既視感を覚える試合、とでも言おうか。 最終的に優勝するとか、メダルを獲得するとか、好成績を残すチームの大会初戦とは、得…
既視感を覚える試合、とでも言おうか。
最終的に優勝するとか、メダルを獲得するとか、好成績を残すチームの大会初戦とは、得てしてこんな試合になるものなのかもしれない。
東京五輪グループリーグ初戦、日本は南アフリカに1-0で勝利した。

初戦の南アフリカ戦を1-0で勝利した日本
ボールポゼッション率、シュート数など、数字の上では優勢に試合を進めているものの、肝心のゴールがなかなか奪えない。臨戦過程では大きなアドバンテージがあるはずの日本にとっては、焦れったい展開が長く続く試合となった。
特に後半に入ってからは、立て続けにチャンスを作り出しながら、それを決め切れずにいると、日本の攻撃は次第に停滞。嫌な流れは決定的なものになりかけていた。
しかし、だからこそ、MF久保建英が左足で叩き込んだゴールは値千金だった。
「苦しい時間帯だったが、『今日(ゴールを)決めるとしたら自分だ!』と思っていた」
堂々と言い放つ20歳が頼もしい。
決勝ゴールは71分まで待たなければならなかったが、事前に伏線は張られていた。
前半15分、久保は左サイドからのクロスを逆サイドで受けると、「ポストに当たって入るくらいのイメージ」でニアサイドを狙ってシュート。これはわずかに枠外にそれたが、「前半、ニアに打って外していたので、ファーを狙おうと思った」。
今度は相手DFの間をすり抜けたシュートが、ファーサイドのゴールポストを叩いてインゴールに転がった。
「結果、いいゴールが決まってよかった。シュートは練習してきた。量は裏切らない」
久保はそう言って胸を張った。
欲を言えば、もう1点取って試合を終わらせたかったところだが、初戦で勢いに乗りつつ、気を引き締めるには、内容、結果とも悪くない試合だろう。決めてほしいところで、決めるべき選手が決める。何とも劇的な展開だった。
無失点に抑えたGK谷晃生は「これが国際大会の初戦なのかな」と落ちついた口調で振り返り、「ゲームコントロールしながら(試合を進めることが)できたので、それが1-0の勝利につながった」と安堵の言葉を口にする。
実際、他の試合に目を向けると、波乱と言ってもいい結果が少なくない。豪華メンバーをそろえ、優勝候補と目されるスペインはエジプトを相手にスコアレスドローに終わり、アジアのライバル、韓国はニュージーランドに0-1と不覚を取った。
「正直、勝ったからいい」
そう言って、心底ホッとしたように笑顔を見せたのは、MF田中碧だ。
「(試合の)締め方とか注文をつけるところはあるが、(勝ち点)3を取ることが何より。しっかり勝ててよかった」
決勝ゴールをアシストしたボランチの言葉には、この試合が持つ重みが表れている。
これが3度目の五輪出場となるキャプテンのDF吉田麻也は、「(結果は)最低限のところかな」と切り出し、「前半、ちょっとセーフティーにいきすぎたところがあった」と振り返る。
「緊張感があるし、いつもと違う独特の雰囲気がある。今日はボールを大事にしすぎた感は否めない」
そう言って課題を指摘しつつも、「よくタケが決めてくれた。後ろも焦れずに我慢できたなと思う」と吉田。頼もしい後輩たちを称え、「ここでひとつ試合ができて、ひとつ勝てたので、次はもうちょっとリラックスというか、肩の力を抜いてやれるんじゃないか」と、早くも次戦以降に視線を向けた。
当然、これから起こりうるアクシデントにも対応していく必要がある。
この試合では、ディフェンスの要であるDF冨安健洋が左足首の負傷で欠場。ベンチ入りメンバーからも外れていた。
それでも吉田は、「大会前から総力戦になるという話をしていたし、何かしらのアクシデントはあるだろうなと思っていた」と言い、こう続ける。
「まさか、しょっぱなに起こるとは思っていなかったが、(決勝までの)6試合を中2日(決勝のみ中3日)でずっと戦っていくうえでは、必ずいろんな選手の力が必要になるし、11人だけでは戦えない。いい準備をして、全員で戦うことが大事。冨安もいい状況に戻して、早くチャンスをつかめればいいなと思う」
冨安のケガが痛いアクシデントであるのは間違いないが、主力選手を欠いた時、代わって出場した選手がしっかりと求められる役目を果たすことは、こうした大会を勝ち上がるうえでは重要な要素となる。
むしろ、こうした事態こそがチームをひとつにし、勢いに乗せると言ってもいいほどだ。
大事な初戦、冨安の抜けた穴はDF板倉滉が確実に埋め、もともとはバックアップメンバーだったFW林大地、DF町田浩樹もピッチに立った。総力戦に挑む準備は整っている。
2012年ロンドン五輪では、あと一歩のところでメダルを逃した悔しさを知る吉田は、自信に満ちた表情で語る。
「もっともっとできるなと思う。もっともっとできるし、こんなもんじゃないなっていうのは、正直思っている」
もっともっと――。キャプテンは力を込めて、そう繰り返した。
「もっともっと思いっきり自分たちを出さなきゃいけないなと思うし、そうなれば、ロンドンを超えられるんじゃないかなと思う」
内容的に言えば、ケチのつけどころはあちこちにある。当然、物足りなさは残る。
だが、選手たちもそれをよく理解している。未完成だから抱ける期待もある。
メダル獲得へ、ホスト国が上々のスタートを切った。