30歳のシーズン、ラオウがついに覚醒した。 東京オリンピックによるシーズン中断までの前半戦、オリックスのラオウこと杉本…

 30歳のシーズン、ラオウがついに覚醒した。

 東京オリンピックによるシーズン中断までの"前半戦"、オリックスの"ラオウ"こと杉本裕太郎が残した数字は打率.297(リーグ6位)、ホームラン18本(リーグ3位タイ)打点54(リーグ5位)。6月半ばからは吉田正尚のあとの4番に定着し、オールスターゲームにも6年目にして初めて選ばれた。しかもホームランダービーに出場し、仙台で行なわれた第2戦では柳裕也からホームランも放った。

 いやいや、これはホントのホントに、ホンモノなのか。



入団6年目の今シーズン、オールスターにも初選出されたオリックス・杉本裕太郎

 何年もの間、夢を見ては裏切られ、終わりかなと思ったら大器の片鱗を覗かせ、よし、信じようと決めたら首脳陣からの信頼を失っていて......そんなラオウに対する期待と不安は、「オレはずっとラオウを信じていた」と涙を流さんばかりに覚醒を喜ぶラオウ好きほど、じつは大きかったりする。その感情は、ほとんど親目線に近い。

「親目線......そう言われれば、そうなのかもしれませんね(笑)。たしかに自信はなかったんですけど、でも僕は途中であきらめるとか、そういう気持ちにはなりませんでした。成功するかどうかはわからなくても、とにかくやってみようと......長いこと、(一軍に)上がってはちょっと打って落ちる、の繰り返しだったんですけど、そのちょっと打った時でさえ、ものすごくうれしいし、気持ちいい。これが1年間、ずっと続いたら最高やなって思っていました。だからあきらめず、一軍の試合で活躍したいという思いを持ち続けてこられたのかもしれません」

 徳島商から青山学院大学、社会人のJR西日本を経てドラフト10位でオリックスに入団したのが24歳の時。2年目にプロ初ヒットとなる初ホームランをバックスクリーンへ放ち、プロ3年目には2本の満塁ホームランを放った。長距離砲の魅力は垣間見せながらも、その3年目のシーズン、一軍出場はわずか7試合、与えられた打席は14。器用な選手を重用する当時の方針もあって、ラオウはチームの構想から外れていた。彼は当時をこう振り返る。

「最初は『なんでなん?』と思うこともありました。でも一軍と二軍の入れ替えや起用は自分ではどうしようもできないことなので、そこを考えるのをやめようと思ったんです。自分ができることだけしようと決めました。プロに入るまでは試合に出るのは当たり前だったし、そういう苦労はしたことがなかった。

 でもプロに入ると、そうやって試合に出るのが当たり前だった人でも試合に出られなくなる。そういう先輩の中には、あきらめずにファームで頑張っている人もいたし、腐っている人もいた。そういう姿を見ていたら、僕はどっちなんや、頑張らなくてええんか、と思うようになったんです」

 そんな健気なラオウは"後半戦"の幕開け、親目線で心配するラオウ好きの杞憂を吹っ飛ばす豪快な一発を放った。

 8月13日、雨の降りしきる千葉で行なわれたロッテ戦。4番のラオウは初回、ツーベースヒットを放った吉田を二塁において、バッターボックスに入った。ロッテの先発は二木康太。初球、2球目と外角へのスライダーを見送って、カウントは1-1。3球目のアウトローへのストレートを見送ったあとの4球目、またも外へ。しかし今度はやや高く浮いた126キロのスライダーを、両腕がしっかり伸びたラオウの握るバットが捉えた。

 打球はセンターのバックスクリーンへ──ラオウが放った先制の19号2ランホームランは、宮城大弥の2ケタ勝利とオリックスの"後半戦"白星スタートを後押しする貴重な一打となった。

 そしてこのホームラン、今シーズンのロッテ戦でラオウが放った11本目のホームランだった。ラオウがこれほどまでにカモメを目の敵にする、何か特別な理由があるのだろうか。

