「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#32「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカ…
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#32
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。多くのプロ野球選手も加入するパフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」主宰、ピッチングストラテジストの内田聖人氏は今大会、投手の“球”を独自に解説。金メダル獲得を目指す侍ジャパンは28日の1次リーグ初戦・ドミニカ共和国戦に4-3で逆転サヨナラ勝ちしたが、苦しめたのは相手先発C.C.メルセデス投手だった。巨人の育成出身左腕は7回途中3安打1失点7奪三振。6回までわずか1安打に封じ込めた。なぜ、侍ジャパンは捉え切れなかったのか。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
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メルセデス投手は日本を日本的な投球で苦しめた。そんな印象でした。
何よりもコントロールが抜群でした。ストレートとスライダーを中心に右バッターにたまにチェンジアップを投げるスタイル。ストレートは内外と高低に狙って散らばせ、スライダーは徹底して低めに投げる。自分のピッチングの特長をほぼ完璧に生かしていました。
主体となるスライダーが特徴的です。今はカット系の強いスライダーを投げる投手が多く、それを高めに効果的に使う投手が増えている。この日、投げ合った山本由伸投手のようにパワー系の球でストライクゾーンで勝負できる投手の活躍が目立ちます。
そういうトレンドの中で、メルセデス投手はいわゆるスラーブに近く、しっかりと曲がる、昔ながらのスライダー。その分、ストライクからボールにコントロールすることが鍵になる球ですが、完璧に操れていました。珍しいとまでは言わないですが、面白い投手です。
普段から対戦しているはずの日本打線が手玉に取られたというのは、それだけ打てる球がなかったということ。
中高生の参考になるのは、ほぼストレートとスライダーの2球種で抑えた点です。スライダーと対になる軌道のチェンジアップを持っていることも大きいですが、メルセデス投手のように怪我をしないところに投げれば、国際舞台で日本代表を抑えることができる。
失投を避けようという意識を持つと、アマチュアレベルで多いのが四球を連発してしまい、投球が崩れること。しかし、コントロールを乱さず、簡単に打てる球を投げなかったことが、ほぼ2球種で抑えられた要因に感じます。
自分の自信がある球を極めれば、試合を作ることができる
高校生に指導をさせてもらう機会がありますが、高校野球でも2、3球種でカウントを取れるパターンと三振を取りに行くパターンを作り、バランスよく投げられている投手は試合展開が早く、楽にアウトを取れている印象。かなりレベルが高い投球になります。
ドミニカ共和国出身ですが、巨人の育成時代を含め、日本で5年以上プレーし、NPBのいろんな良い投手の中で育ち、投球スタイルが作られた。もともと持っていた能力に加えて日本人の良さが生かされたドミニカ共和国と日本のハイブリッド型投手かもしれません。
今は多彩な球種を操る投手の活躍が目立ちます。もちろん、球種が多いに越したことはない。しかし、日本的かもしれないですが、自分の自信がある球を極めれば、試合を作ることができる。この日は基礎・基本の投球をエラーすることなくやり通した最高の例だと思います。
最後に。子供たちにコントロールの良い投手になる上で大切にしてほしいことがあります。それは、いろんな投げ方を試してみること。
例えば、投球でオーバースローという形にこだわりすぎず、守備に就いた時には遊びでいろんな形を試してみる。そういう“投げるセンス”は子供のうちに磨かれる。投球動作やリリースを突き詰めるのは、高校生からでも十分。早くに引き出しを多く持つことが将来にきっと生きます。
五輪という舞台で、いろんな学びを与えてくれるメルセデス投手の投球でした。
■内田聖人 / Kiyohito Uchida
1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌19年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りで指導者に転身。昨年、立ち上げたオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。自身も今年自己最速を更新する152キロを記録。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)