あらゆるスポーツの中でも、ゴルファーほど不遇のアスリートはいないかもしれない。 他の競技ならば、優勝者に準じて準優勝や3位という結果も評価される。しかしゴルフの場合、そういった概念は皆無に近い。プロのトーナメントにおいて、およそ100人前…
あらゆるスポーツの中でも、ゴルファーほど不遇のアスリートはいないかもしれない。
他の競技ならば、優勝者に準じて準優勝や3位という結果も評価される。しかしゴルフの場合、そういった概念は皆無に近い。プロのトーナメントにおいて、およそ100人前後の選手が参加しても、結果で賞賛されるのは"勝者"のみであり、2位や3位はあくまでも"敗者"だ。
例えば、笹生優花が樋口久子、渋野日向子に続く日本人3人目となる海外メジャー制覇を遂げた今年6月の全米女子オープンで、プレーオフの末、笹生に敗れたのは畑岡奈紗だった。4日間72ホールを終えて同じ通算4アンダーで並び、プレーオフ3ホール目で敗れるという結果だけを見れば、わずかな差だった。それでも、立場はまさに天国と地獄、だ。
だが、舞台がオリンピックとなれば、事情は違う。2位と3位にはそれぞれ銀と銅のメダルが与えられ、メダリストとして後世に名を残す。それが、自国開催の五輪となれば栄誉は段違いだ。
リオデジャネイロ五輪の出場を見送った松山英樹にとって、霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)で開催される東京五輪はむろん、初めての五輪だった。首位のザンダー・シャウフェレ(アメリカ)と1打差となる通算13アンダーの単独2位につけた第3ラウンド終了後、松山はこう話した。
「いい位置で終わることできた。オリンピックの場合は3位までに入るとメダルという、うれしいことが待っているけど、メジャーだと優勝しか評価されない。何がモチベーションになるかはわからないけど、明日は金メダルを目指して頑張りたい」
7月上旬に罹患(りかん)した新型コロナウイルスの休養明けで、五輪が"復帰戦"となった。未知の状態で帰国し、優勝争いに絡む。それは、松山にも予想できなかったことだ。
「(今の順位が)まったく信じられなかった。現状の体力の問題でしんどい部分はあるけど、なんとか持ち堪えたので、明日一日もってくれたら」
最終日を一緒に回るのは、優勝したマスターズでも決勝ラウンド2日間をともにしたシャウフェレ。
「明日は勝つという気持ちでくると思う。自分も気持ちで負けないように」
最終日はシャウフェレが連続バーディースタートを決めたのに対し、松山に最初のバーディーがきたのは7番パー3だった。続く8番で深いラフに苦しめられてボギーとし、ライバルとの差は最大の5打にまで広がった。
しかし、後半に入ると11番、12番で連続バーディー。13番では短いパーパットを外してボギーとするも、14番のパー5でバーディーを奪って通算16アンダーに。同ホール、ティショットをミスしてブッシュに飛び込んだシャウフェレがボギーを叩いたことで、気がつけば1打差となっていた。
「14番でリーダーボードを見た時に、(ホールアウトしていたロリー・)サバティーニ(スロバキア)も17アンダーだったので、それ以上いかないと銀メダルはないと思っていたし、14番でザンダーがミスして、上がりのホールで(バーディーを)とればいけると思ったけど......。なかなかうまくはいかなかった」
シャウフェレに追いつくチャンスはあった。つまり、金メダルのチャンスはあった。だからこそ、上がり4ホールのパッティングが悔やまれる。
終盤パットが決まらず、惜しくもメダルを逃した松山英樹
15番のパーパットや17番のバーディーパットなど、ショートパットがことごとくカップに嫌われた。17番を終えた時点で、通算18アンダーのシャウフェレとは3打差、そしてサバティーニとは2打差があり、金銀のメダル争いからは脱落した。
「詰めが甘いと、こういう結果になると改めてわかった。(パッティングに不安があった?)久々の試合ですし、しばらく優勝争いもしていなかった。新しいことを始めて、どんな反応があるかなと思っていた。難しいかもしれないし、うまくいくかもしれない。だから、ショットでチャンスを作らないといけないとは思っていた」
最終18番では、仕事を終えた大勢のスタッフがグリーン周りを囲む中、セカンドショットを4m弱につけた。決めれば3位が確定するブロンズメダルパットだった。しかし、これも外してしまった。
「17番が終わった時点で、(銀メダル以上は)ほぼないと思っていた。バーディーを奪って上がれたらなと思ったんですが、それが叶わず......」
優勝者が決まったあと、通算15アンダーで並んだ7人による銅メダルプレーオフが始まるという異例の展開のなか、松山は1ホール目でボギーを叩いて脱落した。
自国開催の初めての五輪は4位タイという結果に終わった。いわばホストプロとしての役割を果たした松山は、3年後のパリ五輪に向けてはこんなコメントを残した。
「出たいかと聞かれたら、あんまり乗り気じゃないですけど(笑)。まあ、(同じく東京五輪に出場した星野)陸也に頑張ってもらいましょう」
冗談で受け流したことで、むしろ、腹の底に秘した野心が垣間見えた。