「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#54「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカ…

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#54

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。多くのプロ野球選手も加入するパフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」主宰、ピッチングストラテジストの内田聖人氏は投手の“球”を独自の「ミカタ」で解説する。

 日本の侍ジャパンは2日の準々決勝・米国戦に7-6で延長10回サヨナラ勝ち。準決勝進出を決めた。7投手がリレーした投手陣で際立った一人が4番手の千賀滉大投手(ソフトバンク)だ。2イニングを3者連続を含む5奪三振で1安打無失点。「お化け」と言われるフォークが光った。その凄さとともに、千賀のようなフォークを投げたい中高生への考えを明かした。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 劇的な勝利を飾った日本ですが、千賀投手は素晴らしい内容でした。

 故障明けということが心配されましたが、千賀投手が千賀投手のピッチングをした感じ。この日はフォークはもちろんですが、ストレートも速くて、高めで空振りを取れていたし、カットボールも良かったです。

 打者からすると、高めの甘い球に目付けしていたら、ストレートは高めに伸びてくるし、フォークは低めに落ちてくる。あれだけ速くて強いカットボールを投げられる投手はなかなかいません。本当に嫌な投手です。

 その上で、改めて語る必要もないですが、フォークはやっぱり凄い。何より誰が見ても分かるくらいに落ちる。ストライクからボールの低めへ、ボールの高さからストライクへ。テレビの映像で見て、あそこまで落ちる投手もまた、なかなかいません。

 千賀投手のフォークはジャイロ成分が強い。加えて、あれだけ落差があると、普通は球速が出づらい。これは私が指導するアマチュアの選手もそうですし、私自身もそうです。にもかかわらず、140キロを超える球速が出ることが凄い。

 その要因は、全身を使ってボールに力を加えられていること。それでいて、強いジャイロ成分のまま、発射を浮かすことなく投げる。ストレートと同じ軌道に乗せられたら、よく言う「消える」現象が起きる。一流の打者でも打つのは難しい球だと思います。

 通常、シーズンを戦っているNPBの選手も空振りをしてしまうくらいですから、いくら米国といえど、初見で打つのは極めて難しいはずです。

千賀のようなフォークを投げたい中高生へ、学ぶべき本質は「向上心」

 フォークを武器にする中高生なら、みんな千賀投手のようなフォークを投げたいと思います。

 しかし、敢えて言わせてもらうと、千賀投手と握りを真似しても、千賀投手のフォークは投げられるとは限りません。フォークは難しい球種。カーブのように自分で回転をかける球種じゃなく、指の長さによっても指の圧力によっても軌道が変わるからです。

 今大会の記事で繰り返していますが、まずは手先だけじゃなく全身で投げること。あとは良いところを盗みつつ、自分の体に置き換えて調整していくことが大切です。それが、上手くなる上での本質にあると思います。

 ただ、一つ言えるとするなら、千賀投手のような野球人になろうということ。

 千賀投手は私が主宰するオンラインサロン「NEOREBASE」に参加していただいており、今年1月には千賀投手の自主トレに私が2日間参加。今もたまに連絡を取らせてもらっていますが、一番に思うのはストイックに裏打ちされた向上心が凄まじいこと。

 日本を代表し、世界に通用するあれだけの投手が、常に上手くなろうとしている。現状維持は退化といいますが、まさにそんな意識を持っている。子供たち、野球選手に限らず学ぶべき姿に感じますし、私もここで止まっていちゃダメだと影響を受けています。

 シーズン中ですら、自分の体を実験台にしてトーレニングをしている。今まで接してきた野球選手はシーズン中は“調整”に走るイメージでした。なのに常に進化を求めている。この点は本当に尊敬しています。

 千賀投手のように常に上手くなろうという意識をもって、日々取り組むこと。これが、千賀投手のフォークに近づく一番の近道です。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌19年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りで指導者に転身。昨年、立ち上げたオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。自身も今年自己最速を更新する152キロを記録。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)