ユーロ2020準々決勝までの5試合、スペインのボール支配率は1試合平均73.4%を示した。苦戦しながらも、スペインらし…
ユーロ2020準々決勝までの5試合、スペインのボール支配率は1試合平均73.4%を示した。苦戦しながらも、スペインらしい戦い方でなんとか勝ち上がってきた。イタリアは対照的だった。従来とは異なる方法論で勝ち上がってきた。
イタリアは守備的サッカーを定番としてきた国だ。その流れで欧州の頂点を極めたが、90年代後半になるとライバルが現れた。オランダサッカーの影響を受け、攻撃的なサッカーに変貌を遂げたスペインである。21世紀に入ると、守備的なサッカーにこだわるイタリアは、欧州の盟主の座をスペインに奪われることになった。
イタリア対スペイン。お互いは守備的サッカー対攻撃的サッカーの関係で20数年間に渡り、睨み合いを続けてきた。サッカー談義をする時、何かと引き合いに出されやすい、わかりやすい対立軸を形成することになった。
ところが、2018年にイタリア代表監督に就任したロベルト・マンチーニは違った。方向転換を図った。サイド攻撃にこだわりながらボールを保持し、その一方で、ボールを奪われるやハイプレスに転じる、文字通りの攻撃的サッカーを標榜している。
今大会、準々決勝まで5試合のボール支配率の平均値は57.6%だ。スペインの73.4%には及ばないものの、その分、サイド攻撃にスピード感があり、攻撃的な色は、むしろ鮮明となっている。

スペインをPK戦の末に下して決勝に進出したイタリアの選手たち
ウェンブリーで行なわれた準決勝。最大の注目点は、攻撃的サッカーを展開するのはイタリアなのか、スペインなのか、だった。
答えはスペイン。攻めるスペイン対守るイタリア。両者は20数年来の関係そのままに対峙することになった。イタリアは自ら引いたわけではない。攻めたくても攻められない状態に陥ったのである。
今大会、準々決勝まで活躍してきた左サイドバック(SB)、レオナルド・スピナッツォーラ(ローマ)を、負傷で欠いたことをその内的要因とすれば、外的要因は、スペインに中盤を支配されたことにある。
スペインのルイス・エンリケ監督はこの試合、4-3-3の1トップにストライカータイプのアルバロ・モラタ(ユベントス)ではなく、それまで主にウイングを務めてきたダニ・オルモ(ライプツィヒ)を、0トップ然と構えさせた。つまり、3人だった中盤は、4人に限りなく近づいた。4-3-3を敷き、3人の中盤でオーソドックスに戦うイタリアに対し、ピッチの中央付近で数的優位な関係を築くことになった。
ダニ・オルモ、さらには弱冠18歳のペドリ(バルセロナ)が、そこで卓越した足技を発揮した。前半の支配率はイタリア39%イタリア対スペイン61%。振り返るならば、スペインはマイペースを維持するこの関係に、安心してしまったのかもしれない。
下馬評で勝っていたのはイタリアだ。決勝トーナメント1回戦終了時までは、スペインがイタリアに対して優位に立っていたが、準々決勝で、イタリアが世界ランク1位のベルギーを下し、スペインがスイスに苦戦(延長PK勝ち)すると、両者の関係は逆転した。
スペインは、イタリアにゲームをコントロールされるのではないかという不安を抱きながら、この試合に臨んだのではないかと思われる。その心配が杞憂に終わったことに、満足したのではないか。パス回しに酔いしれた感、なきにしもあらずだった。
攻めるスペイン対守るイタリアという構図は、よく考えれば、従来と同じだった。攻撃的サッカーに変身したとはいえ、イタリア人選手はもともと、劣勢を苦にしない気質を備えている。精神的には、むしろ優位な立場にあったとさえ思われる。後半15分、イタリアの右ウイング、フェデリコ・キエーザ(ユベントス)が叩き出した先制点には、高い必然性を覚えるのだった。
1-0でリードという展開にめっぽう強いイタリア。その逃げ切りなるかに焦点が集まるなか、スペインは失点の直後、モラタを投入した。すると後半35分、そのモラタが、同点弾をゲットする。ピッチの中央を好調ダニ・オルモとの技巧的なワンツーで鮮やかに抜け出すと、左足でイタリアゴールに冷静に流し込んだ。
モラタとダニ・オルモ。だがこの2人が、1-1のまま延長戦を経て行なわれたPK戦で、揃って失敗する展開になるとは......。
スペインとイタリアは2008年、ウィーンのエルンスト・ハッペルで対戦したユーロの準々決勝でも、PK戦に及んでいる。勝ったのはスペインで、その余勢を駆り、準決勝でロシア、決勝でドイツを破り、欧州一に輝いた。
◆ユーロでイタリア代表が「全力国家斉唱」。選手たちが気合が入りまくりの理由
続く2010年南アフリカW杯、2012年ユーロと、国際舞台で3連覇を達成し、黄金時代を築いたわけだが、もし2008年の準々決勝でイタリアにPK負けしていたら、スペインに黄金時代は到来しただろうか。PK戦が抽選に代わる手段として始まった経緯を踏まえると、その勝利というのは、幸運そのものだ。PK戦を天の配剤とするならば、スペインの今回の敗戦は、順番通りの結果と捉えるべきかもしれない。
客観的に見て、勝利に値するサッカーをしたのはスペインだった。しかし一方でイタリアも、かつてのように5バックで守り倒そうとしたわけではない。痛くもないのに、ピッチに倒れ込み、時間を稼ごうとしたわけでもない。延長後半に入ってもゴールを奪う姿勢を見せていた。PK勝ちは、そうした非守備的サッカーを展開したイタリアへのご褒美なのかもしれない。
いずれにしても好勝負だった。名勝負の域には達しないが、欧州サッカーの真髄を見るようなハイレベルな、伝統を感じさせる一戦だった。なにより両国のお国柄、サッカーの色が、ピッチ上によく反映されていた。フランス、ドイツ、イングランドなど、代表選手が多民族化する傾向を示す中で、スペイン、イタリア両国は、よくも悪くも、その流れとは異なる構成だった。スペイン人らしさ、イタリア人らしさを存分に漂わせる、言ってみればクラシカルなサッカーを展開した。それが、筆者の目には逆に新鮮に見えたのだった。
決勝戦。注目すべきはイタリアが、イングランドあるいはデンマーク相手に、どこまで攻撃的サッカーを披露できるか、だ。強みは、使える駒を多く揃えていることにある。グループリーグの段階から、マンチーニ監督は決勝進出を見据えているかのように、多くの選手を起用してきた。登録メンバー26人中、第3GKアレックス・メレト(ナポリ)以外の25選手を、グループリーグが終了した段階で、ピッチに送り込んでいる。前回2016年のユーロを制したポルトガルのフェルナンド・サントス監督を彷彿させる、短期集中大会に適した采配を振っている。結果はいかに。楽しみである。