤戦へと突入している。「黄金世代」「プラチナ世代」ら若手が台頭するなか、注目の賞金女王争…

2020-2021女子ツアー終盤戦
森口祐子が注目選手10名を徹底分析(前編)

日本女子ツアーは今年の後半戦がスタート。昨夏からの長いシーズンと捉えれば、終盤戦へと突入している。「黄金世代」「プラチナ世代」ら若手が台頭するなか、注目の賞金女王争いは大激戦となっている。はたして、その行方はどうなるのか。森口祐子プロに注目選手たちについて、分析してもらった――。



稲見萌寧(22歳)
2020-2021シーズン出場32試合。優勝6回。トップ10入り17回。
賞金ランキング2位(獲得賞金1億4736万9149円)
※8月19日現在、以下同。

 プロトーナメントにおいてラウンド中、順位を示すリーダーボードを見る選手と、見ない選手がいます。稲見さんは見るそうで、理由を訊ねたら「私は自分で自分を追い込むのが得意じゃないから」と言っていました。

 要するに彼女は、ただの徒競走より、パン食い競走のほうが燃えるというか、リーダーボードを見て自らの位置とトップの位置を把握し、目指すべきご褒美(スコアや順位)が明確にわかると、本人の言葉を借りれば「スイッチが入る」ということです。

 今回の東京五輪における日本代表権争いや、五輪本番での最終日のメダル争いで見せた猛チャージもそうです。自らの立ち位置を知り、目標をはっきりと捉えたことで、自分の力を存分に発揮できたのではないでしょうか。

 そういった自分の追い詰め方を見ると、彼女はメンタルが強いのではなく、メンタルの持っていき方がすごくうまいのかなと思います。小さい頃から練習量の多さは半端ないらしく、同じことを繰り返せるメンタリティ、愚直さは、どこか不動裕理さんに似たものを感じさせます。

 稲見さんは今年のオフ、スイングが流れている感じがして、トレーニングにキックボクシングを取り入れたそうです。

 その理由を訊くと、「スイング中に脇腹(腹斜筋)が緩んで、体が流れたり、伸びたりして、バランスが悪くなっていた。それが、キックをする時は腰を入れて蹴るので、腹斜筋の力の入れ方がいい感じで身についてくれ、スイングも安定してくる」と言っていました。どんな状況にあっても、やるべきことがわかっているのも強みです。

 さて、メダリストになった稲見さん。NEC軽井沢72の練習日に疲れていないかと声をかけると、「今週からですよ!」と元気に答えてくれました。次なる目標として賞金女王を視野に入れた、ということでしょうか。楽しみです。



西村優菜(21歳)
2020-2021シーズン出場36試合。優勝2回。トップ10入り14回。
賞金ランキング4位(獲得賞金1億1565万7556円)

 身長150cm。決して体格には恵まれていませんし、飛距離も出るほうではありません。にもかかわらず、国内メジャーのワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップで優勝。それは、彼女の"粘り強さ"といったものがもたらした勝利だったように思います。

 その試合では、得意のショートウッドとパッティングが好調でした。パッティングは、左右両方の親指を合わせるように握る打ち方(拝み型=アーメングリップ)をします。

 どうしてその握りをするようになったのか、彼女に訊いたら「申ジエさんと一緒に回った時に、ジエさんがやっていたのを見て、いいなと思って。その後、自分でもやってみたら、よかった」と。西村さんはそうやって、一緒に回っている同伴メンバーのこともよく見ていて、何か学ぶべきものあれば、試してみる――そういうポジティブさを秘めた人ですね。

 また、彼女はプレー中に限らず、普段からいつもニコニコしていて、ライバルとなる選手に対してもフレンドリーです。というか、ライバルがいるから、自分のやるべきことがクリアに見えるみたいです。

 昨年の全米女子オープンでは、憧れのチョン・インジ選手と練習ラウンドを実施。その時にチョン・インジ選手のスイングテンポや、笑顔でのラウンドなどに影響を受けて、それを見習っているとも言っていました。



古江彩佳(21歳)
2020-2021シーズン出場34試合。優勝3回。トップ10入り15回。
賞金ランキング3位(獲得賞金1億3338万1325円)

 2019年秋、アマチュアで富士通レディースを制覇。直後にプロデビューして、わずか出場10試合目にしてプロ初勝利を飾りました。その後も優勝を重ねて、通算3勝とここまで本当に順調にきています。

 ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で東京五輪が一年延期となり、期せずして渋野日向子さんや稲見萌寧さんと代表権争いを展開することになりました。最終的には残念な結果に終わってしまい、このことの精神的なダメージは少なからずあったのではないでしょうか。

 そういう意味では7月の後半、アマチュア時代にも出場経験があって、思い入れのある海外メジャー、エビアン選手権に出場したことは、彼女にとってよかったと思います。点で攻めないとスコアが作れないようなコースで4位という結果を残したことは大きな自信になったでしょう。

 そして、彼女が持つプレーの正確性が海外メジャーでも通用した、という自信を得たことは、後半戦へ向けてモチベーションのアップにつながると思います。

 14本のクラブの中で、突出して得意なものはないように見えますが、逆に不得意なものも何もない。そこが、彼女の強み。となれば今後、対応力が試される海外の試合に積極的に参戦して、自らのステップアップを図るのもいいんじゃないかな、と思ったりもしています。



原 英莉花(22歳)
2020-2021シーズン出場32試合。優勝2回。トップ10入り10回。
賞金ランキング8位(獲得賞金9270万4011円)

 圧倒的な飛距離に、優れたゴルフセンス。抜群の容姿やスタイル。原さんは、天が二物も三物も与えたと思わせる選手。そんな完璧とも言える彼女ですが、ゴルフでもう一段上に突き抜けられないのは、おそらくその"完璧"が邪魔をしているのかな、と感じています。

 プレーぶりを見ていると、彼女は常に100%を求めていて、100%の結果や成果が出ないと受け入れられない"完璧主義"のように見えます。その厳しさは悪いことではないけれど、ゴルフは100%を目指すゲームではないんですよね。

 気づいたら120%の力が出ていた、ということもあるけど、それはプレーしている舞台とか、競っている相手から引き出されたり、運や偶然が重なったりして生まれるもの。自分で常に100%を出し続けようと思うと、ゴルフはきつくなってしまいます。ミスを許せずに自分を崩してしまう――彼女を見ていると、そういう危うさを感じます。

 昨年は、日本女子オープンとJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップと、優勝した国内メジャー2戦で強さを見せつけましたが、その一方で、ここまで予選落ちや下位で終わる試合も多く、好不調の波が大きいように思います。ひとつの試合を通してみても、4日間のスコアがそろわず、落差が激しいことが多々あります。

 それは、非常にもったいないこと。彼女には、80点のショットでも勝てることがある、ということを受け入れてほしい。そして、ひとつのミスを許しながら、試合で改善していく"粘り"みたいなものも身につけてほしいですね。

 彼女のようなタイプが粘りのゴルフをし出したら、周りの人はものすごく嫌だと思うし、相当な脅威となるはず。もし原さんが、そういうゴルフができるようになったら、間違いなく一段突き抜けた存在になるのではないでしょうか。



小祝さくら(23歳)
2020-2021シーズン出場37試合。優勝4回。トップ10入り16回。
賞金ランキング1位(獲得賞金1億5970万3583円)

 小祝さんは5、6月辺りに一度、パッティングが入らなくなって、少し悩んでいた時期がありました。実はその頃、私がテレビの解説をしている試合で、パッティング時の小祝さんの顔が大写しになって、「あれ?」と思ったことがあったんです。打った直後、右目でボールを追いかけていたんですよ。

 普通、カップまでのラインのイメージが描けていれば、落ち着いてストロークができますし、ボールが転がり出してから、左目、右目の順にスーッと追う見方をします。でも、ラインのイメージが描けていないと、無意識の不安感からか、打った直後にボールを追って見るのが早くなるんです。

 こうしたパッティングの異変は、パットが入らなくなることにつながり、ショットを近くに寄せたい気持ちを強くさせます。それが、スイングに影響する、という悪い流れを生み出すことがあります。

 しかし、小祝さんはそうした影響が出る前に、パッティングの小さな問題を解消できたようです。それを可能にしたのは、相変わらずすばらしいスイングの安定感があってこそ、ではないでしょうか。

 辻村明志コーチと2年前くらいから取り組んでいる下半身のリードを重視したスイングは、飛距離と安定性を目指したものです。今シーズン、「賞金女王を狙いたい」と口にしたことも、この取り組みが順調にいっている証拠でしょう。

 後半戦の初戦、NEC軽井沢72では新しいパターを投入。地元・北海道の"地クラブ"製ということで、グリップには北海道の地図があしらわれていました。これが、賞金女王への後押しになるかもしれませんね。