「ふたつの全く性質の異なるチーム同士の対戦で、非常に興味深かった。日本はスピード、南アフリカはパワーに活路を見出しながら…

「ふたつの全く性質の異なるチーム同士の対戦で、非常に興味深かった。日本はスピード、南アフリカはパワーに活路を見出しながら戦っていた」

 スペインのサッカーマスター、ミケル・エチャリはそう言って、東京五輪の初戦で日本が南アフリカを1-0と下した試合を振り返っている。エチャリは長年、スペインの監督養成学校の教授も務めてきた。かつてヴィッセル神戸を率い、現在はマンチェスター・シティの参謀を務めるフアン・マヌエル・リージョは"直系の弟子"にあたる。

「システムもコンセプトも選手のキャラクターも違ったが、両チームが集団戦術を用い、見どころが多いゲームだった」

 そう語ったエチャリは、メダル獲得が至上命令と言われる日本の開幕戦をどのように分析したのか。



南アフリカを混乱に陥れていた田中碧

「日本は戦い慣れた4-2-3-1を採用。久保建英、堂安律、林大地の3人が近い位置でコンビネーションを作り、中盤では田中碧と遠藤航が攻守のバランスを取って、前線とバックラインを連結させていた。三好康児は左サイドで幅を作って、右サイドは酒井宏樹の攻め上がりが目立っている。

 特筆すべきは、それぞれのラインが密接で、距離感がよかった点だろう。吉田麻也を中心に防衛線を作り、ことごとく相手ボールを回収していた。暑さに対する対策か、前線のプレッシングはそこまで強烈ではなかったが、南アフリカにボールをつながさせていない。

 もっとも、南アフリカは3-4-2-1、あるいは5-4-1という割り切った布陣で、粘り強く挑んできた。日本の持ち味であるスピードとテクニックを駆使したコンビネーションを消すように、スペースを埋め、できる限り自由を奪っている。ボールホルダーにはしっかり人がついていたし、ボールを奪うと、すかさず前線の選手がサイドへ流れ、そこにボールを通そうとしていた。

 指導者的視点でいえば、南アフリカは及第点を与えられる戦い方をした。

 一方の日本はスピードとテクニックが顕著で、機動力の高さでゴールに迫っている。

◆日本の五輪2戦目メキシコは準備万端。最高のOAでロンドン五輪の再現を狙う

 前半15分には敵陣で何本もパスを回し、左サイドの中山雄太が折り返したボールを久保が受け、サイドネットの外側へ惜しいシュートを放った。また、前半終了間際にはパスをつないで攻め寄せ、田中碧がファウルで倒されてゴール前のFKを得るなど、南アフリカに混乱を与えていた。

 0-0で前半は終わったが、「日本が好機を外していた」というよりも、「南アフリカが最後の砦を守っていた」という印象のほうが近いだろう。守備の層はそれだけ分厚かった。日本はいくらか攻め急ぎもあって、その点、オフサイドで取り消されたゴールもあった」

 エチャリは、「攻める日本、守る南アフリカ」の構図をわかりやすく説明した。想像以上に、じりじりしたせめぎ合いだったと言えるだろう。

「後半の立ち上がり、日本は前線で裏を狙う林に長いボールを入れる機会が増えた。ただ、戦いの構図そのものは変わっていない。日本はボールを持って攻める時間が長く、敵の攻撃はことごとく寸断していたものの、粘り強い守りを崩し切れなかった。しかし、忍耐強く攻めていた。

 後半26分、左サイドの田中からのパスを右サイドで受けた久保が、すばらしいコントロールを見せる。中に切り込んで、利き足の左足でファーサイドのポストの内側にヒットさせる見事なゴールを決めている。久保は他にも、堂安とのワンツーから際どいシュートを放つなど、幾度もゴールに迫っており、必然の得点だった。

 ただ、リードした後の日本は『ボールを失い、カウンターを食らいたくない』という気配を濃厚に漂わせるようになった。流れとしては自然だろう。しかし、相手にペースを与えすぎた。後半30分を過ぎ、左サイドを破られて際どいシュートを打たれた後、日本は目に見えて形勢不利になった。勝ち逃げしたいという意識が強く出て、受け身に回ったのだ。

 日本はポジション的優位も失い、ビルドアップもできなくなった。ボールを持てないことでナーバスになってしまい、ファウルで止めるしかなく、いくつもFKを与えている。悪い連鎖だった。左サイドを右センターバックのテンド・ムクメラの攻め上がりで完全に突き破られるシーンもあって、選手交代、ポジション変更でどうにか逃げ切ったが......。

 最後はアクシデントが起こっても不思議ではなかった。率直に言って、"試合の終わらせ方"が今後の修正点だ」

 エチャリはそう言って、白星スタートになったことを驕らず、勝って兜の緒を締めることを求めた。

「日本は先制点を取るまでは、我慢強くプレーすることができていた。各ラインが緊密に陣を張り、攻守両面で主導権を握った。すばらしいスタートだったと言える。しかしリードを守ろうとして、チームとして土台であるバランスの良さを失っていった。その結果、南アフリカのパワーのある攻撃に対し、後手に回っていた。

 もっとも、こうした短期決戦は結果がすべて。今は日本の勝利を祝福したい。次のメキシコ戦は、自分たちの戦い方を信じて戦い続けるだけだ」