日本最高峰の富士山に挑むMt.富士ヒルクライムが、感染防止対策を施した上で、2年ぶりに開催されることになった。Mt.富士ヒルクライム(前編)のレポートはこちら前日までの天気予報は少々絶望的だったのだが、見事に好転。ドライコンディションのまま…

日本最高峰の富士山に挑むMt.富士ヒルクライムが、感染防止対策を施した上で、2年ぶりに開催されることになった。

Mt.富士ヒルクライム(前編)のレポートはこちら

前日までの天気予報は少々絶望的だったのだが、見事に好転。ドライコンディションのまま、オープニングセレモニーを迎えられた。
今年は混み合う状況を避けるため、参加者を10グループに分け、4時間かけて、順繰りにスタートする方式を取った。第1、2グループは、過去の大会や国内の主要大会の結果を基に主催者が選抜した選抜クラス、第3グループはオンライン企画で富士山の標高3776m以上の標高差のヒルクライムを終えてきた方限定のグループだ。ここまではグループでスタートするが、第4グループ以降の一般参加者はさらに7つのグループに分けられ、それぞれ指定された30分の枠の中の好きなタイミングでスタートできることになっていた。記録計測はメイン会場の1.3km先にある計測開始ラインから、5合目のフィニッシュラインまでの区間で行われるため、計測を始めるタイミングも、自分で選ぶことができる。例年は1万人に及ぶ色とりどりのウェア姿の参加者とバイクが、富士北麓公園の大駐車場、陸上競技場に一堂に会して壮観なのだが、今年は自身のスタート時刻に合わせて会場に到着するようアナウンスされていた。そのため公園の中に混雑する空間はなし。にぎわいもなく、淋しいような、接触の少ない状況にホッとするような、不思議な思いになった。



緊張感漂う主催者選抜男子のスタート前

最初にスタートする主催者選抜の選手たちの間には、やはりピリピリした空気が漂う。どの選手も、身体は極限まで絞り込まれており、並々ならぬ気迫を感じる。富士ヒルクライムは注目度も高く、皆が狙いこむからこそ、表彰台の難度は高い。この大会を制するということは、日本のヒルクライム王者になること、とも言えるほどステイタスが高いのだ。



スタート!リアルスタート前ではあるが、戦いはもうすでに始まっている

定刻通り、6時30分に第1グループがスタート。主催者選抜クラスのみ、先頭の選手が計測開始ラインを越えた瞬間から、全員のタイム計測が始まるルールになっている。集団を作り協力しながらペースアップするなど、このクラスではロードレースに近い展開や駆け引きも見られ、白熱した戦いが展開される。
記録も重要だが、このクラスで最もステイタスがあるのは着順だ。メイン会場から計測開始地点までは追い越し禁止区間だが、位置取りを考えると、スタートの整列から、もうすでにレースは始まっているとも言えるだろう。



女子の主催者選抜は終始笑顔でリラックスした雰囲気が漂っていた

2分後に選抜女子グループがスタートしたが、笑顔で最前列を譲り合うなど、リラックスした様子が見えたのが印象的だった。風もあまりなく、気温はほんのり肌寒い程度。走りやすく、記録を狙うには絶好のコンディションだ。
第3スタートを見送った後は、会場内は一般参加者を送り出す体制に。ここからは30分の枠を刻む進行へと変わっていく。それぞれのグループの枠の切り替え時間にはやはり整列があり、少々混み合うが、10分も経てば、かなり空いた状態でスタートできる。重要なのは個々のタイムになるため、当然だが混み合っていないタイミングに出た方が実力を発揮しやすい。ただし、勾配の緩い区間などで誰かと協調してペースを作りたいなら、似通った力量の協力者を探せる方がタイムを縮めやすく、ある程度他の参加者がいた方がよいことになる。また、あまり遅く出ると次のグループの先頭に突き上げられる可能性もあるだろう。「どのタイミングで出るか」も、今年は参加者の新しい戦略のひとつになった。



30分の枠の中、自分のタイミングでスタートしていく参加者たち。自由度が高く、開放感あるスタートになった



出ていく参加者たちを拍手で4時間見送り続けたボランティアスタッフの皆さん。がらんとした会場に温かさをもたらしてくれた

この大会を目標に掲げ、乗り込んでくる参加者が多い。例年のスタートは緊張感が漂うことが多いのだが、今年は、ほがらかな表情で現れ、手を振って出ていく参加者が多かった。コロナ禍の中、ようやく得た「皆で走る機会」の到来に喜びを感じ、記録を狙うより、楽しむために来た参加者が多かったのかもしれない。
実は、一般スタートが2つ目のグループに差し掛かるころ、もうすでにトップはフィニッシュしていた。優勝した池田隆人選手のタイムは、なんと、56分21秒56! 大会新記録を更新し、初の56分台に乗せた。しかも2位に1分30秒もの差をつけての独走優勝。高低差1255m、距離にして24kmの道のりを独走で56分とは、あまりにもまばゆいリザルトだ。



