2020-2021女子ツアー終盤戦森口祐子が注目選手10名を徹底分析(後編)賞金女王争いに加わっている選手だけでなく、女子ツアーにはその動向が注目される選手がたくさんいる。なかでも、今年に入って話題を振りまいている選手、ファンの関心が高い選…

2020-2021女子ツアー終盤戦
森口祐子が注目選手10名を徹底分析(後編)

賞金女王争いに加わっている選手だけでなく、女子ツアーにはその動向が注目される選手がたくさんいる。なかでも、今年に入って話題を振りまいている選手、ファンの関心が高い選手5名について、森口祐子プロにそれぞれのよさ、今後の期待度などを解説してもらった――。

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吉田優利(21歳)
2020-2021シーズン出場35試合。優勝1回。トップ10入り5回。
賞金ランキング24位(獲得賞金5314万3423円)
※8月19日現在。以下同。

 アマチュア時代に日本女子オープンに出場。その時からずっと注目していたプレーヤーです。それで、プロになったらすぐに勝つだろうなと思っていたので、実質プロ2年目となる今年、7月の楽天スーパーレディースでのツアー初優勝には、「ようやく」といった印象が私にはあります。

 ゴルフのスタイルはオールラウンダーで、スイングもこれといって問題はありません。「あなた、もう少し欲を出せば、もっと勝てるのに」と言ってあげたくなるようなプレーヤーですね。

 その意味では、辻村明志コーチという良き指導者に師事し、上田桃子さんや永井花奈さん、小祝さくらさんといった良き先輩に恵まれた環境で、ゴルフに取り組めていることはよかったと思います。

 一番になりたいと思っている人たちが集うプロゴルファーという集団の中では、遠慮や気遣いより、"自分のゴルフを貫き通す"ということが相手に敬意を表わすことになる、ということを彼女には知ってほしい。上田さんはその最もいいお手本だと思うので、そこは先輩を見習って、吉田さんにはもっとガッツを出してほしいものです。

 華のあるプレーヤーだし、勝ち癖がつけば、さらに強くなる人だと思います。優勝後、初のラウンドとなったNEC軽井沢72の際に声をかけると、「(古江彩佳、西村優菜など)同期の他の選手の活躍を見ていて、内心穏やかではありませんでした(笑)」と言っていました。そう、密かにガッツを燃やしていたんですね。今後のさらなる活躍に期待したいです。



堀 琴音(25歳)
2020-2021シーズン出場20試合。優勝1回。トップ10入り5回。
賞金ランキング28位(獲得賞金4821万6332円)

 堀さんの復活優勝はみなさんと同様、私もうれしかったですし、心底「よかったねぇ」と思いました。

 2016年の日本女子オープンで、当時アマチュアの畑岡奈紗さんと優勝を争って、惜しくも2位となった堀さん。翌2017シーズンの終盤辺りから、ショットに対して違和感を覚えたそうです。2018年にはシード権を失って、ショットもさらに曲がり出して、自分のスイングを見失ってしまったと言います。

 2014年にプロ入りして、翌年にはシード入りを果たすなど、ある種、王道をいっていた選手。それゆえ、若くして陥ったスランプは、それはもう苦しかったことでしょう。ゴルフは「孤独なスポーツ」とはいえ、家族や周囲の支え、助言などがなければ乗りきれなかったと思います。その意味でも、2018年から師事している森守洋コーチの存在は大きかったのではないでしょうか。

 彼女の特徴として、スイングというか、動き全般が速い。クイックなんですよね。ただ、その点は善し悪しがあります。

 2016年の日本女子オープンの時も、10番までは完璧なプレーでしたが、11番パー3でショートパットをさらっと打って外すと、以後、リズムを崩してしまった感じでした。スイングでもクラブを上げる時にスッと上げながら、ダウンスイングで下半身が粘れていない印象がありました。

 下半身が粘れていないと、ドローボールを打つのはキツいもの。堀さんも、いい時は自分なりのタイミングで打てていたものが、悪くなると右に抜ける球が出ていたと言います。そうしたことを思うと、森コーチの指導の下、持ち球をドローからフェードに変えたことも、復活に大きく寄与したと思います。

 とにかく、この夏の1勝は多くの人の記憶に残るものでした。それを支えにして今後、彼女らしい存在感をツアーで示してくれたらいいかな、と思っています。



山下美夢有(20歳)
2020-2021シーズン出場35試合。優勝1回。トップ10入り12回。
賞金ランキング11位(獲得賞金8211万6914円)

 今年のヤマハレディース葛城で2位、KKT杯バンテリンレディスで優勝。山下さんは難しいコースで好成績を残しています。私がテレビ解説を担当したヤマハレディース葛城では、ラウンド後に彼女から話を聞けました。その話がとても興味深かったです。

 特定のコーチをつけずにお父さんと一緒に技術を磨いてきたという彼女。そのやり方としては、およそ300万円もするスイング・弾道測定器を個人で購入し、細かなショットを分析。それを数値化することで、自らのショットの特徴や欠点、修正点を見極めて、スキルアップを図ってきた、というのです。

 それによって、特に成果が出ているのが100ヤード以内のショットだそうです。グリーンの硬さは試合会場に応じて違うけれども、数値化によってキャリーとランの比率計算がわかっているので、あらゆるグリーンに対応できているということでした。実際、彼女のアプローチショットのうまさは秀逸なものがあります。

