堀琴音インタビュー(後編)2年あまり低迷していた堀琴音だったが、今年に入ってから復調の兆しを見せている。今回は、かつて「若手有望株」と称された彼女の過去を振り返りつつ、多くのファンが期待しているツアー初優勝への思いを聞いた――。前編はこちら…

堀琴音インタビュー(後編)

2年あまり低迷していた堀琴音だったが、今年に入ってから復調の兆しを見せている。今回は、かつて「若手有望株」と称された彼女の過去を振り返りつつ、多くのファンが期待しているツアー初優勝への思いを聞いた――。

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――ここ数年は本当に苦しい状況にあったと思います。そんななか、やはり森守洋コーチの存在は大きかったですか。

「そうですね。初めて森コーチに会った時、『私って、イップスですかね?』と聞いたら、『こっちゃん(堀琴音の愛称)は絶対にイップスじゃないよ』って言われたんです。

 実はその前から『(堀琴音は)イップスかもしれない』って、直接聞いたわけではないけれど、そういう話が自然と私の耳に入ってきて......。自分でもイップスじゃないと思いつつも、本当は不安だったんです。『本当にそうだったらどうしよう......』『治るのかな......』と考えたりして。

 でも、森コーチは『絶対に違うよ』と断言してくれた。その時、この人の言うことなら耳に入るかもしれないって、思えるようになりました。そんなふうに言い切ってくれた人は初めてだったし、うれしかった。それで、自分自身、スッキリした感覚がありました」

――さて、過去の話も少し聞かせていただけますでしょうか。2014年7月にアマチュアながらステップ・アップ・ツアー(ABCレディース)で優勝。そこから一気に注目を集める存在になりました。

「あの試合はプロテストの直前でした。あの優勝があったから、プロテストに合格できたと思いますし、プロになってもやっていけるという自信にもつながりました。何事も1番になるのって難しいじゃないですか。ステップ・アップ・ツアーとはいえ、プロの試合で初めて1番になれた、というのは大きな自信になりましたね」

――プロテスト合格後もステップ・アップ・ツアーで結果を出して、翌2015年にはレギュラーツアーに本格参戦を果たし、賞金ランキング33位。1年目から見事にシード権を獲得しました。

「正直、1年目はすごく"壁"を感じました。ひと言で言ったら、すごく疲れた一年。全国各地、ホテルを移動しての連戦。プレーするコースもすべて初めてでした。当然、家にはなかなか帰れませんし、そういったことが少しずつ溜まっていって、ストレスになっていましたね。シード権は獲れましたけど、"プロの壁"を感じた一年でした」

――ツアー2年目(2016年シーズン)も活躍。とりわけ印象に残っているのは、日本女子オープンです。当時アマチュアだった畑岡奈紗選手と熾烈なトップ争いを演じて、惜しくも2位。ご本人としてはいかがでしょう、やはり悔しい思い出として残っていますか。

「その時の話は、いまだによく聞かれます(苦笑)。やっぱり、みんなの中で強い印象に残っているのかなぁって思います。

 確かに(自分でも)一番悔しかった試合だったかもしれません。試合が終わった瞬間はそこまで悔しい思いはなかったのですが、宿泊先に戻って時間が経つに連れて、いろいろな感情がこみ上げてきて......。やっぱり勝ちたかったなと思ったし、悔しかったし、夜も(日付が変わって)3時、4時くらいまで寝られませんでした。

 周囲の反応も大きかったですね。優勝できなかったのに、メールが普段よりも多く、100通以上は来ていました。それも、すごく言葉を絞り出して書いたんだろうな、という内容が多かった(苦笑)。負けた私に、気を遣ってくれたことがよくわかります」

――ともあれ、同シーズンでは賞金ランキング11位という成績を残しました。プロとして、かなりの手応えを得られたのではないでしょうか。

「ツアー1年目に比べて、しんどいと感じることはなかったですね。ツアーに慣れてきた、ということもあったと思います。

 自分にとっては、衝撃的な一年でもありました。まさか自分が日本女子オープンで優勝争いできるとは思っていなかったですし、最終戦のLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップにも出たいとは思っていましたけど、本当に出られるとは思っていませんでしたから。ツアー終了後には、日立3ツアーズ選手権(男子、女子、シニアの3ツアーの対抗戦)にも出場させてもらって、すごくいろんな経験ができた年として記憶しています」

