東京オリンピックで、南アフリカとメキシコに連勝したU-24日本代表。しかし、勘違いしてはならない。1人少なくなったメキ…

東京オリンピックで、南アフリカとメキシコに連勝したU-24日本代表。しかし、勘違いしてはならない。1人少なくなったメキシコに対してボールを持つことができなかったし、コロナ禍に見舞われてただ守備を固める南アフリカを攻めあぐね、決勝点は久保建英の個人技によるものだった。日本の攻撃の生命線は中盤のビルドアップから攻め崩す、2列目の攻撃力にあるはずだ。日本がワールドカップで確実にベスト8、ベスト4に進むために必要なモノは何か。メキシコ戦は課題を突きつけられたゲームでもあったーー。

橘田健人(川崎)の打開力に可能性を見た

 僕は、南アフリカとの試合を見ながら、前日に見た試合のことを思い出していた。

 天皇杯全日本選手権の3回戦。川崎フロンターレジェフユナイテッド千葉の試合である。日本対南アフリカ戦と同じように、青チーム(川崎)がボールを握り続けたが、再三のチャンスを黄色のチーム(千葉)が防ぎ続ける。5バック気味でゴール前に青チームの選手が飛び込んでくるスペースを作らずに、分厚く守っていたのも同じだった。

 ただ、南アフリカとは違って、千葉はタイミングを見て攻撃を仕掛けてきた。5バックから3バックに切り替えて両ウィングバックが立ち位置を上げ、さらにボールを持てる時間帯にはMFの1人が最終ラインに降りて、CBも攻撃に参加するなど、虎視眈々とカウンターのチャンスをうかがっていたのだ。

 そして、後半に入ってすぐ(53分)、千葉が先制ゴールを決めた。左サイドの深い位置にロングボールを入れると、サウダーニャが川崎のプレッシャーに耐えて持ちこたえ、最後はゴール前の混戦の中で見木友哉が放ったシュートがDFに当たってゴールに飛び込んだ。

 もちろん、現在J1リーグを首位で独走し、ACLのグループステージを6戦全勝で乗り切った川崎が反撃に移る。だが、結局生まれたゴールは失点のすぐ後に獲得したPKによる1点(60分、家長昭博)だけ。試合は延長戦でも決着がつかず、川崎はPK戦の末、辛うじて次のラウンドに駒を進めたのだ。

 川崎は田中碧がドイツのブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフに移籍。三笘薫のベルギー行きも決まり、この2人に加えて旗手怜央もUー24日本代表に招集されていたので攻撃力が落ちていたのかもしれない。J1リーグの後半戦も、田中、三笘という主力抜きで戦うわけである。

 そんな川崎がどんな試合をするのかというのが、それが千葉戦の見どころの一つだった。

 川崎の攻撃で輝きを放っていたのは、左インサイドハーフに入った橘田健人だった。桐蔭横浜大学を卒業して今シーズン加入したMFだ。

 川崎が獲得したPKも橘田のスピードが生み出したものだ。登里享平がドリブルで左サイドを持ち上がり、ペナルティーエリアの中にスルーパスを送り込んだ瞬間に2列目から走り込んだ橘田のスピードに千葉のDFの対応が遅れて、トリッピングの反則となったのだ。

 橘田の中盤でのスピードは試合開始直後から目立っていた。走るスピード。そして、鋭いターン。緩いパスでもワンタッチ目で一気に加速することもうまい。

 ゆっくりとボールを回して守備陣にスペースが生まれるのを待って一気にスイッチを入れるというのが、これまでの川崎だったのだが、橘田が入ったことによって、自分たちのパス回しの中から、一気にパス回しのテンポを上げられるようになったのだ。

 もちろん、スピードがあるだけでは川崎のMFは務まらない。だが、橘田はそれだけの高速で動きながら、川崎の選手らしいパス回しの技術やアイディアを存分に見せてくれたのだ。

■「プレーのキャンセル」と「逆の角度でのパス出し」

 川崎らしいプレーとは何か……。

 たとえば「プレーのキャンセル」。パスを出そうとした瞬間、相手DFが反応してパスコースを切られたり、パスの受け手がマークを受けた時には、すぐにプレーの選択を切り替える。この判断力こそが、川崎のあの正確なパスワークを支えているのだ。

 だが、キックする瞬間にパスという選択をキャンセルして、次のプレーに移ることはそれほど易しいことではない。橘田のようなスピードの中でプレーする選手にとってはなおさらだろう。だが、橘田は千葉戦で「キャンセル」を簡単に行っていた。

 あるいは、体の向きとは逆の角度でのパス出し。

 前半の10分頃、バイタルエリアに進入した橘田が左の家長からのパスを受けた瞬間、橘田の体は半身に開いており、右サイドにパスを送るのが“順”の選択だった。だが、橘田は体の向きはそのままで左斜め方向の脇坂に意表を突いたワンタッチパスを出したのだ(脇坂がさらにレアンドロ・ダミアンにはたいたが、ダミアンのシュートはゴールポスト左に外れた)。さらに、中盤で相手のミスでこぼれてきたボールを拾った瞬間に前線のフリーになっていた選手に鋭いパスを送る(田中碧のような)プレーも橘田はこなしていた。

 橘田の千葉戦でのプレー、あるいはこのところボランチとして活躍している谷口彰悟を見ていると、田中や三笘がチームを離れたものの、川崎の戦力はそれほど落ちないように思える。さらに、どこのポジションでもこなせてユーティリティー性の高い山村和也も出場機会を増やしており、川崎の強さは盤石のように見える。

 そんな中で、川崎の中盤にこれまでなかったスピード感とモビリティーをもたらすであろう橘田の存在にも注目したい。

 そんな川崎の試合を見た翌日にU―24日本代表が黄色チーム(南アフリカ)に手こずっているのを見て、僕は川崎の試合、橘田のプレーを思い出したのだ。日本代表の中盤にも、あのようなスピード感を持って動けるMFがいたら攻撃力がかなり上がるだろう。

いま一番読まれている記事を読む