「バスクの友人であり、スペイン五輪代表監督のルイス・デ・ラ・フエンテを心から祝福したい。開催国である日本を下しての決勝進…

「バスクの友人であり、スペイン五輪代表監督のルイス・デ・ラ・フエンテを心から祝福したい。開催国である日本を下しての決勝進出は、評価されてしかるべきだろう。我がレアル・ソシエダの3人の選手(マルティン・スビメンディ、ミケル・メリーノ、ミケル・オヤルサバル)にも拍手を送りたい」

 スペインの名指導者、ミケル・エチャリはそう言って、延長戦の末に0-1でスペインが日本に勝利した試合を振り返っている。エチャリはバスクサッカー界の重鎮であり、レアル・ソシエダでは20年近く要職を務めてきた。

「日本の戦いにも賞賛を贈りたい。グループリーグから、不敗のチームのごとき堅牢さを見せた非常にバランスのいい守りについては、スペイン戦も変わらなかった。戦いの中で成長も見せていた」

 そう語るエチャリは、スペイン戦の日本をどのように見たのか?



敗れたスペイン戦でも質の高いプレーを見せていた旗手怜央

「大会直前、日本はスペインと対戦し、1-1でドローという結果だった。前半はやや優勢だったが、終盤は完全にスペインに主導権を奪われていた。当時のスペインは来日直後だったが、"格上"と見なして試合プランを組んだのだろう。

 準決勝の日本は、4-2-3-1と布陣は一緒だったが、リトリートしてブロックを作って試合に入った。

 当初は2トップ気味となった林大地、久保建英がバックラインにプレッシャーをかけたが、機能していない。アンカーのスビメンディに対応するため、久保はそこをフタする役目に回った。スペインは4-3-3で、日本のダブルボランチがスペインのインサイドハーフに対応すると、中盤が数的不利に回って厳しい状況になるのだ。

 久保がスビメンディを抑えることで、危険なパスを制限できた。これはテストマッチと同じだ。ただし、スペインはセンターバックがボールを持ち運べるし、インサイドハーフのペドリ、メリーノが下がってボールを受けると、全体的には日本は後手に回らざるを得なかった。

 しかし、日本は吉田麻也、酒井宏樹の2人を中心に、バックラインが堅牢さを保っていた。トライアングルを作って攻撃を作ろうとする相手に対しても、2人にはそれを分断する読みのよさがあった。素早いリアクションで、テンポを上げさせていない。左サイドの2人(中山雄太、板倉滉)は少々てこずっていたが。

 日本が防御に徹する前半だったが、それは成功していた。ダイレクトパスからラファ・ミルに抜け出された場面はあったが、GK谷晃生がすかさず前に出て守った。

 大会に入って、谷は尻上がりにいいプレーを見せている。後半も、何度か日本の危機を救っていた。ロングボールで味方を狙ったパスも質が高く、ひとつの攻撃パターンになっていた」

 エチャリは、前半の戦いを高く評価した。後半も、それは変わっていない。

「日本は後半に入って、旗手怜央がいい動きを見せるようになった。

 後半5分、旗手はロングボールにダイアゴナルへ走って反応し、すばらしいコントロールでボールを林に落としたが、シュートは大きく枠を外れた。旗手は動き出しにセンスを感じさせ、両足を使える器用さもあり、攻撃的ポジションでもっと見たかった選手だ。

 日本は、次第にバックラインが下がりすぎる傾向が出てきた。後半10分にはパス交換からメリーノにエリアに入られ、シュート体勢に入ったところを吉田がタックル。一度はPK、イエローカードが示されたが、VARで取り消された。

 この吉田の好プレーを機に、日本は少しラインを上げている。後半20分には上田綺世、相馬勇紀の2人が投入され、これで左サイドを中心にゴールチャンスを作り始めた。久保、堂安の2人は連係からシュートまで持ち込んでいた」

 それだけに、エチャリは久保、堂安の2人を、延長戦を前に下げたことに首を傾げた。

「正直に言うが、久保、堂安を同時に下げる決断には驚かされた。森保一監督には、私を納得させるだけの理由があるのだろう。フレッシュな選手で消耗を補いたい、カウンター一発を狙う、など理由はあったはずだ。しかし、2人はこれまでの試合でもチームの主役になってきただけに、意外だった。

 延長に入っても、日本は変わらず守備の意識は高く、ボールを失うと迅速に切り替えた。整然としたリトリートを見せ、守備のブロックは強固だった。ただ、延長後半に入ると、各選手のプレー精度が落ちてきた。

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 スペインの選手たちは、勝負どころだと感じていただろう。そして115分、直前にもチャンスを作っていたオヤルサバルは、右サイドのスローインを積極的に呼び込むと、ひとりで複数のディフェンスをすり抜け、エリア内のマルコ・アセンシオにパス。交代出場のアセンシオは、鋭気十分で、得意の左足で巻くシュートをファーに決めた。

 失点シーン、日本は数的有利だったが、ゴールを防げていない。一瞬だが、ボールを追っていた。そしてポジション的不利に立っていたのだ」

 エチャリはポジショナルプレーを提唱したひとりとして、日本の失点シーンを振り返った。そして最後に3位決定戦に向けて、日本に前線の組み合わせを提案している。

「日本はすばらしい戦いをした。忘れてはならないのは、スペインはユーロ2020ベスト4の主力6人を擁していた点だ。その相手に、攻守一体でよく戦った。

 個人的な提案をするなら、久保に攻撃の自由を与える布陣だ。

 久保を1トップに、旗手をトップ下、右に堂安、左に相馬。久保は自らの判断で、パスコースを断ち切るプレスもでき、下がりすぎずにゴールチャンスも待てる。旗手はバックラインの前でのプレーの質が高く、いいコンビになるのではないか。堂安、相馬との連係も、相性のよさを感じるのだ」