注目の主催者選抜では早々にアタックが決まり、先頭集団が形成された



ほどなく、先頭は池田選手と加藤選手の2名に絞り込まれる

今回は歴代チャンピオンなど、名の知れ渡ったヒルクライマーたちが参加を自粛したことで、マークしたり、飛び出しをチェックしたりという動きが起きにくかったことも、レースの展開を左右したかもしれない。レース開始後早々にアタックが仕掛けられ始め、形成された4名の集団から、2名がこぼれ落ち、早い段階で池田選手と加藤大貴選手の2名に絞り込まれたのだという。2名と集団の差は大きく開いた。



15kmを残し、独走に持ち込んだ池田選手。無謀にも見えたが、本人には勝算があったのだろう

まだ15kmもの距離を残しているにもかかわらず、池田選手は加藤選手を振り切り独走状態に。一方、メイン集団は不慣れな集団管理で意思の統率が難しいのか、差を詰めきれずにトップの池田選手との差を一時3分まで許してしまう。



悠々とトップでフィニッシュした池田選手。記録は驚異の大会新記録だった



3位はスプリントで決着

池田選手は最後まで独走し、悠々とトップでフィニッシュ、2位は一人になっても粘った加藤選手が入った。3位の座にはスプリントを制した池田隆人選手が滑り込んだ。



激戦の主催者選抜クラスで表彰台を勝ち取った3名

25歳の池田選手は、インドアのオンライントレーニング中心で実力をつけてきた、まさに新世代の新星。これから、トレーニングの常識も、変わってくるのかもしれないと感じさせた。



女子の選抜クラス。スタート後は表情も一変、真剣勝負に



2度目の優勝を飾った望月選手

女子の選抜クラスは2人旅となり、終盤の1対1の勝負に競り勝った望月美和子選手が2回目の優勝を飾った。



はじけるような笑顔が印象的だった主催者選抜女子の表彰台

参加者が次々フィニッシュラインになだれ込んでくる。前回の参加から記録更新を叶えた人もいれば、タイムを落とした人もいる。また、タイムにそもそも関心はなく、走ることを楽しむために参加した人や、完走を目標に挑戦した人もおり、目当てはさまざまだ。



最高の笑顔でフィニッシュする参加者たち



5合目に到達し、達成感あふれる表情を見せる参加者たち。「疲れた!でも、楽しかった!」そんな声が聞こえてきそうだ



富士山を背景に。がんばった思い出は、記憶に刻まれることだろう

フィニッシュ後は順次下山グループを作り、グループごとに右車線を使って下山を進めていくため、5合目の滞留時間も短くすることができる。



動きが少なく、寒風が吹き付ける下山は身体を冷やす。防寒対策の一助に簡易防風ベストが支給された

日本一の高さを誇る富士山を、自分の力で上っていく行程には、心を揺さぶる感動がある。雲海の中を抜け、フィニッシュラインを越える瞬間に湧き上がる達成感は、とても大きいと多くの参加者が語る。この壮大な体験が、リピーターを招いているのだろう。



富士スバルラインを走る



雲海を眺めながら走る。まさに絶景だ

この日、実際にスタートしたのは4700名あまりだったというが、登坂、下山を通し、事故はゼロ。参加者の意識の高さと、安全を守るための運営が両輪となって成し遂げた実績だと言える。



下山時は安全走行へと誘導するために、有志の下山パトロール隊を先頭にペース管理を行い、集団で下る



安全管理策があり、参加者の理解と協力があるからこそ、登坂/下山の参加者の対面通行が可能に



笑顔で下山に向かう参加者たち

これまでは「人気ヒルクライム大会とは、参加者で混み合うコースを走るもの」という認識があったように思うが、コロナ禍で、その感覚は覆された。「密を作らない」運営を目指し、工夫を重ねる中で、結果的にコースは余裕ができ、長時間スタートを待つ必要もない参加者の快適性が向上されることになったのだ。



下山後、ステージ上で記念撮影をするため順番待ちをする参加者たち

参加者にはレース、下山時以外のマスク着用、会場への参加者以外の立ち入り禁止など、例年にないルールが課せられた。そのため、にぎわいも生まれず、お祭り感はなくなってしまったが、シンプルに、そしてじっくりと、走行する楽しさと、富士山の大自然を堪能できたのではないだろうか。雨に見舞われた参加者が多かったようだが、下山後は、達成感みなぎる表情を浮かべていた。
雨風が強く吹き付け、体感気温が下がる時間帯もあったが、それでも完走率は97%以上! 非常に多くの参加者がゴールの充実感を味わったことになる。



大きく、美しい姿を見せた富士山。その特別なオーラは、挑むものにパワーを授けてくれる

世界遺産である富士山に上るMt.富士ヒルクライム。一度挑戦したら、その魅力に、やみつきになってしまうのかもしれない__。

画像:Mt.富士ヒルクライム大会実行委員会、編集部