トップイースト所属の東京ガスで、2016年度からBKコーチを務める穂坂亘氏。福岡・筑紫丘から法政大学へ進み、大学卒業後に入社した東京ガスでは、2008年度からキャプテンを務めた。
 2014年度から同部でプレーするサンウルブズのSOヘイデン・クリップスとは、選手とBKコーチの間柄。
 また、学生時代からSHが本職とあって、SOに対しての洞察の歴史は長い。

「クリプシー(クリップス)は一つひとつのスキルが高く、パスとキックは非凡です。特に少ないモーションからの鋭いパスは、彼の長所です。ボールを持てば、ギリギリまで仕掛けられる。プロ意識が高くて、性格的にも好青年だと思います」
 実力はある。だからこそ、国内下部リーグからただ一人サンウルブズへ招集された時も、驚きはなかった。
「彼はクレバーな司令塔です。ただ、今回のキングズ戦では、我慢してアタックしてもよい場面で、消極的なキックがあったと思います」

 3月4日、スーパーラグビー参戦2年目のサンウルブズは、準ホームのシンガポールでキングズ(南アフリカ)に23-37で敗れ、開幕2連敗を喫した。
 この試合でスーパーラグビーデビューを飾ったSOクリップスは、キッカーの重責を担った。穂坂BKコーチは言う。
「クリプシーはゴールキックが上手で、どんどん入る。彼のキックはうち(東京ガス)の得点源でした。競った試合はぜんぶ彼のキックで勝った、と言ってもいいくらいです」

 しかしキングズ戦でのプレースキック成功率は、43パーセント(7本中3本成功)。ホロ苦いスーパーラグビーデビューとなった。
「いつもなら決める位置でも外していました。コンタクトの負荷が原因なのかもしれません。もしかしたら疲労度が経験したことのないレベルで、そのあたりが影響したのかなと。(キングズ戦は)本来の出来ではなかったと思います」
 身長177センチ、体重82キロ。ニュージーランド出身の26歳が、キングズ戦で記録したタックル数はBK最多の「7」。これは献身の証であると同時に、相手チームの標的となった可能性も示唆している。
 
 穂坂BKコーチは昨年、プレースキックの居残り練習に励むクリップスをよく目にしていた。
 こだわりのあるゴールキックで不調――。
 当の本人はキングズ戦後、取材ゾーンでゴールキックについて尋ねられ、硬い表情でこう答えた。
「今日はあまり良くなかったと思います。もっと出来ると自分自身に期待していましたが、これもラグビーということだと思います」

 クリップスはキングズ戦後、遠征メンバーのひとりとして南アフリカへ飛んだ。待ち受けるのはアウェイ2連戦。現地時間3月11日(土)に第3節チーターズ戦、中5日で17日(金)にブルズ戦だ。
 国内下部リーグから、南半球最高峰リーグへ。稀に見る“飛び級”を果たした26歳は、過酷な戦いのなかで、本来の輝きを放てるか。(文/多羅正崇)