9-10位決定戦で格上のフランス代表を破り笑顔をはじけさせたU19女子日本代表(写真/©fiba.basketball)…

9-10位決定戦で格上のフランス代表を破り笑顔をはじけさせたU19女子日本代表(写真/©fiba.basketball)

 

 ハンガリーのデブレツェンで8月7日から開催されていたFIBA女子U19ワールドカップが8月16日に閉幕し、日本は16チーム中9位という成績だった。


 日本のアンダーカテゴリーは、2020年3月時点の世界ランキング(FIBAガールズランキング)で11位。今大会のU19女子日本代表は、前任の萩原美樹子氏(現東京羽田ヴィッキーズHC)からアンダーカテゴリーの指揮を引き継いだ薮内夏美HCにとって初の世界的な舞台だったが、総じて言えば、厳しい結果の中にも世界と戦えるポテンシャルを感じさせ、かつ大会終盤を良い形で乗り切ることができた点は高評価に値すると言えるだろう。ただし世界の成長が著しい中、今後の強化・育成に関する戦略作りとその遂行が欠かせない。


接戦を落とし上位進出ならず


 グループラウンドは、同ランキング上位であるカナダ代表(4位)、チェコ代表(9位)、また近年バスケットボール界で躍進が際立つ国の一つであるマリ代表(16位)と同じグループD。このグループでU19日本代表は、初戦でカナダ代表を83-82と1点差で下し好発進を切った。

 

 しかしその後、マリ代表に57-67、チェコ代表に58-63と、競った展開から勝ちきれず、グループ3位で臨んだベスト8決定戦でも、スペイン代表(FIBA世界ガールズランキング2位)に64-71と惜敗。この3試合はいずれも日本がリードを奪う時間帯も多く、何かきっかけをつかめれば全勝していてもおかしくないような内容だった。

 

 惜しむらくは初黒星を喫したマリ代表との試合で、3Pショットが20.5%と低調で、かつリバウンドを47-57と上回られたこと。薮内HCは試合後、シューター陣に関して「チャンスでは打てていた。それを決めるというのが最大の仕事」と奮起を期待するコメントを残した。またリバウンドに関しては、「相手が予想以上にすごいエネルギーで飛び込んできました」と世界のアグレッシブさに押し切られたことを認めていた。

 

 この黒星をきっかけに、続くチェコ代表、スペイン代表との試合ではいずれも第4Qをリードして迎えながら逆転を喫する展開。スペインとの試合では、20得点を挙げた江村優有(早稲田大学1年)らの活躍で57-52と5点リードして第4Qに入ったが、そこから約6分間、3つのターンオーバーを犯すなどオフェンスが停滞。逆にスペイン代表に13-2と走られ、一気に59-65と主導権を持っていかれてしまった。試合後、薮内HCは「シュートにいくまでのミスが多かった」と17本のターンオーバーを第一の敗因に挙げた。

 

8強入りをかけた対スペイン戦、江村の20得点も及ばず日本は惜敗を喫した(写真/©fiba.basketball)

 

 また、実際にコートに立つプレーヤーの感覚としては、終盤悪い流れになった要因は、リバウンドで競い負けたことも大きかったようだ。センターの田中平和(白鷗大学2年)は、「相手が何回も攻めるのに日本は一回で終わってしまう」とその感覚を説明した。また、終盤になるほど、相手のペイントアタックも効いていたという。「最終クォーターは皆気持ちを入れてやってきます。日本は外からのショットが入るという思いもあり、中に攻め込むのが減る一方、相手はドライブしてくるのでファウルももらえてリバウンドも獲れる…。日本は外からが多くなり、それが入らない。リズムが崩れて相手のドライブを守れなくなり…それが原因で第4Qは悪い流れになってしまっています」

 

 今回のチームは3Pシューティングにやや波があり、対スペイン代表戦前の時点では成功率が26.9%(16チーム中8位)にとどまっていた。しかしこの試合では初戦(対カナダ代表戦、41本中15本成功で36.6%)に次ぐ34.5%(29本中10本)と上向いてきていた。薮内HCも「この大会を通じてチームジャパンはすごく成長していると感じます」と話し、「最後まで彼女たちのエネルギーを満タンにするようなコーチングをしていきたい」とその後の戦いに向けた抱負を語った。

