アメリカ・カリフォルニア州インディアンウェルズで開催されている「BNPパリバ・オープン」(ATP1000/本戦3月9~19日/賞金総額699万3450ドル/ハードコート)の本戦5日目、男子シングルスはドローのトップハーフ(上半分)の3回…

 アメリカ・カリフォルニア州インディアンウェルズで開催されている「BNPパリバ・オープン」(ATP1000/本戦3月9~19日/賞金総額699万3450ドル/ハードコート)の本戦5日目、男子シングルスはドローのトップハーフ(上半分)の3回戦が行われ、ラッキールーザーとして本戦入りした西岡良仁(ミキハウス)が世界ランク14位のトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)に1-6 7-6(5) 6-4で逆転勝利をあげた。

 マスターズ1000は過去にマスターズシリーズやスーパー9など名称を何度も変更しているが、錦織圭(日清食品)以外の日本選手が4回戦に進出するのはこの25年間では初めて。ちなみに、1991年にモントリオール大会で松岡修造がベスト8入りしている。

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 期待が膨らんでいただけに、ため息が出るような展開だった。第1セットを1-6で失い、第2セットも2-5と王手をかけられるまでは-----。

 ベルディヒのフラットな強打にタイミングが合わず、西岡はボールが浅くなりがちで、変化をつけようとネットに出てみてもボレーやスマッシュをミスするという状態。徐々に何をしてもうまくいかなくなり、何度も天を仰いだ。

 連続4週目の大会出場で溜まっている疲労も、ベルディヒの強打に対して踏ん張りきれない原因だったようだ。相手はこのところ不調とはいえグランドスラムのファイナリストであり、マスターズシリーズの優勝経験もある元世界4位だ。この状況からの逆転を信じるのは難しい。

 「正直、勝ちを見出せるとは思っていなかった。あきらめはしなかったけど、できるところまでやろうという気持ちだけだった」

 第8ゲームのひとつ目のブレークバックはリターンからのアグレッシブな攻撃や、西岡得意のパッシングショットが生きたが、続くサービスゲームでは3度目のデュースのあとダブルフォールトをおかし、マッチポイントを握られる。

 次のポイントをセカンドサービスからしのぎ、結局5度のデュースの末にキープ。特に何かを変えたというわけではないという。

 「相手が崩れてくれた」。

 しかしそれは崖っぷちをしのいでから、しぶとさを増してきた西岡のプレーと無関係ではない。

 ベルディヒの渾身の強打がライン際に入れば対処しようがなかったが、どんなに激しく振り回されてもとにかく返すのだという執念は無駄ではなかった。普通よりもよく飛ぶという使用球のせいかイージーなミスが増えていたベルディヒにとって、それは大きなプレッシャーだっただろう。

 第10ゲームではバックハンドのミスとダブルフォールト2つをもらって西岡にトリプルのブレークバックチャンス。3つ目でついにブレークを果たして5-5に追いついた。疲れているはずの西岡に、どこからか力が湧いてくるのが見えるようだった。

 タイブレークはシーソーゲームで5-5まで進んだが、ベルディヒがこの試合5度目のダブルフォールトをおかし、西岡にセットポイントが訪れる。最後はベルディヒのフォアがベースラインを越え、西岡がセットをものにした。

 最終セット、第1ゲームをいきなりブレークした西岡はすぐにブレークバックを許すが、第3ゲームでふたたびブレークに成功。第7、第9ゲームのブレークチャンスはものにできなかったが、自分のサービスをすべてキープし、最後はこの日2本目のエースをセンターラインの上へ。

 身長171cmの西岡のサービスに驚異的なスピードはない。しかし196cmのベルディヒの構えの逆をついたサービスエースは、この番狂わせを象徴するような締めくくりだったかもしれない。

 高田充コーチ、馬木純也トレーナーのもとへ駆け寄って歓喜を分かち合ったが、タオルで顔を覆って号泣する馬木トレーナーの姿は、西岡の体が今どれほどたいへんな状況かを物語っていたのではないだろうか。

 「僕の体のことをよくわかってくれているので、リカバリーの面ですごく助けてもらっている」と西岡。高田コーチについては「ツアーを回り出してからずっといっしょなので、的確に指摘やアドバイスをしてくれるし、言いたいことも言える関係」と信頼を寄せている。

 「徐々に自分のチームが形成されつつあるのを感じています」

 その安心感は「自信を持ってプレーできている」という今の西岡の支えだろう。プラス、上位選手との対戦が増えて生じた意識の変化だ。

 「経験することじゃなくて、勝つことを考えられるようになった」。

 4回戦は第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)への挑戦だ。勝利を信じるためには、リカバリーが最大のカギになる。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)