「スーパーチームへ行き、自分の役割だけをこなして優勝することもできた。でも…」


 7月21日(現地時間20日、日付は以下同)に行なわれたNBAファイナル第6戦。ミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボはいずれもゲームハイとなる50得点14リバウンド5ブロックと超人的なパフォーマンスでチームを105-98の勝利へと導き、ミルウォーキーへ1971年以来となるチャンピオンシップをもたらした。

 『NBA History』によると、73-74シーズンにブロックショットが公式スタッツと認定されて以降、NBAファイナルの試合で40得点10リバウンド5ブロック以上をクリアしたのはアデトクンボが史上初の選手だという。

 もちろん、バックスにはクリス・ミドルトンとドリュー・ホリデーという役者がおり、ブルック・ロペスにPJ・タッカー、ボビー・ポーティス、パット・カナトンといったサポーティングキャストがいるものの、ギリシャ出身の26歳がいなければフェニックス・サンズを下すことはできていなかったのではないだろうか。

「僕がバスケットボールをプレーし始めたのは、家族を助けるためだった。貧困から抜け出そうとしていたんだ。幼い頃、僕らはそのチャレンジに直面していたからね。でも26歳になって、自分がNBAチームでファイナルの舞台に立ってプレーしているなんて考えてもいなかった。ただプレーするだけで、僕は仮に勝利していなくとも、その場でプレーしているだけでうれしかったんだ。まさか自分が(チャンピオンとなってMVPトロフィーを手にして)ここに座っているだなんて全く予想もしていなかった。これまで長い道のりだったからね」。




 優勝決定後の会見でそう話したアデトクンボは、2013年のドラフト1巡目15位でバックスから指名され、ひたむきに練習へ取り組み、ハードなワークアウトの末にビルドアップし、さまざまなスキルを身につけていった。

 17年に最優秀躍進選手賞(MIP)に輝き、同年からオールスターの常連選手となった規格外の万能戦士は、19、20年にレギュラーシーズンMVP、20年には最優秀守備選手賞(DPOY)にも輝き、今年はオールスターMVPにも選ばれ、キャリア8シーズン目の今季、念願のNBAチャンピオンへと上りつめて、ファイナルMVPをも手にしたのである。

 昨季終了後、アデトクンボはバックスとスーパーマックス契約を結ぶ資格を手にしていたものの、当時2021年夏は‟ヤニスの夏”と称されたように、複数チームがこの男をフリーエージェント(FA)で獲得し、王朝を築くべく動き出すと見られていたのだが、昨年12月中旬にバックスと5年2億2820万ドル(当時のレートで約235億460万円)の超巨額契約を締結して残留を決断。

 ミルウォーキーはお世辞にもビッグマーケットとは言えず、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市でプレーすれば、アデトクンボの注目度と副収入はさらに増えていた可能性は十分あった。だがアデトクンボは「離れることなんてできなかった。僕にはやらなければいけない仕事があるんだから」と話し、さらにこう続けた。

「ここへ戻ってきた時、僕は『ここが僕の街なんだ。彼らは僕のことを信頼してくれている。僕を信じてくれていて、このチームのことを信じてくれている』という気がしていた。もちろん、僕は(優勝するという)自分の仕事をやり遂げたかった。でもそれは僕の頑固なところさ」。

 平均20得点10リバウンドを軽々と残し、コート狭しと暴れ回る男に対して、多くのチームが獲得を狙っていたことは言うまでもない。3ポイントラインから1ドリブルでリムまで侵入してダンクをたたき込み、ディフェンスでも全選手をガードできる稀有な能力があるのだから当然と言えば当然。

「どこかへ行って、誰かと一緒にプレーしてチャンピオンシップを勝ち取ることは簡単さ。僕はスーパーチームへ行き、自分の役割だけをこなして優勝することもできた。でもこれ(バックスで優勝すること)を成し遂げるのはハードな道なんだ。そして僕らはやってのけたのさ」というアデトクンボの言葉は、FA移籍やトレードでスーパーチームを形成し、優勝を勝ち取ることが多かった近年のリーグへ大きなインパクトを与えたに違いない。

 もっとも、今季頂点に立ったからといって、アデトクンボが完璧な選手になったわけではない。ファイナル第5戦を終えた時点で、フリースローはシリーズ平均で成功率わずか59.1パーセント(39/66)に過ぎず、3ポイントも向上の余地がある。

「人々は僕がフリースローを決められないと言ってきた。でも僕は今夜、そのフリースローを決めてみせた。僕はひどいチャンピオンなのさ。(この大事な試合で)決めるべき時に、僕は成功させたのさ」。

 白い歯を見せながらそう話したアデトクンボは、第6戦でフリースローを89.5パーセント(17/19)という高確率で決め切り、サンズの猛攻を振り切る殊勲者となった。

 こうしたユーモアがある点、そして人を惹きつけてやまない笑顔も、この男が絶大な人気を誇る理由の1つと言っていい。来季は追う側から追われる側へと立場が変わるものの、アデトクンボは引き続きスキルに磨きをかけて、バスケットボールを楽しみながらプレーしていくに違いない。