U-24日本代表、選手たちの言葉で綴る「東京五輪・激闘録」(前編) やれることはすべてやった――。試合を終えた選手たちの…
U-24日本代表、選手たちの言葉で綴る
「東京五輪・激闘録」(前編)
やれることはすべてやった――。試合を終えた選手たちの表情には、そんな充実感が漂っていた。
スペインとの親善試合を1-1の引き分けで終え、これを締めくくりに事前キャンプを完了したU-24日本代表。東京五輪本番が間もなく始まる。
「準備期間は1カ月ほどあったが、あっという間に過ぎた。大会が始まれば中2日で試合。あっという間に終わると思う」(中山雄太)
「スペイン戦が終わり、(五輪用に)練習着が変わったりして、いよいよ始まるなという感じ。気持ちは変わらずやれればいい」(遠藤航)
「もうここまでくると、心のケアと頭の中をクリアにして挑むだけ」(堂安律)
日本の金メダルを目指す戦いは、東京スタジアム(味の素スタジアム)でスタートする。
「東京五輪(の招致)が決まったのが、2013年9月。その時から心の中で『絶対出るんだ!』と思っていた。(東京スタジアムは)小さい頃、1000円くらい握りしめて、ひとりで試合を見に行っていたスタジアム。無観客だが、いろんな人の光になれるようにがんばりたい」(相馬勇紀)
7月22日、東京スタジアム。大事なグループリーグ初戦の相手は、南アフリカである。
「選手として試合に使ってもらうのは幸せなこと。代表のシャツを着て、五輪に出られるのは普通のことじゃない」(林大地)
「1年前は、まさか自分が五輪の舞台に立っているとは想像していなかった」(谷晃生)
試合序盤、日本は5バックで守りを固める南アフリカを攻めあぐねた。
「正直5バックのほうがやりにくさはある。試合が始まってすぐ、『めんどくさい相手だな』と感じていた」(田中碧)
日本は攻撃に苦しむばかりか、次第に相手の攻撃を許す場面が増え、試合の流れを引き寄せることができなかった。
「前半はセーフティーにいきすぎたところがあった。相手が(DFを)5枚にしてくるかもしれないのはわかっていたので、そこをどう突破できるかがカギだった」(吉田麻也)
それでも日本は、落ち着いて試合を進めた。
「前半に1点をとれないと焦りが出るかな、と思ったが、思った以上にみんな落ち着いていた」(遠藤)
はたして、待望の先制点は71分。背番号7の左足から生まれた。
「今日決めるとしたら、自分だと思っていた」(久保建英)
「(久保は)何気ないボールでもゴールにしてくれるので、(パスの)出し甲斐があるというか、やっていて楽しい。そういう選手を生かすと、チームとして勢いに乗れる」(田中)
「自分が(得点したい)という気持ちがまったくないわけじゃないが、勝つことがすべて。自分が決めてなくても、タケのすばらしいゴールが決まってよかった」(林)
試合終盤は相手に押し込まれ、いくつかのピンチも招いた。
「カウンターにいけそうでもあるけど、キープもしたい。うまく時間を使うことができていなかった」(相馬)
だが、最後は守備を固めて逃げ切った。
「僕に与えられた仕事はクローザーとして試合を締めること。守備で跳ね返すことを意識して(途中交代で)入った。空中戦は僕の武器。そこはしっかり跳ね返せていたと思う」(町田浩樹)
結果は、1-0の勝利。苦しい試合だったが、日本は何より欲しかった勝ち点3を手にした。
「勝ち点3をとれたことに尽きる。初戦の緊張感やプレッシャーは想像以上にあった。普段出ないミスが多少なりとも出た」(田中)
「ここでひとつ試合ができて、ひとつ勝てたので、次はもうちょっとリラックスというか、肩の力を抜いてやれると思う」(吉田)
7月25日、埼玉スタジアム。グループリーグ第2戦で対戦するのは、メキシコだ。
ロンドン五輪の金メダル国は、今大会でも優勝候補と目される強敵。オーバーエイジ枠でA代表経験も豊富な36歳、GKギジェルモ・オチョアを加え、必勝態勢を整えて日本にやってきた。
「彼がすばらしいGKなのは誰もがわかっているが、僕らがGKの名前にビビって点をとれないようじゃダメ。名前は気にせずブチ抜いてやろうと思う」(堂安)
「どの試合もそうだが、先制点をとるととられるとでは、試合が180度変わる。前半に1点とれれば理想だが、ゼロ(無失点)で進めることが大事。その強さが今の僕らにはある」(田中)
だが、予想に反して、試合は早々に動いた。主導権を握ったのは日本だった。まずは6分、堂安のクロスを、久保が巧みに左足で合わせて先制ゴール。
