「大会が始まってから、私は日本の自陣内でのファウルの多さを指摘してきた。日本は局面での守備がやや雑になっているようだった…

「大会が始まってから、私は日本の自陣内でのファウルの多さを指摘してきた。日本は局面での守備がやや雑になっているようだった。危険なセットプレーを与える機会が増えていた」

 スペインのサッカーマスター、ミケル・エチャリはそう言って、東京五輪男子サッカー、3位決定戦で日本がメキシコに1-3と敗れた試合を振り返っている。

 エチャリはレアル・ソシエダなどでさまざまな職務を歴任してきた。メキシコにも指導者講習会に招かれたことがある。かつてはジョゼップ・グアルディオラにバルサの戦略分析担当として誘われた目利きだ。

「繰り返し警告していたのだが、3位決定戦で、それが最悪の結果につながってしまった。中二日の厳しい日程を同じようなメンバーで戦うことで、体力面、精神面での疲労があったのだろうか。スピード、テクニックと精度が落ちて、特に守備の部分で雑になってしまい、セットプレーの場面でもグループリーグの時のような集中力が感じられなかった」

 エチャリの過去の分析記事を見返してもわかるように、危惧していたことが的中した。メダルに届かなかったメキシコ戦を検証すると?



決勝トーナメントに入ってから自陣でのファウルが多くなっていた遠藤航

「日本は4-2-3-1という同じ布陣で、最も多く繰り返したメンバーを用いている。ディフェンスに関しては、コレクティブな戦いができており、4-3-3で挑んできたメキシコの勢いを受け止め、遠藤航がミドルを狙った。悪くはない立ち上がりだ。

 ところが、10分を過ぎたところだった。

 メキシコの左サイドからの攻撃に対し、遠藤が入れ替わられて、後ろから遅れたチャージでPKを献上してしまう。決勝トーナメントに入ってから、遠藤は自陣でのファウルが多くなっていた。プレーが雑になってボールを失うシーンも増えた。奪われても奪い返せばいいという論理で、どうにかことなきを得ていたが、指摘してきたように危険を孕んだプレーだった。

 その点では必然のPK献上だったと言える。エリア内か、接触があったか、かなり微妙なところだったが、VARのチェックでも覆らない。日本はPKを蹴り込まれ、早々に先制を許した。

 もっとも、遠藤はプレーに波が出ただけで、最悪だったわけでもない。その後、コンビネーションからゴール前に入ったシーンは、能力の高さを示していた。GKギジェルモ・オチョアとの接触でカードを受けたが、遠藤のほうがわずかに速く間合いに入っており、気の毒な判定だった。

 しかし22分、日本はややイージーに相手FWを倒し、またも自陣でFKを与えてしまう。左足のインスイングで入ってきたボールに対し、相手のマーカーの遠藤は前に入られていた。ヘディングで合わせられ、2失点目となった」

 エチャリは言う。0-2とリードされ、日本は攻めるしかなくなった。

「日本は反発するように攻めに出た。久保建英、相馬勇紀が可能性を感じさせるコンビネーションを見せた。あるいは酒井宏樹がパスから抜け出し、イエローを誘発した。

 率直に言って、両者の差はほとんどなかった。ただ、メキシコがファウルを敵陣内でしているのに対し、日本は自陣内でしていた。この駆け引きが、スコアになって表れてしまった。

 メキシコがやや優位だったのは、先制点を取れたことが大きい。落ち着いて帰陣し、守りの形を整えられた。精神的にも優位だった。得点を狙う日本が攻撃を優先したのか、これまでアンカーの選手を久保が封じることで戦術的に機能させていたのだが、この日は7番のMFルイス・ロモをほぼ自由にしていた。ロモは好きなようにゲームを作っている。

 そして後半13分、押し込まれた展開で与えたCKだった。日本は外から入ってきた選手をつかみきれていない。一番近くにいたのはまたも遠藤で、フリーでヘディングを叩き込まれた。メキシコの選手の負傷交代もあって時間が空いて、集中力を欠いていたのか」

 エチャリは事実を端的に指摘したが、それは修正点そのものだろう。

「後半15分過ぎ、三笘薫、上田綺世を投入し、日本のプレーはやや改善した。久保、堂安律が息を吹き返したようなプレーを見せ、得意のコンビネーションでゴールに迫った。三笘から上田へのスルーパスでシュートなど、日本の攻撃のリズムは上がっている。そして後半33分、久保のパスを受けた三笘は縦に切り込み、ドリブルからシュートでGKのニア上を抜いた。

 たまらず、メキシコは2人の選手を新たに投入している。

 日本は遠藤に代えて、三好康児を投入。すでにピッチに入っていた板倉滉をアンカーにし、総攻撃に打って出た。ただ、メキシコがさらに2人の選手を補強したことで、日本は思うようにゴールに迫れない。ようやく勝ち取った右CK。ゴール前で必死に格闘する中、キッカーの久保はペナルティアークのあたりで待っていた旗手怜央に不意を衝くパス。ワントラップして落ち着いてシュートしたが、惜しくも左へ逸れていった。すばらしいサインプレーだった。

 終了間際にも三笘がひとりで持ち込み、右足で放ったシュートはいい球筋だったが、左へ外れた」

 1-3での敗戦にも、エチャリは大会全体での日本の戦いに及第点を与え、その未来を祝福した。

「日本の戦いは、今後について楽観的な展望ができるだけのものだった。しかし、サッカーの世界では小さなミスが大きくなる瞬間がある。その兆候はあっただけに、反省も必要だろう。選手のキャリアはこれからも続く。その未来を、私は強く信じている」