元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2021年名古屋場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、久しぶりに地方開催となった名古屋場所で注視すべきポイント、気になる力士について解説…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2021年名古屋場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、久しぶりに地方開催となった名古屋場所で注視すべきポイント、気になる力士について解説してもらった――。

 7月4日から大相撲名古屋場所(7月場所)が始まりました。

 昨年3月の春場所(3月場所)以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、大相撲本場所は地方開催をせず、すべて東京・両国国技館で開催してきました。

 今回は、国技館が東京五輪のボクシング会場になっていることもあって、1年4カ月ぶりに東京を離れて、以前のように名古屋で本場所を開催することになりました。

 名古屋への移動に際しては、感染対策を徹底しました。協会員全員が事前にワクチンを接種。公共交通機関の利用も極力控えて、わが錣山部屋では名古屋までバスをチャーターして移動しました。

 また、場所中も部屋の力士たちは、宿舎から会場のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)まで、部屋の送迎車かタクシーを使用。日々感染防止に務め、まだまだ気を許すことはありません。

 地方場所というと、通常であれば、その土地のファンの方々や子どもたちが連日部屋に訪れてくれて、稽古場も賑わっていました。それが、今はそういう触れ合いができません。正直、寂しいですよね。でもいつかまた、以前のような生活スタイルに戻って、世の中はもちろん、大相撲界が活気づいてくれることを願っています。

 土俵のほうに目を向けると、今場所は「綱取り」がかかっている大関・照ノ富士の強さが際立っています。春場所、夏場所(5月場所)と連続優勝。一時は序二段まで番付を下げた"苦労人"が、気がつけば、あと一歩で横綱に手が届くところまできています。それはもう、本当に凄まじい気力だと思います。

 古傷のヒザの調子は決して万全ではないのでしょうが、そんな状態にあっても、小手投げなどほとんど打たず、どっしりと構えた相撲ができているのは大きいです。強引な相撲は完全に影を潜めています。このまま、今の安定感を維持していってほしいと思います。

 ケガや内臓疾患などで番付を下げて、苦悩の日々を送ってきた照ノ富士。どん底から復活を果たすまでの過程で、"我慢する"という強さを身につけたのでしょう。とにかく、他の力士とは地力が違います。今場所ももちろん、優勝候補ナンバーワンと言えます。

 一方、連続休場から土俵復帰した横綱・白鵬は、「進退をかける」場所となっています。途中休場したふた場所前の春場所後、ヒザの手術を敢行。力士との稽古ができたのはここ最近だと聞いていたので、実戦となるとキツいかな、と思っていました。

 実際、序盤戦はそれこそ薄氷を踏むような相撲となっていますが、なんとか勝ち星に結びつけています。さすが横綱、といったところでしょうか。

 ようやく出場にこぎつけた白鵬に、いきなり優勝を望むのは酷なことかもしれません。とはいえ、それなりの成績を挙げて、次につなげてほしい。横綱土俵入りを見られないのは、ファンの方々も寂しいでしょうからね......。

 さて、先場所、前頭5枚目で初めて上位対戦を果たした豊昇龍(前頭5枚目)が、今場所も元気な姿を見せています。先場所では2日連続で大関・朝乃山、正代と対戦し、いずれも鮮やかな足技で仕留めました。持ち味である体の柔らかさの賜物でしょう。

 豊昇龍と言えば、68代横綱・朝青龍の甥としても知られていますが、確かに大関に勝った時に見せた笑顔は茶目っ気たっぷりで、叔父さんにそっくりでした。ただ、叔父さんと比べると、現状は迫力に欠けるかもしれません。力強さという点でも、まだまだと言えます。

 それでも、負けん気は強そう。今後が楽しみです。



今後が楽しみな若手力士のひとり、豊昇龍

 彼がここまで成長してきたのは、所属する立浪部屋の環境も大きいと思います。なにしろ、兄弟子の明生が今場所新三役(小結)に昇進し、豊昇龍も「オレだって!」と闘志を燃やしているはず。さらに、十両には天空海(十両2枚目)という大型力士がいて、稽古相手にも恵まれていますからね。

 長らく低迷していた逸ノ城も、幕内上位(前頭2枚目)に復帰。久しぶりに力強い相撲を見せています。特に立ち合いの踏み込みがすばらしいです。

 身長192cm、体重200kgの巨漢。2014年、スピード出世で幕内に上がってきた頃は「モンスター」と称される破壊力で、すぐにでも三役から大関へと昇進するのではないかと思われていました。そして、遠藤(前頭筆頭)とともに、当時の相撲人気を引っ張ってきた功労者でもあります。

 そんな逸ノ城も、すでに28歳。そろそろ目を覚ましてもらわないといけません。このまま終盤戦まで、照ノ富士らと優勝争いを演じてくれたら、この名古屋場所は大いに盛り上がるのではないでしょうか。

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。