「堂安選手がうまく相手をかわした瞬間に僕は走り出した。堂安選手が試合前にも、自分のことを見ていると言ってくれていた。すばらしいパスが来たので、あとは落ち着いて決めるだけだった」(久保)
「(林)大地くんが縦に(ニアサイドへ)入ってくるのが見えたので、そこじゃなくマイナスにあえて出した。(久保が)よく合わせてくれた。合わせたほうがうまかった」(堂安)
これで、久保は今大会2試合連続ゴール。
「僕としては、チームが勝てばそれでいい。傲慢にならず、チームの勝ちだけを求めていければいいかなと思う」(久保)
そして、先制からわずか5分後に追加点。相馬がファールを受けて得たPKを、堂安がゴールど真ん中に叩き込んだ。
「度胸試しなら負けないぞ、と。(相手GKオチョアを)"ブチ抜く宣言"をしていたんで、何が一番ブチ抜くこと(になる)かなと思いながら、真ん中に蹴った」(堂安)
2点をリードした日本は、守備でもメキシコの武器であるサイド攻撃をストップ。
「(サイドの)僕らがやられたら試合(の主導権)を持っていかれる。相馬、(板倉)滉と完璧に近い形で(相手を)ハメられるシーンがあった」(中山)
日本の優勢で進んだ試合は、後半半ばにメキシコが退場者を出したことで、もはや勝負は決したかに思われた。だが、メキシコは驚異的な粘りで終盤に1点を返すと、さらなる猛攻を続けた。
「簡単に勝てる試合はないと肌で感じている。常に緊張感を持ってできているのは楽しいことでもあり、金メダルを獲るのは簡単じゃないぞと見せつけられた感じもある」(板倉滉)
リードした試合をどう終わらせるか。その点において、日本は初戦に続いて課題を残した。
「完璧な試合はない。どんなにいい試合でも課題は出てくる。勝ちながら修正していければいい」(酒井宏樹)
それでも、日本は1点のリードを守り切って2-1で勝利。2連勝で勝ち点を6に伸ばし、グループ首位に立った。
「今日はゼロで抑えて、(先制後に)もう1点とってという戦い方ができたが、まだ2試合目。ここから、もう一段階、二段階と上げられたらいい」(久保)
「メキシコとは、また勝ち上がって当たる可能性があると思う」(吉田)

3連勝でグループリーグを突破した日本。
「(チームの)絆は高まっていると感じる」(相馬勇紀)
7月28日、横浜国際競技場(日産スタジアム)。グループリーグ最後の相手はヨーロッパの強豪、フランスである。
日本は引き分け以上ならもちろん、負けても1点差なら自力で決勝トーナメント進出が決まる。一方のフランスは、2点差以上の勝利が必要。圧倒的優位な立場にあるのは日本のほうだ。
「失点しなければいいとか、1失点しても勝ち上がれるとかは、もちろん頭に入れるが、あまり守りに入りたくない。1点を先にとれば、相手は落ちると思う」(遠藤)
今夏までの5シーズン、フランスのマルセイユでプレーした酒井にとっては、かつてのチームメイトとの因縁の対決でもある。
「縁を感じる。個人的にもすごく楽しみ」(酒井)
フランスの地力を警戒しながら慎重に入った試合は、しかし、一方的な展開となった。
「前半(の半ば)で1点とれたんで、あとのゲーム展開はすごく楽になった」(遠藤)
日本は27分、久保の3試合連続ゴールで先制すると、34分には酒井がボレーシュートを決めて2-0。余裕が出た日本は、後半にも交代出場の三好康児、前田大然が追加点を決めて、リードを広げた。
結果は4-0。期待を上回る圧勝だった。
「これから本当に総力戦になっていくなかで、いい戦い方ができた」(吉田)
この試合では、過去2戦をケガでメンバー外となっていた冨安健洋が初先発初出場。
「不安のほうが大きかった。最初の何プレーか怖さもあったが、そこを乗り越えることができた」(冨安)
大量リードもあり、これまで出場機会がなかった選手に出番を与えることもできた。
「失点もなくいけたので、全体的にはよかった。(初出場で)緊張感も多少あったが、自分のプレーを出してやるという気持ちが強かった」(橋岡大樹)
「橋岡とかが(ベンチから)ずっと声を出して鼓舞したりして、全員がチームに関わっている。その行動で絆が高まっていると感じる。このチームでたくさんサッカーがしたい」(相馬)
出場全16カ国の中で、3連勝でのグループリーグ突破は日本だけ。勝ち点9に加え、総得点7、総失点1という文句なしの数字を残し、頂点を目指す開催国は悠々と決勝トーナメントへ駒を進めた。
(つづく)