U-24日本代表、選手たちの言葉で綴る「東京五輪・激闘録」(後編) グループリーグ3連勝での決勝トーナメント進出。これ以…

U-24日本代表、選手たちの言葉で綴る
「東京五輪・激闘録」(後編)

 グループリーグ3連勝での決勝トーナメント進出。これ以上ない結果に、目標の金メダル獲得への気運は自然と高まっていた。

「チームの総合力で勝てた。いつもうるさいチームなので、特に雰囲気がいいのか、悪いのか、区別しづらいけど(笑)」(堂安律)

 ここまで日本の試合は、すべて20時以降のキックオフ。試合会場は東京周辺に限られており、ホームアドバンテージもうまく味方につけている。

「移動は全部1時間半以内に収まっている。ロンドン五輪の時はバスで5時間だったり、それ以上の時もあった。比にならないくらい、移動距離は軽減されている。サッカー以外のことでストレスを減らしてもらえるのはありがたい」(酒井宏樹)

 だが、ここから先は一発勝負のトーナメント戦。負ければ、その瞬間、金メダルへの道は閉ざされる。

「相手がどこだろうと、最初は0-0から始まる。勝つ確率はどこも変わらない。思うようなゲームにならないかもしれないし、先に失点するかもしれない。でも、最終的に勝てば、PKでも大差でも何でもいい。勝って先に進むことが大事」(田中碧)

 決勝トーナメント最初の相手は、ニュージーランド。今大会出場国中、FIFAランクでは最下位だが、気を抜くことは許されない。

「僕らがフランスに4-0で勝ったように、向こうも気にしていないと思う。A代表ではなく、U-24代表なので、FIFAランクは無視していい」(堂安)

 7月31日、カシマスタジアム。ベスト4進出をかけ、ニュージーランドとの準々決勝である。

 日本は立ち上がりこそチャンスを作るも、10分に遠藤航がこの試合最大の決定機を逃すと、徐々に攻撃が停滞。試合はこう着状態となった。

「自分のところで決め切れていれば、というのはあるが、グループリーグで散々前の選手に点をとってもらって助けてもらっていたので、今日は後ろが我慢するゲーム展開だった」(遠藤航)

 3日前に札幌での試合を終え、鹿嶋に長距離移動してきたニュージーランドだったが、それでも動きが落ちる様子はない。

「(ニュージーランドは)最後まで絶対あきらめずにやるだろうという予想はあった。僕らも最後まで(気を抜かず)やろうと思っていた」(冨安健洋)

 結局、試合は延長戦を含めた120分間スコアレスのまま終了。PK戦決着へと持ち込まれた。

「もう(交代して)出ていなかったんで、『何とかしてくれ』と思っていただけ。祈りながら見ていた」(旗手怜央)

 緊張のPK戦。しかし、日本の選手たちは意外なほど落ち着いていた。

「自信があるヤツが手を上げていった。僕もたぶん公式戦では初めて蹴ったので、ある意味、外したことはなかった(苦笑)」(吉田)

 挙手制で決まったキッカーは、1人目から順に上田綺世、板倉滉、中山雄太、吉田麻也、遠藤航。結果的に、遠藤まで出番が回ってくることはなかった。

 チームを救ったのは、GK谷晃生である。

 まずは、ニュージーランド2人目のキッカーを鮮やかにセーブ。これでプレッシャーがかかったのか、ニュージーランドは続く3人目が枠を外してしまう。対照的に4人全員が落ち着いて決めた日本は、辛くもベスト4へ進出した。

「自信がある人がどんどん蹴って、それが結果につながった。何より晃生が2本防ぐのは本当にすばらしいこと」(中山雄太)

「信頼できるディフェンス陣がいるなかで、120分間ゼロ(無失点)で抑えることができたので、最後は自分が止めて、何とか次につなげようと思った」(谷)

 最後はPK戦による薄氷の勝ち上がり。しかし、だからこそ、勢いをもたらす勝利にもなった。

「点をとられる気はしなかったし、あと5分あれば1点とれたと思うし、PKでも負ける気はしなかった。それは、どこが相手だろうと変わらない」(久保建英)

 次は、勝てばメダル獲得が決まる準決勝。相手は、大会直前の親善試合でも対戦した、優勝候補のスペインだ。

「どう倒すかはどうでもいい。どんな戦い方になるかわからないけど、勝つ」(久保)

「もう一個勝ってメダルを確定させるのは、OA(オーバーエイジ)の3人に課せられている使命だと思っている」(吉田)

 準決勝は、冨安が累積警告で出場停止。だが、今のチームに不安は微塵もない。

「僕は決勝に向けて準備するだけ」(冨安)

「金メダルしか頭にない。勝って決勝に進みたい」(堂安)

 準決勝に勝てば、日本の男子サッカーとしては五輪史上初の決勝進出となる。

「歴史を作るというより、僕たちの目標である金メダルを獲りたいだけ」(上田綺世)

「ここを超えられるかどうか、日本サッカーの歴史を見ても大事な試合になる」(遠藤)

