FL嶋田直人は、京都市の実家でオフシーズンを過ごしていた。 そんな折、所属するキヤノンイーグルスのチーム関係者から電話が入った。「『キャンプのスコッドに入ったから行ってこい』みたいな感じでした。すごく嬉しかったです」 日本代表候補、サンウ…

 FL嶋田直人は、京都市の実家でオフシーズンを過ごしていた。
 そんな折、所属するキヤノンイーグルスのチーム関係者から電話が入った。
「『キャンプのスコッドに入ったから行ってこい』みたいな感じでした。すごく嬉しかったです」
 日本代表候補、サンウルブズ遠征不参加組の強化・育成を目的とした「ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)」の第1回キャンプ。3月6日、東京・辰巳の森ラグビー場でスタートする新プロジェクトへの招集だった。
 メンバー入りを知った嶋田は、翌日、新幹線に飛び乗って上京した。プロ選手としてウエートトレーニングは重ねていたが、オフシーズンとあって心身は休養中。すぐに所属するキヤノンの施設で自主トレを始めた。
 伏見工業から立命館大学を経て、この春キャノンで4年目を迎える25歳――。
 “同期たち”と同じ舞台でプレーするチャンスが、ついに巡ってきた。
 
 3月13日、辰巳の森ラグビー場。日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)が主導する強化プロジェクト「ナショナル・デベロップメント・スコッド」は、第2回キャンプの初日を迎えた。
 
 ケガから復帰のPR稲垣啓太も初合流。午後3時半にスタートした練習では、ディフェンスシステムの確認などに加え、3種類のトレーニングを同時進行でおこなうなど、約1時間半にわたり濃密なメニューをこなした。LO真壁伸弥、SH矢富勇毅は別メニューでの調整。第2回キャンプの最終日は3月17日を予定している。

 第1回キャンプを「きつかった」と振り返るFL嶋田だが、この日は充実の表情だった。
「少しはフィットしてきたかなと。先週よりもランニングのボリュームが増えたと思いますが、自分としてはしっかり走れました」
 全体練習後、複数のFW選手と共に取り組んだのは、ラケットを持ったジョセフHCがテニスボールを打ち、それをキャッチするというもの。トレーニングの意図を尋ねられると、「ハンドリング練習です。ジェイミー(・ジョセフHC)のラグビーは、FWでもどんどんパスを回したりするので」。
 テニスボールに悪戦苦闘するうち、笑顔が弾けた。
 
 立命館大学の4年生だった2013年、同期でキャプテンのHO庭井祐輔、LO宇佐美和彦らと共に関西大学Aリーグを制した。“立命”にとって12年ぶり3回目の関西王者だった。その年のチームを牽引した強力FWのなかで、先発出場を続けた4年生は、HO庭井、LO宇佐美、NO8嶋田の3人。
 その3人は大学卒業後、そろってキャノンへ進んだ。

 同期の絆を深めながら研鑽を積む日々のなかで、しかし明暗も生まれていった。
 LO宇佐美は2015年に日本代表デビュー。サンウルブズへは今年、2年連続のスコッド入り。そしてHO庭井も今年、2年目を迎えたサンウルブズに招集され、3月11日のチーターズ(南アフリカ)戦でスーパーラグビーデビューを飾った。伏見工業で同期だったSH内田啓介(パナソニック)も同じ舞台で戦っている。
 
 同期たちの活躍にFL嶋田は、「一緒にプレーしていたのに、あんなところへ行ってすごいなという思いもあります」。そう言って屈託のない笑顔をのぞかせるが、一方でプロアスリートとしての想いは募る。
「(同期が代表などに)選ばれて嬉しい気持ちもありますが、自分もそのなかに入っていきたいという気持ちもあります」
 2016年のトップリーグでは、キヤノンの一員として全15戦に先発出場、豊富な運動量で献身した。そんな仕事ぶりを見てくれていた人がいて、評価してくれた人がいる。
 そして年代別の代表歴のなかったひたむきな“チームマン”に、招集の電話は掛かってきた。
「(ラグビーは)中学校からやっていますが、高校日本代表も入っていませんし、U20代表も入っていません。こういう場は、本当に初めてです。今回このようなキャンプに呼んで頂いて、良いチャンスをもらいました。チャンスをモノにしたいと思います」
 今回の招集に際して、高校・大学・社会人の仲間から多くの激励をもらった。ラグビーを続けてきたことの証なら、すでに溢れるほど持っている。

 4月22日に韓国で開幕する「アジアラグビーチャンピオンシップ2017」のメンバーは、全4回の今キャンプから選抜される予定だ。その先に6月のルーマニア代表、アイルランド代表とのテストマッチが待つ。 

 桜の咲く季節が近づいている。NDSキャンプで経験を積み、笑顔の25歳はさらなる飛躍、開花を目指す。(文/多羅正崇)