436ヤードという長くて難易度の高い18番パー4で行なわれたプレーオフ3ホール目。残り171ヤードのセカンドショットを堀琴音が放つと、朝から冷静に淡々と、黙して無表情でプレーしてきた彼女から、思わず甲高い声が漏れた。いや、気持ちがこもって…

 436ヤードという長くて難易度の高い18番パー4で行なわれたプレーオフ3ホール目。残り171ヤードのセカンドショットを堀琴音が放つと、朝から冷静に淡々と、黙して無表情でプレーしてきた彼女から、思わず甲高い声が漏れた。いや、気持ちがこもって自然と声が出たのかもしれない。

「ゴーッ!」

 白いボールはピン方向に真っ直ぐ向かい、手前3mにつく。一方、優勝を争う若林舞衣子はティーショットが少し乱れてパーオンならず。事実上、勝負が決した一打と言えた。

 ニッポンハムレディス(北海道・桂GC)はプロ8年目の25歳、堀が初めてツアー優勝を飾った大会となり、試合後の会見ではこう語った。

「苦しかった思い出が全部、込み上げてきて......頭が真っ白になって、泣いてしまいました。長かった。その分、ずっと忘れられないだろうな。最後まで"気持ちだけは強く"とずっと思っていた。それを貫き通せたことが勝因だと思います」



ニッポンハムレディスでツアー初優勝を遂げた堀琴音

 最終日は首位の若林とは2打差の単独2位でスタートした。おはようバーディーで好スタートを切り、3番で一時並んだものの、その後に若林もバーディーを重ね、12番を終えた時点で再び2打差をつけられた。

 だが、堀が14番、15番と連続バーディーを決めて、再び若林を捕らえる。そのまま2人は通算14アンダーで並んでフィニッシュした。

「何年か前に優勝争いした時は、ソワソワして緊張していた。今日は緊張より、楽しみが勝った。出だしのバーディーも、ショットがピンに絡んでくれたから。4日間通して、ショットがよかったと思います」

 2014年のプロテスト合格後、「期待の新人」として大きな注目を集めた堀はその評判どおり、ツアー本格参戦1年目の2015年シーズンでシード権を獲得し、翌2016年シーズンには賞金ランキング11位となった。

 しかし、目標のツアー優勝はつかめぬまま、2018年シーズンにはシードを失って、長い低迷に陥ってしまう。その間、レギュラーツアー47戦(2018年~2020年)に挑みながら、予選通過はわずか6試合にとどまった。こうして、堀の存在感が女子ゴルフ界から消えた時期、黄金世代からミレニアム世代、新世紀世代まで、堀よりも若い世代が席巻した。

「(若い選手たちは)簡単そうに優勝しているように、私には見えた。優勝って、そんな簡単じゃないのにな......すごいな、と」

 若い世代の台頭を横目に、ティーグラウンドに立てばドライバーが真っ直ぐ飛ばず、夜も不安で心臓がバクバク鼓動して寝られない。結果、疲れも抜けない。

「このまま私の人生はスッキリしないまま終わるんじゃないかとか、ゴルフをやめたいなとか思った時もあったし、やめられない自分もいた。苦しかった時、(森守洋)コーチや原江里菜さんに支えていただきました。原さんには『練習をしているということは、まだゴルフが好きだということだし、諦められないと思うからがんばろう』と、前向きな言葉をかけていただいて、そのおかげで今ここにいる」

 7歳でゴルフを始めるきっかけとなった3学年上の姉・奈津佳は、これまでにツアー2勝を挙げている。姉の背中を追い続けるゴルフ人生でもある。この日、妹に内緒で、奈津佳は会場を訪れていた。

「プレーオフが終わって、姉がいるのを知ったのでびっくりした。姉は『初優勝を見たい』と言ってくれていたので、その姉がいるということは(私が)初優勝できると思っていてくれたんだな、と。そう思うとうれしいし、やっぱり姉の前で初優勝できてよかった。私も早くもう1勝したいし、いつかは姉妹で優勝争いしてみたい」

 デビュー時に比べて体重が6kg増え、4日間競技にも耐えうる力をつけて、優勝のチャンスに備えていた。それもまた、この長期戦を勝ち抜けた要因だと彼女は振り返った。

 逞しさを増した堀が、あまりに長かったトンネンルを抜け、姉との優勝争いという次の夢を追う。