準決勝のスペイン戦。延長戦にまでもつれ込んだこの一戦は、ハーフタイムなどを含めると、試合時間はトータルで2時間30分近…

 準決勝のスペイン戦。延長戦にまでもつれ込んだこの一戦は、ハーフタイムなどを含めると、試合時間はトータルで2時間30分近くに及んだ。しかし、チャンネルを変えず、飽きることなく、最後までお茶の間観戦した視聴者は多かったのではないか。

 男子サッカーは、今回の東京五輪にあって、現在まで最も高い視聴率をマークしているそうだ。多くの人が観戦しやすいプライムタイムに行なわれていることもあるが、それ以上に、試合自体が単純に面白いからだと考える。南アフリカ、ニュージーランドはやや格下ながら、メキシコ、フランス、そしてこの日の対戦したスペインは格上だった。それらの国と好勝負を演じれば、娯楽性はおのずと上昇する。

 相手が強いほうが面白い。負けそうもない試合を見るより、負けるかもしれない試合を見るほうが、観戦のモチベーションは上がる。格下との対戦が続いた最近の日本代表のサッカーに不足していた魅力が、この東京五輪で一気に全開になっている印象だ。

 このU-24スペイン代表との準決勝は、サッカーファンの多くが観戦を待望していた一戦だった。

 森保一監督はこの東京五輪で、金メダル獲得を目標に掲げている。そのためには、スペインに勝利しなくてはならない。具体的にどのような勝算を抱いているのか。この準決勝の一番の見どころだった。

 延長後半10分まで0-0で推移する展開は、善戦以外の何ものでもなかった。まさに惜しい試合だった。視聴者の目を釘づけにしたという点では合格だ。しかし、金メダルを目指すチーム、スペインを倒したいと考えていたチームの戦い方とすれば、突っ込みどころはある。



スペイン戦でチャンスをつくりながら決めることができなかった久保建英

 ボール支配率でスペインに上回られるのはいたし方がないとしても、問題はその割合だった。120分間通しての関係は39%対61%。前半が42%対58%だったので、時間の経過とともに支配される時間が増していったことがわかる。

 少ないチャンスをものにする得点能力の高いFWがいるなら、その支配率の関係でも悪くないが、そうしたタイプがいないのが、日本サッカー最大の問題だ。支配率がすべてではないとはいえ、高い状態が維持されてこそ、日本らしさが発揮されやすい。目指すは45%対55%の関係だった。

 日本は何分かに1度、反撃した。スペインゴールに迫ることができた。しかし、ボールを奪われて即、奪取することはできなかった。日本は高い位置からよくプレスをかけていた。ひとりひとりが高い技術を持つスペインは、それをかいくぐるようにパスを繋ぎながら日本陣内に攻め返すのだが、日本のオールコートプレスに、多少なりとも手を焼いていたことは事実だった。日本が善戦した一番の理由はここになる。こうした真面目さ、勤勉さを、長い時間発揮できる国は世界にそう多くない。

 それによって、スペインの攻撃を遅らすことはできた。しかし、高い位置で奪うには至らなかった。よって連続攻撃ができなかった。対するスペインは、日本からボールを奪うことがうまかった。とかくその洗練されたパスワークに目を奪われるが、奪取するうまさは、もっと語られるべき点になる。

 とはいっても日本は、何回かに1度、そのプレッシャーをかいくぐり、スペイン陣内に進出した。問題はその時の日本の攻撃だった。

 久保建英、堂安律が中心となり、攻め立てたが、ほぼ速攻のみ。プレーにかかわるのは、前線の4人、4-2-3-1の「3-1」がせいぜいだった。守備的MFの2人(田中碧、遠藤航)が、そこに加わる機会は少なかった。遅攻が効かなかった最大の原因であり、その瞬間、前と後ろが開き、真ん中が空くサッカーに陥ったので、それが奪われたボールを奪い返すに至らない原因にもなっていた。

 チームの構造上、田中と遠藤には、半端ではない負担がのしかかっていた。ニュージーランド戦でも、その直後に書いた原稿で述べているが、今回も同じ状態になっていた。ニュージーランドという格下に対して日本は、ボール支配率53%対47%という関係に終わったことが、相手に善戦を許し、延長、PK戦までもち込まれた一番の理由だ。

 遠藤は、スペイン戦を含めると、5試合連続で出ずっぱりだった。田中も5戦連続スタメンを張っていた。負担過多になりがちな2人を、不動のスタメンにしていたことに、日本の一番の問題があった。

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 守備的MFの候補には、他に中山雄太と板倉滉がいた。しかし、この日2人は左サイドバックと、センターバックでそれぞれスタメン出場していた。冨安健洋も累積警告で出場停止だった。ベンチに控えはいなかった。田中と遠藤は、ボロボロになりながらよく頑張った。しかし、森保監督の采配ミスとして挙げたくなる点でもある。

 田中は延長後半13分、精も根も尽き果てたという様子でベンチに下がった。交代で入った選手は橋岡大樹で、基本的にはSBの選手だ。守備的MFの経験に乏しい選手だった。選手交代の話をするなら、この交代は5人目だった。延長戦に入れば枠は6人に増える。日本はその枠を使い切らずに敗れたことになる。

 フィールドプレーヤーで最後までベンチを温めたのは瀬古歩夢。これまで一度も出場したことがないセンターバックをベンチに残したまま、日本は終了のホイッスルを聞くことになった。瀬古を最終ラインに投入し、板倉を1列高い守備的MFに押し上げる戦術的交代ができなかった点に、森保采配の弱点が見て取れた。

 対するスペインは6人の交代枠すべてを使い切っている。チームとしての疲労感を、可能な限り分かち合いながら戦ったスペインと、それができなかった森保監督。オーバーワークが明らかな選手が、確実に存在したにもかかわらず、手をこまねいたまま敗れ去った。

 森保監督が2022年カタールW杯まで代表チームの指揮を執るなら、あらためてほしい点だ。この選手交代の考え方では、W杯本大会の決勝トーナメントで上位は狙えない。監督の冴えた采配抜きに、日本の好成績は望めないのである。

 延長後半10分、試合を決める一撃を放ったのは、途中交代で入ったマルコ・アセンシオ(レアル・マドリード)だった。そのひとつ手前で絡んだミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)ともども、左利きである。日本なら久保、堂安を想起させる2人組だ。しかし、日本はこの関係に敗れた。久保がレアル・マドリード入りするためには、同じく左利きのアタッカーであるマルコ・アセンシオの上をいく必要がある。この準決勝は、ある意味で久保がマルコ・アセンシオに敗れた日という見方もできる。

 マルコ・アセンシオが後半39分、ペドリ(バルセロナ)と交代で出場したスペイン。90分の戦いが終了すると同時に、ベンチに下がった久保と堂安。このメンバー交代を見ても、スペインが延長戦の末に1-0で勝利したという結果には納得がいく。

 日本は善戦したものの、終わってみればスペインの順当勝ち。縮められる部分もあれば、そう簡単に縮められない部分もある。まずは縮められるところから、縮めていきたい。