――翌2017年シーズンは当然、もっと上を目指していたと思います。

「この年が一番重要だろうなと思っていました。前年に自己ベストの賞金ランキングを残して、その翌年で崩れたら、自信をなくす可能性もあるだろうから、この年は『絶対にシードを落としちゃいけない』という思いで臨みました。

 もちろん、レギュラーツアーでの初優勝も目指していました。同時に、トップ10フィニッシュの回数を増やしたいなと思ったシーズンでした。最終的にこの年もシードは獲れましたが(賞金ランキング21位)、優勝できない悔しさがあったので、(オフには)もっと練習やトレーニングをしていかないといけないな、と思っていました」

――しかし、2018年シーズンは思わぬ不振に......。今はすごくイキイキとした表情をしていますが、その当時はさすがに人を寄せつけない雰囲気がありました。

「ハハハッ(苦笑)。人の話を聞くことができませんでしたからね。また、20歳そこそこの頃でも、根拠のない自信みたいなものがあって、周りから『気が強く見える』ってよく言われていました。でも、私は意外と慎重派なんですよ。自らの性格を自己分析すると"心配性"です」

――堀選手の同世代では、柏原明日架選手が同様に注目されていました。堀選手が苦しい状況にあるなか、2019年シーズンに2勝を挙げています。その姿をどんなふうに見ていましたか。

「当時の私は試合に出られなかったので、その姿をテレビで見ていました。思ったことは『すごいな』と。(自分の)ゴルフの調子が一番悪かった時期でしたし、本当に『すごいな』という感情しかなかったです。悔しいとか、そういう感情は一切ありませんでした」

――現在、ツアーを席巻している"黄金世代"をはじめ、若い世代の選手たちの活躍を見て、何か感じることはありますか。

「私もがんばらないといけないなって思います。いろんな世代ががんばったほうが、女子ツアー全体が盛り上がると思いますし、その意味でも、私たち世代もがんばらないといけない。ですから、若い選手たちの活躍は、いい刺激になっています」

――シード復帰も見えてきて、メディアへの露出も以前のように増えてきました。堀選手ご自身は、注目されたいタイプですか。

「やっぱりプロですから、見られてなんぼ、という思いはありますよね。アース・モンダミンカップでは、久しぶりにギャラリーがいるなかでプレーして、すごく楽しかったですし。

 声援を受けながらプレーできることが、本当にうれしかったです。バーディーをとったら『ナイスバーディー!』と声が上がって、ピンに絡むようなショットを打つと大きな拍手をしてくれる――そういうのが、自らのエネルギーになっていたんだなと改めて思いました」

――まだ25歳という若さでありながら、プロになってからのこの数年間は、まさに波乱万丈の時を過ごしてきました。その間、寄ってくる人もいれば、離れていく人もいたでしょうし、さまざまなことを経験したと思います。その過去を改めて振り返ってみて、今、どういった思いでいますか。

「私の成績が悪い時でも支えてくれた人の中には、いつでも私から離れるタイミングがあったと思うんです。でも、それでも離れずに支えてくれ、今なお応援し続けてくれることは、すごくうれしく思います。それって、すごく幸せなことだな、と。本当にありがたいです」

――ツアー初優勝が今後の目標となると思います。

「はい。(優勝への距離感も)以前より、近くなっていると感じています。1、2年目のときより技術は向上していますし、優勝したい気持ちも強いです。できることなら、今年中に果たしたいと思っています」

(おわり)

堀琴音(ほり・ことね)
1996年3月3日生まれ。徳島県出身。身長163cm。A型。2015年シーズンにツアー本格参戦を果たし、1年目からシード権を獲得。ツアーを背負って立つ"大器"として期待される存在だったが、2018年シーズンを迎えて突如の不振に陥る。しかし今年、復調の気配を見せてツアー初優勝を目指す。7月5日現在、賞金ランキング41位(獲得賞金2746万1332円)