行き先を間違えたわけではない。小学生にして東京オリンピックでサッカー観戦の楽しさに目覚めたベテラン蹴球放浪家は、じつに…

行き先を間違えたわけではない。小学生にして東京オリンピックでサッカー観戦の楽しさに目覚めたベテラン蹴球放浪家は、じつに32年ぶりにオリンピック本大会を観戦するべく、勇躍マイアミビーチへと向かった。のちに“マイアミの奇跡”として知られることになる日本とブラジルとの一戦は、マイアミのオレンジボウルで行われたのだった。しかし、ビーチに面した小洒落たレトロなホテルへと投宿した理由はいったいどこにあったのか?

■スタジアム近くでしこたまビール

 実際、試合が始まると日本のゴールにはシュートが雨あられと飛んできました(公式記録によればブラジルのシュートは28本、日本は4本)。しかし、これを川口がいつものように(!)スーパーセーブでしのぎ続けます。そして、72分左サイドの路木龍次がロングボールを蹴り込むと、これを追ったアウダイールがGKのジーダと交錯してゴール前にボールが転がり、なぜかこの位置まで攻め上がっていた伊東輝悦が決めて先制。そのまま1対0で逃げ切った日本は世界を驚かせました(“世界”なるものがオリンピックのサッカーなどに注目していたかどうかは微妙ですが、相手がスーパースター揃いのブラジルだったので、それなりのインパクトはあったことでしょう)。

 そんな大熱戦だったのですが、スタンドにいる僕は朝のビーチで日焼けしてしまったため、体中がひりひりと痛くてゲームに集中できないという体たらくでした。そして、試合終了後はまたまた浮かれすぎて、スタジアム近くでしこたまビールを飲んで酔っ払い、最後はブラジル人が運転するトラックの荷台に乗ってマイアミビーチまで帰ったような記憶がうっすらとあります。

 ブラジル戦の翌22日にはマイアミからワシントンDCに飛んでアルゼンチン対ポルトガルの好カードを観戦。アルゼンチンには22歳のハビエル・サネッティやアリエル・オルテガがおり、オーバーエイジにはディエゴ・シメオネがいて若者たちの動きに睨みを利かせていました(1対1の引き分け)。

 そして、翌日は再びフロリダ州のオーランドに飛んで、日本の2戦目ナイジェリア戦。この頃のオリンピックは「中1日」の日程で試合をしていたのです。そして、日本は終了間際にジェイジェイ・オコチャにPKを決められて0対2の敗戦。日本は最終戦でハンガリーに逆転勝ちして2勝1敗としたのですが、このグループはハンガリー以外の3チームが2勝1敗で並び、日本は得失点差で3位となって準々決勝進出を逸しました。ナイジェリア戦の最後のPKがなければ、日本は2位に入れたのですが……。

 僕は準々決勝まで観戦して日本に戻る予定でした。その準々決勝はアラバマ州のバーミンガムに移動しました。1960年代にマーティン・ルーサー・キング牧師がここで反人種差別運動を起こし、アメリカの公民権運動のきっかけとなった街ですから、当時は新聞でこの街の名前を毎日のように目にしていました。

■なぜかスペイン人と呼ばれて

 ここにやって来たのは、アルゼンチン対スペインという好カードがあったからです。スペインは4年前のバルセロナ・オリンピックでは金メダルを獲得したチーム。アトランタ大会ではオーバーエイジは使っていませんでしたが、ラウールやイバン・デラペーニャがいました。

 試合は後半にアルゼンチンが4ゴールを奪って4対0で大勝。アルゼンチンはそのまま決勝に進出しましたが、ナイジェリアが3対2で勝って金メダルを獲得。3位決定戦はブラジルがポルトガルを5対0で破っています。つまり、日本はグループリーグで優勝と3位のチームと同居していたのです。

 さて、バーミンガムのリージョン・フィールドを出て、僕は空港そばのホテルまで移動しました。クルマ社会で公共交通機関が発達していないアメリカの街。タクシーの数も不足するので、一般の人たちが許可を得てお客さんを乗せているのです(ボランティアではありません。有料です)。そんな許可の目印を着けたクルマがスタジアム前に並んでいたので、そのうちの1台に乗せてもらったのです。

 オバサンが運転して、その母親のような女性も乗っていました。そして、世間話をしながらホテルのそばまでやって来ると、彼女たちは「あまり気を落とさないでね」と慰めのような言葉をしきりに口にするのです。「はい、はい」と受け答えをしてたのですが、やはり気になるので「なんで、そんなに僕を慰めるんですか?」と尋ねたら、こう言われました。

「だって、あなたたちスペイン人でしょ?」

「?」

 なぜスペイン人に見えたのか、僕にとっては永遠の謎です。同行していた、当時新進気鋭のフットボール・アナリストのT村S一氏は、「フランス人」と言われなかったのが不満のようでしたが……。

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