 

田中のフィジカルな奮闘は大会を通じてチームの大きな力となっていた(写真/©fiba.basketball)


きっかけをつかんだ対チャイニーズ・タイペイ戦


 何かきっかけがあれば、またその結果として一つ勝てれば調子の波に乗れそうな状態で迎えた9-16位決定戦では、初戦のチャイニーズ・タイペイ(FIBAガールズランキング33位)との試合でそのきっかけが訪れた。この試合では、U19日本代表は序盤から驚くべき猛攻を展開し、第1Qだけで42-10と32点差の大量リードを奪う。最終的なスコアは111-42。6人が2ケタ得点を記録し、出場した11人全員が得点をする圧勝だった。

 

☆次ページ: 今大会総評「目を見張る世界の3Pシューティングの成長ぶり」

 勢いづいたU19日本代表は、次戦でイタリア代表(FIBAガールズランキング5位)に対し88-51で快勝。続く9-10位決定戦では、平下愛佳(トヨタ自動車アンテロープス)の23得点を挙げる奮闘などでフランス代表(同3位)にも68-62と勝利を収め、3連勝で大会を終えた。

 

 大会全日程終了後、薮内HCは「ハンガリーのデブレツェンという素敵な町でワールドカップができて、すごくうれしかったです。皆さんとてもやさしくて、日本のチームのサポートをたくさんしてくれました」と現地での貴重な体験と関係者への感謝を言葉にするとともに、今後の強化・育成に向けた意欲を次のように語った。「大会はとても日本チームにとって厳しい試合が続きました。残念ながら9位でしたが、選手は最後までエネルギーいっぱいでコートを走ってくれました。選手にとっても私にとっても、とても良い経験になりました。この経験を次にレベルアップするために、また日本に帰って頑張ります」

 

平下はオールラウンドな活躍でチームをけん引。最終戦ではフランス代表相手に23得点と大活躍だった(写真/©fiba.basketball)


目を見張る世界の3Pシューティングの成長ぶり


 なお、最終的に今大会はアメリカ代表が金メダル、オーストラリア代表が銀メダル、そして開催国ハンガリー代表が銅メダルを獲得した。また、日本がグループラウンドで相対したマリ代表が4位、カナダ代表が5位、チェコ代表が6位という結果を見ると、U19日本代表にメダルをねらえる力があったことが感じられる。

 

 チームスタッツの主要項目ランキングでも、U19日本代表は平均得点(3位、75.6)、フィールドゴール成功率(5位、40.1%)、2P成功率(4位、46.6%)、3P成功率(3位、33.2%)、フリースロー成功率(3位、75.6%)、平均アシスト数(5位、18.0)、さらには平均ターンオーバー数(少ない順で3位、14.9)でトップ5に名を連ねていた。

 

 ただし、A代表が大きな武器としている3Pショットに関しては、世界の各チームが数字を上昇させてきている点が興味深く、今後注視が必要だ。今大会トップのアメリカ代表は40.2%で、2年前の前回大会(2位、29.5%)から10.7ポイント上昇している。前回大会のトップはオーストラリア代表の29.9%だったが、それに比べても伸び幅は10.3ポイントある。また、出場16チーム中、日本を含め5チームが30%を上回る決定率を残していた。

 

 例えば今夏の東京オリンピックでは、日本代表が40%の確率で3Pショットを成功させることが大きな話題となった。しかし今後、その確率は当然のものと認識されるようになっていくことが容易に想像できる。パリ2024に思いを馳せたとき、そこで勝つチームは実戦で強豪相手に50%を決めても驚かないチームなのかもしれない。

 

 日本代表も前回大会(4位、27.9%)に対して5.3ポイント上昇しているが、簡単に言えば、シューティングに関して世界の成長が日本の成長ペースを上回っている傾向だ。また、3Pショット重視でコートを広く使い、チャンスがあればペイントアタックという現代バスケットボールの潮流が、アンダーカテゴリーにも広く浸透していることも感じられる。

 