 8月3日、埼玉スタジアム。南からの風が入り、日が落ちてもなお蒸し暑さが残るなか、スペインとの準決勝は始まった。

 試合は予想どおり、ボールを保持するスペインが優勢に進める。だが、日本はそのなかでも攻撃の糸口を見つけ出そうとしていた。

「奪ったボールを前につけて逆サイドからカウンター、というのを狙っていた。それをみんなが怖がらずにやれたのが一番よかった。いい形が出ただけじゃなく、そこで仕留めたかったが、狙いとしては悪くなかった」(吉田)

 拮抗した試合は、両チーム無得点のまま終盤へ。すると84分、スペインは勝負をかけるべく、FWマルコ・アセンシオを投入。

「交代した選手はフレッシュなので、まずは1対1でやられないようにした」(中山)

 これまでの試合を見る限り、決して調子がよくないアセンシオ。しかし、延長後半の115分、日本選手の意識がFWミケル・オヤルサバルに集中した瞬間、オヤルサバルからのパスを受けた背番号7は流れるように左足を振った。

「最後に試合を決めるのは個(の力)。チームとして統一感を持って戦いながらも、やっぱり最後に(個が)力を発揮できるかどうか。アセンシオはあそこで決める力がある」(遠藤)

「やっぱり個(の力)ではがされてしまった。それをはがされてもカバーし続けて、というのを徹底していたが、最後のワンプレーだけ、この差が......。(アセンシオは)伊達にレアル(・マドリード)でやっていない」(吉田)

「試合を思い出しても、いろんなシーンが思い出せない。アセンシオがターンして左足で一発巻いて打ったシュートだけが鮮明に残っている」(相馬勇紀)

 アセンシオの左足から放たれたボールは、GK谷の指先をかすめるように弧を描き、ゴール左隅のネットを揺らした。0-1。勝負は決した。

「死ぬほど悔しかったけど、出せるもの全部出したので、涙も出てこない。今はもう何もない」(久保)

 それでも、まだ銅メダルの可能性は残されている。いかに気持ちを切り替えるか。そこに、53年ぶりのメダル獲得のカギがあった。

「五輪だけでなく、ワールドカップのベルギー戦もそうだったが、いい試合をしたと美化されて終わるんじゃなくて、結果を出して終わりたい。そこに尽きる」(吉田)

 と同時に、次の3位決定戦が、勝っても負けても、このチームの最後の試合となる。

「ここまでやってきたチームは解散になるが、たくさんの人の力を借りて強化してもらい、(最後の試合で)メダルをかけて戦うことができる。自分たちのためだけでなく、日本サッカーのために、日本のために、自分たちがメダルを獲ることが大切だと思う。それが、自分たちにできる最後の恩返し。メダリストになって歴史に名を残せるようにしたい」(田中)


3位決定戦で敗れ、メダルに届かなかった日本。

「世界は遠いなってことを突きつけられた」(田中碧)

 8月6日、埼玉スタジアム。3位決定戦の相手は、奇しくもグループリーグでも対戦したメキシコである。

 前回の対戦では日本が試合序盤の得点で主導権を握ったが、再戦では一転、まったく逆の展開となった。

 日本は中盤でのボールロストをきっかけに相手のドリブル突破を許し、遠藤がペナルティーエリア内でファールをおかしてしまう。前半13分にして、早くもメキシコにPKが与えられた。

「普段だったら(ボールを)とれていると思うところで(相手に)前に入られてしまう。ファールしないように心がけてはいたが、最後に足がかかってしまう。あそこを奪いきれないのが、この連戦のなかでの今の自分の実力」(遠藤)

 PKを決められ、先制を許した日本はペースがつかめないまま、わずか9分後にFKから追加点を奪われてしまう。これで0-2。

「自分たちが、この前(グループリーグ)のメキシコ戦でやったようにやられたというか、最初に決められてゲームをうまく進められた。やりたいことをやられた」(田中)

 動きが重く、ミスが目立つ日本は、後半にもCKから失点。スコアは絶望的な0-3まで広がった。

「3失点もしたら勝てない」(旗手)

 日本は78分、途中出場の三笘薫が1点を返しはしたが、その後の得点機は生かせず、1-3で試合終了。2012年ロンドン五輪と同じ4位で大会を終え、またしてもあとわずかでメダルを逃す悔しい結果となった。

「9年前と同じ悔しさをこの世代に与えてしまったことに、すごく責任を感じる。『準決勝までいったのに。またか』と思われるような結果になってしまった」(酒井)

「全員が全員、自信を持ってやれば、あれくらいの相手なら圧倒できるチームだったと思うので、すごくもったいない」(久保)

 同時に、厳しい現実を見せつけられた結果でもあった。

「世界は遠いなっていうことを、この2戦で突きつけられた。(親善試合ではない)本気の世界とは圧倒的な差がある。どうにかしてこの差を埋めていかないと、自分たちが思っている以上に彼らは成長している」(田中)

 自国開催の五輪に向け、"東京五輪世代"は過去に例がないほど手厚く強化されてきた。国内での親善試合だけでなく、海外遠征も幾度となく繰り返し、五輪本番でベストメンバーが編成できるよう、選手が所属する海外クラブとも丁寧な交渉を重ねられた。

 そして最後の仕上げが、「史上最強」とも称されたオーバーエイジ3選手の補強。それでも、メダルには手が届かなかった。

「メキシコは勝ちに値する試合をしたと思う」(吉田)

 うつむく日本選手の傍らで、メキシコの歓喜が爆発していた。

(おわり)