 こうした弾道測定器は近年、コーチが指導する選手たちのショットを分析するために導入するケースがよく見られるようになりましたが、彼女のように個人で購入して、というのはまだまだ珍しいことです。それでも、彼女は「投資は無駄ではなかったです」と言っていました。

 たくさんボールを打ってイメージを作ることも大事ですが、今後は山下さんのように、測定した数値をもとに技術を磨いていく、という選手が増えていくかもしれませんね。

 ヤマハレディース葛城当時はまだ19歳だった山下さん。自分の考えていることを明解に話す、聡明な子だなと思いました。



高橋彩華(23歳)
2020-2021シーズン出場36試合。優勝0回。トップ10入り13回。
賞金ランキング13位(獲得賞金7257万4766円)

 いわゆる"黄金世代"の高橋さんですが、同年齢のライバルが次々と優勝していくなかで、彼女はいまだに初優勝に手が届いていません。これまで優勝まであと一歩という試合は3試合ありましたが、それらはいずれも最終日に追い上げてのものではなく、最終日をトップで迎えていながらの結果ですから、本当に残念です。

 惜しくも優勝を逃した後日、コースで高橋さんに合うと「またダメでしたぁ」という感じでくる彼女。ある時、そんな彼女に私は「いいじゃない、ずっと"2位"を続けなさいよ」と、変な励ましの言葉をかけたことがあります。

 優勝へあと一歩という結果がそれだけあるのはすごいことだし、最終日をトップで迎える力があると思えばいいじゃない、というニュアンスを込めるとともに、"優勝"という結果にからめ捕られないようにしてほしい、という気持ちもありました。

 というのも、高橋さんは周囲の状況に気を遣いすぎる一面があるからです。実は2017年、宮里藍さんの日本での引退試合において、前年の日本女子アマを制した当時アマチュアの高橋さんは、藍さんと同組でラウンドすることになりました。その時、高橋さんは初日に「72」で回ったのですが、2日目は「79」とスコアを崩してしまったのです。

 ラウンド後、その理由について彼女に訊いてみると、途中で手首を痛めてしまい、思うようなショットが打てなかったと打ち明けてくれました。彼女は直近にプロテストを控えていたので、なぜ途中棄権をしなかったのか問うと、「だって、藍さんと、ですよ」と言うのです。

 のちに「まあ、それもそうだな」と思ったのですが、私はその時、彼女は周囲の状況に左右されて、自分を見失ってしまうような一面があるのかなと思いました。

 優勝争いという状況に入り込んでしまうと、誰もが自分を見失っておかしくなるもの。でもそんな時にこそ、高橋さんには「自分は今度も2位でいい」「いつもどおり」といった、どこか外れた考えを頭の中で思い浮かべる余裕を持ってほしいのです。それができれば、優勝もそう遠くないと思います。

 吉田優利さんに逆転負けをした楽天スーパーレディースのあと、先日のNEC軽井沢72で会った時、そのダメージはいかほどかと思いきや、「でも、最終日は赤字(アンダーパー)では回れましたから」と彼女。その"優勝"に変にとらわれていない様子を見て、「そうそう『2位でよし』の約束を守って上出来」と声をかけました。



渋野日向子(22歳)
2020-2021シーズン出場13試合。優勝0回。トップ10入り2回。
賞金ランキング54位(獲得賞金2226万9600円)

 渋野さんは(2019年の)あの全英女子オープンでの優勝以降、彼女自身が「自分は常にチャレンジをしていかなければいけないんだ」と思わざるを得ないものを背負ってしまったような気がします。

 そのチャレンジのために、彼女が真っ先に取り組んだのが、アメリカのPGAツアーの選手などが取り入れている、「GG」とか「シャローイング」と言われるスイング。フェースを閉じてローテーションを入れず、緩やかな軌道でクラブを下から上に抜いていくというもので、どちらかというと、安定性を重視したスイングです。

 渋野さんは石川遼さんにレクチャーを受けながら、それを身につけているそうです。見慣れないせいか、少し前まではリズムが不安定な印象を受けましたが、今は次第に、以前の渋野さんのスイングリズムに戻ってきたように思います。

 そのスイング改造に関しては、傍からとやかく言うことはないのですが、それに付随してパッティングに影響が出てほしくないな、と密かに思っています。私は、彼女の真の武器はパッティングだと思っていて、宮里藍さんの緻密で制御の利いたパッティングとはまた違う魅力が、渋野さんにはあるんですよ。

 こういうふうに打てたらいいなって思うような強気なパッティングで、(スイング改造によって)その強気ができなくなることが怖いな、と思っています。ただその反面、あのパッティングがあれば、渋野日向子は大丈夫、という気持ちもあるんですけどね。

 ところで、渋野さんはやっぱり渋野さんだな、と思ったことが最近ありました。私の知っている岡山の子が今年のプロテストに受かったのですが、その子がテスト終了後の不安な時に、渋野さんから電話をもらっているんですよ。自分のゴルフが思うようにいっていない時にでも、そうやって他人を思いやることができる人なんですよね。

 何にしても、あとどれぐらいで、また強い渋野さんが見られるようになるのか。今はその日がくるのを楽しみに待つことにしましょう。