その中で、サイズがありフィジカルな上位国が、ロングレンジでも信じられないような高確率でゴールを射抜く時代が、近い将来にやってくるのかもしれない。日本はカテゴリーの別を問わず、この流れの中でどのような戦略を持って強化・育成に取り組むか。オリンピックに加えて今大会の総括も急務だろう。

 

「チームの成長を感じた」という薮内HC。今後強化・育成面での手腕に大きな期待がかかる(写真/©fiba.basketball)


☆FIBA女子U19ワールドカップ最終成績
1位 アメリカ
2位 オーストラリア
3位 ハンガリー
4位 マリ
5位 カナダ
6位 チェコ
7位 スペイン
8位 ロシア
9位 日本
10位 フランス
11位 イタリア
12位 エジプト
13位 韓国
14位 チャイニーズ・タイペイ
15位 アルゼンチン
16位 ブラジル

 

☆FIBA U19 女子ワールドカップ 日本代表チーム

■スタッフ
※プロフィールは役職、氏名、所属
チームリーダー 庄子梢枝 JBA
ヘッドコーチ 藪内夏美 JBA
アシスタントコーチ 佐久本 智 ENEOSサンフラワーズ
アシスタントコーチ 石川幸子 日立ハイテク クーガーズ
スポーツパフォーマンスコーチ 佐藤晃一 JBA
トレーナー 志村愛美 愛美鍼灸治療院
トレーナー 山本愛乃 SOL整形外科
マネージャー 高木歩幸 JBA
テクニカルスタッフ 梅津ひなの JBA

■プレーヤー
※プロフィールは背番号、氏名、ポジション、身長(cm)/体重(kg)、生年月日(年齢)、所属(出身地、出身校)

#0 山田 葵(YAMADA, Aoi) PG 166/61 2003/02/10(18) 新潟県 筑波大学1年(新潟県、東京成徳大学高校)
#1 江村優有(EMURA, Yua) PG 160/60 2002/12/04(18) 早稲田大学1年(長崎県、桜花学園高校)
#2 林 真帆(HAYASHI, Maho) SG 174/69 2002/02/22(19) 東京医療保健大学2年(神奈川県、岐阜女子高校)
#5 塩谷心海(SHIOTANI, Kokomi) PF 178/78 2002/01/06(19) 大阪人間科学大学2年(埼玉県、大阪薫英女学院高校)
#9 荻田 美(OGITA, Miyu) SG 175/70  2002/09/13(18) 筑波大学1年(京都府、京都精華学園高校)
#10 舘山萌菜(TATEYAMA, Mona) SF 177/70 2002/11/06(18) 白鷗大学1年(北海道、札幌山の手高校)
#14 平下愛佳(HIRASHITA, Aika) SF 177/71 2002/01/14(19) トヨタ自動車アンテロープス(愛知県、桜花学園高校)
#17 三田七南(SANTA, Nana) SF 178/72 2002/10/02(18) ENEOSサンフラワーズ(新潟県、昭和学院高校)
#36 粟谷真帆(AWATANI, Maho) C 182/75 2002/12/06(18) 筑波大学1年(茨城県、八雲学園高校)
#42 田中平和(TANAKA, Ufuoma) C 181/76 2002/02/10(19) 白鷗大学2年(埼玉県、桜花学園高校)
#52 松本新湖(MATSUMOTO, Niko) PG 166/65 2002/12/06(18) 東京医療保健大学1年(三重県、岐阜女子高校)
#75佐藤多伽子(SATO, Takako) SF 176/66 2002/07/19(19) 白鷗大学1年(栃木県、桜花学園高校)


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)

9-10位決定戦で格上のフランス代表を破り笑顔をはじけさせたU19女子日本代表(写真/©fiba.basketball)

 

8強入りをかけた対スペイン戦、江村の20得点も及ばず日本は惜敗を喫した(写真/©fiba.basketball)

 

田中のフィジカルな奮闘は大会を通じてチームの大きな力となっていた(写真/©fiba.basketball)

 

平下はオールラウンドな活躍でチームをけん引。最終戦ではフランス代表相手に23得点と大活躍だった(写真/©fiba.basketball)

 

「チームの成長を感じた」という薮内HC。今後強化・育成面での手腕に大きな期待がかかる(写真/©fiba.basketball)