「いやいや(笑)、ホンマにたまたまやと思います。オールスターの時、井口(資仁/ロッテ)監督、辻(発彦/西武)監督、工藤(公康/ソフトバンク)監督の3人が話をされていた時にたまたまそこを通りかかったらつかまって、『なぜそんな急に打てるようになったん?』って尋問されました(苦笑)。だから『ホームランを狙わないようにしています』って答えたら、(青山学院大学の先輩にあたる)井口監督に『そのわりにおまえ、ウチからメッチャ打つじゃねえか』って。(ロッテには)青学OBがたくさんいらっしゃるから、よっしゃ、いいとこ見せたろって思っているのかもしれませんね(笑)」

 さらに、オールスターではこんなこともあった。

「ソフトバンクの松田(宣浩)さんってポイントを身体の前のほうに置いて打つタイプに見えていて、オールスターの時、松田さんに聞いたんです。そうしたら『オレは前で打ってるよ』って......僕もポイントが前でもホームランを打ってるタイプだったんですけど、調子が悪くなると打ちたいと思って身体がピッチャーのほうへ突っ込んでしまう。そうすると低めのボール球を振らされるので『引きつけて打たなくちゃ』と思っていました。でも、変化球をマークしすぎて引きつけようとしたら、今度は速い真っすぐに差し込まれて、それはそれでおかしくなったりするんですよね」

 突っ込んではいけないからと打つポイントを前のほう(ピッチャー寄り)ではなく、身体の近くまで引きつける。しかし引きつけすぎると速いストレートに差し込まれる。だから練習ではセンターから右方向へ打つ意識を持って、差し込まれてもヒットゾーンに詰まった打球を落とすというイメージをラオウは大事にしてきた。しかし松田はこう言ったのだという。

「松田さんは『曲がる前の変化球を泳ぎ気味に打って三遊間のヒットが理想』と言うんです。『調子が悪くなったら逆方向に打つ練習をするとタイミングが遅くなってもっとおかしくなっちゃうから、タイミングが合ってない時はレフトのポール際へ引っ張る練習をする』とも話して下さって......そう言われれば僕にもその感覚があって、ああ、そうか、悪い時にはあえて引っ張る練習をする調整方法もあるんだなと、すごく勉強になりました」

 突っ込んで打っても泳いで打っても、それが我慢したなかでのバッティングならヒットゾーンへ飛ぶ。だから引きつけて打つ、泳いではいけないと決める必要はない。

 実際、今シーズンのラオウは泳ぎながらでもホームランを打てることを証明している。6月29日のロッテ戦、2打席連続で打ったホームランの2本目となる今シーズンの17号は、二木が投じた低めのフォークボールを、泳ぎながらもセンターのバックスクリーンへ運んだ。ラオウにも技あり、の一発だった。

「真っすぐを打ちにいって、変化球は泳いで打つというのは理想ではあるんですけど、でもそれだけじゃなくて、変化球をマークしながら真っすぐを詰まってヒットにするという考え方もないと......今は得点圏では甘い球はほとんど来ないので、そのどっちもできないといけないなと思っています。

 僕は、打ちたい、打ちたいと思うとがっつきすぎて形が崩れて、ミスショットが増える。去年も夏以降、調子を落としていますし、今も危機感しかありません。なにしろ1年を通して戦ったことがないので、僕自身は覚醒した、なんて思ったことはないんです」

 そんなラオウを支えているのは、調子を落としても見守り、変わらずに起用し続ける中嶋聡監督の存在だろう。ラオウは今年、中嶋監督からこんな言葉をかけてもらっている。

「今は相手のピッチャーのほうが、おまえと対戦するのが嫌なんだから、自信持っていけ」

── 監督のその言葉を聞いて、ラオウさんはどう思ったんですか。

「あ、そうなんやって思いました(笑)」

 ラオウにこの図太さがあるのなら、もはや親目線の心配は必要ないのかもしれない。️