「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#15「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信す…

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#15

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。今回は毎月「Sports From USA」の連載を執筆している在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏のコラム。東京五輪の競泳である着泳帽の着用が禁止された判断が、スポーツ応援の心理から子どもに及ぼす影響について考察した。

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 東京オリンピックの競泳で黒人に多い太くカールした髪の毛のために作られた大きめの水泳帽の着用が禁止された。

 このキャップは、英国の「ソウル・キャップ」が製造したもので、競技会での使用を国際水泳連盟(FINA)に申請していたが認められなかったのだ。禁止の第一報を受けて「人種差別」との批判が高まり、国際水泳連盟は再検討するとしたが、現時点では再検討の結果は明らかになっていない。

 禁止の理由は、このキャップが大きい、頭の形に添っていないなどだが、他の選手よりも大きいキャップをかぶることは、競技で優位性を得ることにはつながらない。むしろ、不利になることさえあるだろう。

 いったいどのくらい大きく、頭の形に添っていないのだろうか。私はオンラインを利用して「ソウル・キャップLサイズ」を購入した。一般的な水泳帽よりはかなり大きいが、実際にかぶってみると頭にぴったりとはまる上に、後頭部や頭頂部に髪を入れこむスペースがあって、うまく作られている。材質はシリコン製だ。
 
 この水泳キャップの禁止はオリンピックを含む国際大会で黒人選手を排除し、差別することだけにとどまらないと、私は思う。

 米国には人種隔離政策という負の歴史がある。プールも白人用、黒人用と分けられていた。さらに黒人用はプールの数や立地条件という観点からアクセスしにくいものだったという。人種に関係なくどこのプールにでも入れる時代がきても、白人から追い出される、差別されることは頻繁に起こっていた。

 2017年に米水泳連盟が発表したデータによると、4歳から18歳の子どものうち泳ぐ能力がない、または、能力の低い割合が、黒人で64%、ヒスパニックで45%、白人で40%だった。2010年時の調査からは5~10%程度の増加が見られた。差別されてきた歴史が、泳ぎを学ぶことを躊躇させている原因の一つになっていると指摘されている

 泳げるかどうかは、溺れそうになったときには生死を分けるものになる。米疾病予防管理センター(CDC)によると、スイミングプールで溺れる事故は、10~14歳の黒人の子どもが白人の子どもに比べて、7.6倍も高い。

 溺死は子どもの不慮の事故死のなかで2番目に多い死因である。

スポーツファンは自分に特性を持つ選手を応援する傾向

 スポーツファンは、自分に似た特性を持つ選手を応援する傾向がある。今回のオリンピックでもそれが当てはまるかどうか分からないが、これまでの五輪では、日本のファンは、日本代表選手を応援することが多いというのもその表れだっただろう。

 また、カナダで子どもたちに、どのスポーツ選手が好きかと調査したところ、自分のやっているスポーツで、自分と同じポジションの選手を好んでいること分かったそうだ。

 自分と同じような肌の色、髪質の選手が、その髪質にあったキャップを被って泳ぐ姿がテレビ画面に映し出されることは、黒人の子どもをスイミングプールに向かわせて、泳ぎを覚えることを後押しする力になり得るだろう。

 オリンピックでの水泳キャップ禁止は、日々の生活のなかで子どもたちの溺死を防ぐためにはどうするか、ということにも無関心であることを示していると、私は思う。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。